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SmartHRのテックブログ炎上は、多くの企業に「書くのが怖い」という空気を広げました。しかし、萎縮や自粛は短期的な“安全”と引き換えに、長期的な採用力の低下を招きます。いま一度、テックブログの役割を見直す必要があります。

今回の出来事についてはITmediaが詳しく報じています。

また問題点を整理したnoteも参考になります。本文はホンモノのチンパンジーについてなので問題ない、と思われた方にこそ読んで頂きたいです。

SmartHRの件を受けて、「企業はもうテックブログを書かないほうがいいのでは」といった意見も目立つようになりました。たとえば、はてな匿名ダイアリーでは「企業のテックブログは無価値なのでやめるべきだ」という強い主張も投稿されています。  

こうした“自粛論”は炎上後の空気感として理解できるものの、テックブログの本質的な価値や、現代の採用市場の構造を踏まえると必ずしも正しいとはいえません。むしろ、テックブログをやめてしまうことが採用面での不利につながりかねない状況が広がっています。

この記事では、この炎上が示した“テックブログの難しさ”そのものを議論するのではなく、アドベントカレンダーの最中に萎縮してしまった企業に向けて、改めて「なぜ書く必要があるのか」を採用市場の観点から整理します。

テックブログが求められてきた背景

テックブログは長らく、エンジニアにとっての自己実現やアウトプットの場として機能してきました。企業側にとっても、エンジニアカルチャーに理解があるというメッセージを伝える重要な手段でした。

また技術広報として技術的な取り組みを外部に届けるだけでなく、採用広報として候補者との接点づくりにも使われてきました。技術的な深掘り記事は、単なる企業ブログでは得られない信頼形成につながります。

テックブログのポイントや書き方については以下に整理しています。

エンジニアバブル後、テックブログの位置づけは変わった

しかし2022年以降、コロナ禍のカネ余り現象が終わってからは、余裕のある企業は少なくなりました。日経の記事にもある通り、特にスタートアップについては資金繰りが厳しい企業が増えています。

こうした状況下で、テックブログを書くことは大きな“工数負担”として扱われがちです。業務時間内で記事を書く場合、調査や検証、サンプルコードの作成、図版の準備が必要です。企業によっては広報や法務のチェックが入り、丁寧に運用しようとすると一記事につき一人日以上かかることもあります。

アドベントカレンダーで12月に連続して記事を出す企業は、社内の工数をそれだけ割いているということです。それを許容できる企業は、単純に寛容なのだと思います。またブログサイト自体の運用コストも無視できません。

こうした事情を踏まえると、経営層が「これだけ負担をかけるのなら、何かしらの成果がほしい」と考えるのは自然です。しかし、テックブログには即効性がありません。ブログ経由の応募は極めて少なく、PVをKPIにしてしまうと目標設定が破綻しやすい。PVを狙いすぎると、炎上しやすいテーマに寄ってしまい、企業ブランディングの毀損にもつながります。

私はテックブログの効果測定として、面接後アンケートで「どこで会社を知ったか」を複数回答で取得することを勧めています。テックブログだけでなく、カンファレンススポンサーや広告など、高額施策も含めて認知経路を可視化すると、地味に効き続けているチャネルが見えてきます。

それでもテックブログが必要な理由

ここからが本題です。

現在、ミドル層・シニア層の採用で最も決まりやすいチャネルは、リファラルか人材紹介です。しかし人材紹介はこうした層の“厚い需要”に対して供給側が追い付かず、紹介エージェントはSIerやコンサル大手の大量採用にリソースを割きがちです。紹介フィーが45%程度ならまだ良いほうで、100%に達する企業もあります。

その一方で大手派遣会社の大量採用も続いており、こちらも紹介エージェントにとっては“売上になりやすい上客”です。選考日数が短く、採用ハードルも低く、人材紹介フィーも悪くない。

こうした事情から、紹介会社が“普通の企業”に候補者を送る優先度は年々下がっています。以前のnoteでもこの構造を整理しました。

人材紹介が認知獲得の代行をしてくれていた時代は終わりつつあります。

では、どうやって候補者に知ってもらうのか。

直接応募にせよ、スカウトにせよ、リファラルにせよ、採用チャネルは認知があるほど強いです。「以前テックブログを読んだことがある」「あの技術ブログが役に立った」という記憶が残っているかどうかは、その企業を思い出すかどうかに直結します。

特に即戦力層にとって大事なのは、企業の雰囲気ではなく、自分のレベルに近いエンジニアが、どのような課題にどの程度の深さで向き合っているのかという情報です。テックブログはこれをもっとも自然に伝える手段です。

SmartHR炎上で萎縮する必要はない

今回の炎上は象徴的でした。多くの企業が「うちも書かないほうがいいのでは」と一瞬考えたと思います。しかし、問題は“テックブログという活動”そのものではありません。

誠実に技術的な学びやナレッジを共有する姿勢であれば、テックブログが炎上する可能性は限りなく低く、企業ブランドを損なうこともありません。

むしろ萎縮して書かなくなることのほうが、長期的な採用リスクとしては大きいのです。

まとめ:企業は“沈黙のリスク”を理解すべき

採用広報の費用対効果が厳しく評価され、人材紹介が大手に偏り、即戦力採用がますます難しくなる時代です。

そんな今だからこそ、コツコツと認知を積み上げ、技術力や取り組みを具体的に伝える場としてのテックブログの価値はむしろ高まっています。PVや応募に直結しなくても、企業にとっての“認知ストック”として確実に効いていく施策です。

SmartHRの炎上によって書くことをためらう空気が生まれましたが、自粛は得策ではありません。テックブログの本質的な価値を見直し、適切に書き続ける企業だけが、これからの採用市場で戦えるのだと思います。


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