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ニューヨーク・タイムズ(以下、タイムズ)をめぐって、いまアメリカの文化・言論界で大きな波紋が広がっている。10月下旬、作家やジャーナリスト、研究者など300人以上が連名で「ボイコット」を表明した。署名者たちは、タイムズがパレスチナ報道において長年反パレスチナ的な偏向を続けてきたとして、寄稿や購読、シェアなどあらゆる形での協力を停止すると宣言している。

i’m proud to have signed on w 300+ others to boycott contributing to the New York Times until they meaningfully change and retract their coverage of the genocide in Palestine. no honour in these institutions 🇵🇸https://t.co/qvbnTsJnwipic.twitter.com/oXOroBP78Q

— rayne fisher-quann (@raynefq)October 27, 2025

運動の名前は「Boycott, Divest, Unsubscribe」。そのウェブサイトには、タイムズに対して三つの要求が掲げられている。ひとつは、編集部全体の反パレスチナ的バイアスを再点検し、報道基準を改めること。二つ目は、昨年十月七日の事件に関する誤報とされる記事「Screams Without Words」を撤回すること。そして三つ目は、米国がイスラエルに対して行っている武器供与の停止を、社説として明確に呼びかけること。

Writing for the NYT op ed section was good for my career, but I simply do not feel right contributing again until the paper fixes their egregious and obvious anti-Palestinian bias problem. I am proud to sign this boycott with many writers I admire and I hope more people join.pic.twitter.com/hVY8U8S6aJ

— danielle (@_danielle_carr)October 27, 2025

声明では、2003年のイラク戦争時に、タイムズが大量破壊兵器に関する誤報を流した過去にも触れている。あのときと同じように、今回も検証されないままの証言や、一方的な国家発表を紙面に載せていることが批判されているのである。取材に携わった研究者が差別的投稿を行っていたことや、証言者の信頼性がすでに失われていることも指摘されている。

署名した人々の多くは「報道の自由」を信じてきた作り手たちだ。だが彼らは、いまのタイムズがその理想からあまりに遠ざかっていると感じているということを実感する。記事に使われる言葉はガザの現実をやわらげるように整えられ、ジェノサイドという言葉は意図的に避けられてきた、という批判は長らく続いてきた。

この運動には、作家のサリー・ルーニーやルピ・カウアー、気候活動家のグレタ・トゥーンベリ、米国下院議員のラシーダ・タリーブ、スポーツジャーナリストのデイブ・ザイリンなども署名している。さらに、このリストには、過去にタイムズに寄稿経験のある人物も含まれており、「かつてこの紙に書いた私たちが、もはや協力はできない」と宣言している。

こうした署名の数と顔ぶれが示すのは、これは単なる一時的な抗議ではなく、「報道機関としての信頼」「寄稿/協力するという行為」「読む/書くという立場」が問い直される文化的・言論的な転換点であるということだ。

「彼らが爆撃を続ける理由の一つは、タイムズをはじめとする欧米メディアの報道姿勢にある」。声明には、パレスチナの記者のそんな言葉も引用されている。つまり、報道とは単に出来事を伝えるものではなく、暴力を正当化する装置にもなり得るということだ。

このボイコットが象徴的なのは、作家やアーティストが「沈黙」ではなく「不参加」という形で抵抗している点だろう。自分たちの文章や名前をメディアの信頼のために使わせない。寄稿しないこともまた、ひとつの発言になる。タイムズは「世界で最も影響力のある新聞」であり、だからこそその沈黙も、言葉も、暴力の構造の一部になり得る、と認識されているのだ。

言葉を届ける場所を選ぶことは、これまで以上に政治的な行為になっている。


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竹田ダニエル記事を読んでくださりありがとうございます!いただけたサポートは、記事を書く際に参考しているNew York TimesやLA Times等の十数社のサブスクリプション費用にあてます。
journalist, international project director/Forbes 30U30/Forbes、GQ、Newsweek、VOGUE、Rolling Stone etc/1997 danieltakedacontact@gmail.com

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