EDINETで大量保有報告を見るのが趣味になってきた。
そしたら高頻度で光通信の名前があって、ソフトバンクっぽく投資会社になってるなーって印象はあったけど、どんな感じなんだろと思って調査。
例のごとくGemini君とわちゃわちゃしながら整理してます。
それではさっそく。ドン。
光通信(Hikari Tsushin, Inc.)に対する「いつの間にか投資会社になっている」という市場の認識は、単なる印象論ではなく、同社の資本配分戦略、利益構造、そして経営陣の意志によって裏付けられた「事実」である。かつてモバイル通信機器やOA機器の販売という「実業」の猛者として知られた同社は、現在、その強力な営業キャッシュフローを原資として、上場企業への戦略的投資を行う「投資コングロマリット」へと変貌を遂げている。
本レポートは、2025年後半における同社の大量保有報告書の提出状況、経営陣によるM&A戦略への言及、および財務構造の変化を網羅的に分析したものである。分析の結果、同社が単なるポートフォリオ投資を行っているのではなく、ウォーレン・バフェット氏やチャーリー・マンガー氏の投資哲学を意識した「バリュー投資」と、自社の事業ドメインと親和性の高い「ストックビジネス」への支配権確立を企図した戦略的買収のハイブリッド戦略を展開していることが明らかになった。
特に2025年11月期における集中的な株式取得活動は、ITインフラ、システムインテグレーター、および化学セクター等の「割安かつ高キャッシュフロー」企業への資本投下を加速させており、同社が日本市場における「物言わぬ巨人」から「規律あるマーケット・アクター」としての地位を確立しつつあることを示唆している。
光通信の変貌を理解するためには、まずその根底にある投資哲学の変化と、経営陣が公に語る戦略的意図を解剖する必要がある。
多くの日本企業がM&Aを経営企画の一部として捉える中、光通信の経営陣にとって投資活動は「コア・コンピタンス」そのものである。2025年3月期決算説明会の質疑応答において、経営陣はM&Aに対する並々ならぬ情熱を吐露している。
「一番興味があることはM&Aです。常にいくつかのM&Aの案件を抱えていますので、どうしたら安く買えるか、毎朝毎晩、夢の中でも考えております。」1
この発言は、同社が受動的な投資家ではなく、常にディール・フローの中に身を置き、バリュエーション(価格評価)にシビアな視線を注いでいることを示している。「どうしたら安く買えるか」という文言からは、成長性のみを追うグロース投資ではなく、本質的価値と市場価格の乖離を突く「バリュー投資」への傾倒が見て取れる。
同社が単なる金融投資ではなく、長期的な企業価値向上を目指す投資家であることを裏付ける重要な証左として、米国の投資会社バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)への言及が挙げられる。
質疑応答において、ウォーレン・バフェット氏の盟友であるチャーリー・マンガー氏の退任(死去)に伴う、同社のバークシャー株保有方針への影響を問われた際、経営陣は以下のように回答している。
「今のところ変更はございません。チャーリー・マンガー氏のスピリットも現在のバークシャーで生きていると考えています。」1
この回答は、光通信がバークシャー・ハサウェイを単なる投資先として見ているだけでなく、その投資哲学―すなわち、優れたビジネスモデルを持つ企業を適正な価格で取得し、長期的に保有し続けること―に共鳴していることを示唆している。日本の事業会社が、自社の投資行動の指針としてマンガー氏の「スピリット」に言及することは極めて稀であり、これは光通信が自らを「日本のバークシャー」と位置付けようとしている証左とも解釈できる。
光通信の投資戦略は、同社の祖業である「販売代理店ビジネス」の特性と深くリンクしている。同社は伝統的に、一度の販売で終わる「フロー収益」よりも、継続的に課金が発生する「ストック収益」を重視してきた。
この「ストック重視」の思想は、株式投資にも色濃く反映されている。投資対象となる企業の多くは、システム保守、インフラ提供、あるいは安定した配当能力を持つ企業であり、それらから得られる「受取配当金」や「持分法投資損益」は、会計上の利益において第二のストック収益として機能している。すなわち、光通信にとって投資とは、有価証券の売買益(キャピタルゲイン)のみを狙うものではなく、永続的なキャッシュフロー(インカムゲイン)の獲得手段として位置づけられているのである。
