ホンダ・プレリュードが噂通りの618万円というスタート価格で日本市場に投入された。新車発売報じるネット記事のコメント欄には、何のヒネリもなくほぼ予想通りでしかない「高い」「買えない」などなどの、単なる「お気持ち表明」が9割くらいを占めていた。2011年の登場以来、毎年のように販売1位を獲得している国民車・N-BOXを販売しているホンダなのだから、たまには「買いづらい」クルマを出してもいいのでは!?
YouTubeの「コージーTV(小沢コージ氏)」も、ベースのシビックHEVが409万円なのと比べると、ちょっと高いのでは!?と、相変わらずの思考停止レベルの質問を開発担当者に直撃していた。同じくシビックHEVをベースにしている「光岡・M55」は811万円 (ファーストエディションのHEVベース仕様) だ。ベース車の2倍の価格にも関わらず、発表直後から大盛況で抽選販売でしか手に入らない。新型プレリュードもすでに先行予約が一杯な様子だ。
ロードスターもジムニーも月販300台に限定すれば、新車価格の2倍程度のプレ値で取引されるようになるだろう。メーカーが販売台数を絞れば、中古車店から大挙して注文が入る。今ではすっかりクルマに限らず趣味性が高いものを日本で販売する際に使われるスキームになっている。MAZDAもスズキも安定供給によってユーザーの信頼を勝ち取ることを重視している。しかしロードスターに限定モデルが登場し、次期スイフトスポーツも特殊な販売方法を検討しているかもしれない。
ホンダも安定供給で日本のインフラを支えているが、同時に非日常なモデルをコンスタントに販売するメーカーでもある。シビックtypeR、インテグラtypeR、NSX(初代、二代目)、S2000、S660、CR-Zは中古車市場で圧倒的な存在感を示している。これだけの実績があるのだから、ホンダが新たな非日常モデルを発売すれば、購入希望は殺到するのだから、新車価格がいくらだろうがもう気にしないでいい。作った分だけ売れていくだろうし、やはり中古車市場を活性化させるだろう。
プレリュードのベースとなるシビックHEVのシステムは、走行性能、経済性、利便性を考えると、マルチユースの長距離ツアラー向けユニットとしては最高レベルの水準にある。光岡・M55がかつてない程の強気の811万円という価格設定ができたのも、ユーザーにとって非常に便益の高いユニットが付いてくるからに他ならない。さらにプレリュードはスポーツティな演出の強いHEVになっていると評判が高い。
他社がプレリュードのようなクルマを設計するとしたら可能なのか。トヨタはプリウスの2L・THSを使って、ボデーは2ドアで中乗りに作り直せば良さそうだけど、パドルシフトも付いてないTHSでは、NSX仕込みの制御を取り入れた最新鋭のe:HEVの乗り味に太刀打ちできない。GRカローラをベースすれば、MTのスリリングが乗り味が得られるが、燃費性能を軸に比較してしまうと多くのユーザーは買いにくいだろう。シビックtypeRにプレリュードのボデーをつけた感じになる。
日産は、ベース車すら思いつかない。フェアレディZならばエクストリームな加速性能で勝るけど、燃費性能を考慮すると方向性がプレリュードとはまるで異なる。スバルはインプレッサをベースに専用ボデーを作り、クロストレックやフォレスターに使うストロングハイブリッド (S:HEV)を搭載すればかなり近いものが出来そうだ。S:HEVはパドルシフトも装備済みで、かつ加速性能も優れているので、トヨタや日産よりは手軽に作れるかもしれない。
MAZDAが作るとしたら、魅力的な車体はすでにMAZDA3・ファストバックで完成しているが、さらにエモーショナルを追求して2ドア化されてもいい。現状のユニットではスカイアクティブXが対抗ユニットで、MTも選べる。燃費性能ではプレリュードに少し及ばないが、加速性能は引けを取らない。現状ではレザーシート標準のグレードのみとなっていて396万円である。燃費がやや劣るけど、プレリュードより200万円以上安い。
ホンダの開発陣は全くそんなこと考えていないかもしれないが、ホンダの非日常モデルは、他の日本メーカーに対して多いに刺激を与えていると思う。MAZDAロードスターは1989年に初代が登場し世界的なヒット車となった。約10年が経過した1998年にロードスターのパッケージをホンダ流に解釈したS2000が発売された。初期型に搭載されたF20Cエンジンは、2L自然吸気で250ps / 8300rpmを発揮し、Vテック搭載の代表的エンジンとなった。
フォード傘下にあったMAZDAを挑発するような、圧倒的なエンジンパワーでオープンスポーツの決定版となるはずのS2000だったが、実際にはオープンスポーツとしては「速過ぎる(快適ではない)」という意見も多かったようだ。2005年8月にはNCロードスターが発売され、エンジンは2L (170ps / 6700rpm)となった。シャシー性能も向上し、S2000より100kg以上軽い車体にあったパワーで、「ポルシェ911に比肩するスポーツカーの傑作」と評価された。
NCロードスターが登場した3ヶ月後には、S2000のマイナーチェンジが行われ、2.2L自然吸気 (242ps / 7800rpm)となり、前期の過激な高回転ユニットから、低速トルクを太くしたバランス良いユニットとなった。S2000の登場でオープンスポーツ市場が活性化し、ライバルがいることで燃えるMAZDAの開発陣のモチベーションを引き出したと思う。S2000がなければNDロードスターが継続販売されていなかったかもしれない。
2015年の登場から10年が経過する現行のNDロードスターは原点回帰で無駄を無くした設計だが、ポルシェのようにさまざまなバージョンがあっても良さそうだ。これを刺激するべく、ホンダには「S1500」なる新モデルのオープンスポーツカーを期待したい。フィット用の1.5L (118ps / 6600rpm)のハイチューン版や、シビック用の1.5Lターボ (182ps / 6000rpm)など、まだ1.5Lクラスの現役ユニットがいくつかある。
内燃機関への取り組みが真っ当に評価されていない「スカイアクティブX」を搭載したMAZDA3も宙ぶらりんな存在だ。ホンダの経営陣はこの状況を打破すべく「シビックRS」が企画され、さらに「プレリュード」開発を選択してくれたのかもしれない。MAZDA3に乗らずに、プレリュードが欲しいと思ってしまったMAZDAファンもいるかもしれないが、「シビックRSとプレリュードの価格は、MAZDA3にもスカイXという画期的ユニットがあると気づかせてくれる。
注文もできないプレ値のクルマであっても、その存在によって趣味性の高いクルマへの注目度を喚起するという意味で非常に価値があると思う。買えないクルマでも、さらなる普及型モデルに良い影響を与えている。セレブ向けだった2代目NSXがあったからこそ、その技術を応用できるプレリュードを作りたくなったのだろう。これが2027年発売予定のMAZDAのスカイアクティブZと「M:HEV」をMAZDA3に搭載したスペシャルモデルにつながることを期待したい。
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