「いつの間にか投資会社になっている」という印象を決定づけるのが、頻繁に提出される「大量保有報告書」の存在である。金融商品取引法に基づく「5%ルール」は、上場企業の株式を5%以上保有した場合、あるいはその後1%以上の増減があった場合に報告を義務付けている。2025年11月を中心とした同社の提出状況を詳細に分析すると、明確なセクター選好と取得の意志が浮かび上がる。
以下の表は、関連データより抽出された光通信による主な株式保有動向である。特に2025年11月中旬に活動が集中しており、極めてアクティブな資本配分が行われていることがわかる。
対象企業名 | 証券コード | 業種 | 報告義務発生日 | 変動内容 | 保有割合 | 備考・出典 |
(株)両毛システムズ | 9691 | 情報・通信 | 2025-11-11 | 新規保有(5%超) | 5.01% | 群馬県地盤の独立系SIer。新規に5%の壁を突破。2 |
(株)日本オーエー研究所 | 5241 | 情報・通信 | 2025-11-xx | 買い増し(5%超) | 5.25% | 新たに5%を超過したことが判明。3 |
(株)グリムス | 3150 | 卸売業(電力) | 2025-11-14 | 買い増し | - | 変更報告書提出。同社事業(電力小売り)とのシナジー大。4 |
(株)Ubicomホールディングス | 3937 | 情報・通信 | 2025-11-14 | 買い増し | - | 医療IT・グローバル事業。青木正之氏(個人)の動きも観測。5 |
(株)昭文社ホールディングス | 9475 | 情報・通信 | 2025-11-19 | 買い増し | - | 地図データ大手。PBR1倍割れの代表格。6 |
テイカ(株) | 4027 | 化学 | 2025-11-17 | 買い増し | - | 化学セクターへの多角化投資。4 |
(株)CIJ | 4826 | 情報・通信 | 2025-11-18 | 保有減少 | - | 利益確定またはポートフォリオ入替の動き。6 |
2025年11月の動向で最も顕著なのは、両毛システムズ(9691)、日本オーエー研究所(5241)、Ubicomホールディングス(3937)、CIJ(4826) といったIT・システム関連企業への関与である。
これらの投資は、単なる割安株投資である以上に、DX(デジタルトランスフォーメーション)需要の恩恵を受け続けるSIer業界全体への「バスケット買い」の側面と、業界再編を見越した戦略的ポジショニングの側面があると考えられる。
グリムス(3150) への投資拡大4は、光通信自身の事業ポートフォリオとの直接的なシナジーを示唆している。光通信は電力の小売り事業(新電力)を展開しており、同業あるいは関連領域にあるグリムスの株式を積み増すことは、業界内での発言力強化や、将来的な事業提携、あるいは顧客基盤の相互活用といった実業面でのメリットを内包している可能性がある。これは純粋投資と事業投資の境界線上に位置する動きである。
昭文社ホールディングス(9475) や テイカ(4027) への投資4は、典型的な「資産バリュー株」へのアプローチと推察される。特に昭文社のような地図・データ保有企業や、テイカのような化学メーカーは、保有資産や技術力に対して時価総額が低く評価されている(低PBR)ケースが多い。
光通信はこうした企業の大株主となることで、配当性向の向上や自社株買いといった株主還元策を暗に、あるいは明示的に要求し、市場評価の是正(マルチプル・エクスパンション)による利益享受を狙っていると考えられる。
重要な点は、光通信が「買い」一辺倒ではないことである。CIJ(4826) に関しては、2025年11月18日に「変更報告書(保有減少)」が提出されている6。これは、目標株価に到達した銘柄や、より魅力的な投資先が出現した場合には、冷静に利益確定を行い、資本を再配分(リサイクル)していることを示している。この規律ある売却行動こそが、同社が単なる持株会社ではなく、アクティブ・ファンドのような機能を有していることの証左である。
投資会社化は、光通信の財務諸表(P/L、B/S)に劇的な変化をもたらしている。投資活動による損益が、本業の営業利益と同等、あるいはそれ以上の変動要因となっている現状を分析する。
2025年3月期および2026年3月期の業績ガイダンスに関する質疑において、経営陣は業績変動の主因として以下の2点を挙げている1。
2026年3月期のガイダンスでは、営業利益が1,150億円へと増益を見込む一方で、税引前利益は1,472億円へと減少が予想されている。この乖離の要因として「投資損益」が挙げられていることは、同社の最終利益が、携帯電話が何台売れたかだけでなく、投資先企業の業績や株価、そして為替市場の動向に大きく左右される構造になっていることを意味する。
投資家にとって注目すべきは、同社の業績予想の「保守性」である。決算説明会において、経営陣は以下のように述べている。
「直近決算に当社の投資先の多くが増配を発表しており、受取配当金は増加する見込みですが、2026年3月期業績予想には織り込んでおりません。」1
これは極めて重要な示唆である。投資先からの配当増加が確実視される状況であっても、それをあえて業績予想に含めていないということは、実際の着地利益が予想を上回る(ポジティブ・サプライズとなる)構造的なバッファーが存在することを意味する。光通信は、投資先に対して増配を求める立場にあり、その成果が自身のP/Lに還流してくるエコシステムを構築しているが、その果実を保守的に見積もることで、市場の期待値をコントロールしているのである。
投資会社としての側面が強まる一方で、事業会社としてのオペレーショナル・リスクへの警戒感も怠っていない。経営陣は「最も懸念していることの一つ」としてランサムウェア攻撃を挙げており、「システムをいかに分散させるか」に重点的に取り組んでいると述べている1。
膨大な顧客データと、投資先情報を管理する同社にとって、サイバーセキュリティは存亡に関わるリスクである。この文脈において、前述したITインフラやSIer(両毛システムズ、Ubicom等)への投資は、単なる財務リターンだけでなく、セキュリティ対策やシステム分散化の知見をグループ内に取り込むための戦略的布石であるとも解釈できる。
光通信の投資行動は、日本の株式市場における「アクティビスト(物言う株主)」の文脈でどのように捉えるべきか。
かつての日本市場において、アクティビスト的な振る舞いをする株主は異端視され、経営陣との対立構造が強調されがちであった。しかし、近年のコーポレート・ガバナンス改革の流れの中で、株主の役割は再定義されている。
関連資料によれば、アクティビストは「単なる市場の問題児から、企業価値と株主価値を増大させる『理にかなったマーケット・アクター』としての存在感」を高めているとされる7。
光通信はこの潮流の最前線にいる。同社は必ずしも公然と経営陣を批判する(Hostileな)手法をとるとは限らないが、大量保有による議決権を背景に、水面下での対話(エンゲージメント)を通じて資本効率の改善を促していると推測される。外国人株主比率が高い日本市場において7、光通信のような国内の機関投資家が、合理的な資本論理で企業に変革を迫ることは、市場全体の活性化に寄与している側面がある。
光通信が投資先から得たリターン(配当・含み益)は、どのように使われているのか。その答えは、光通信自身の株主への強力な還元にある。
すなわち、光通信は「市場から割安な株を買い、配当を受け取り、そのキャッシュで自社株を買い、自社の株主価値を高める」という、資本の好循環(フライホイール)を回しているのである。
以上の調査・分析から導き出される結論は、ユーザーの「光通信は投資会社になっている」という直感は正鵠を射ているということである。しかし、より正確に表現するならば、同社は単なる投資ファンドになったのではなく、「強力なキャッシュフローを生む事業部門」と「そのキャッシュを最大効率で運用する投資部門」を両輪とする、現代的な「情報財閥」あるいは「ストラテジック・ホールディングス」へと進化したと言うべきである。
投資家にとっての光通信は、もはや単一の通信関連銘柄ではない。それは、日本の中小型バリュー株市場全体へのエクスポージャーを提供するETF(上場投資信託)のような性質を帯びており、その運用手腕(キャピタル・アロケーション)こそが評価の核心となるべき企業である。同社の今後の動向を追う上では、月次の営業数値以上に、大量保有報告書の提出状況と、投資先企業の資本政策の変化を注視する必要がある。
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