まだ Twitter の一斉解雇をめぐる混乱は続いているようですが、この解雇を通じて見えてくる Elon Musk の意図を考えてみたいと思います。これは公開されている情報に基づく長山個人の推測に基づいた分析であって、正しさはいっさい保証されていません。
個人的な所感としては以下です。
まず第一に、Musk は、Twitter をメディア企業からエンジニアリング企業へと変質させようとしているんじゃないかと考えています。これは、「どの部署がレイオフ対象になったか」から見えてくることです。TechCrunch の記事によれば、米国でレイオフ対象になった主要なチームは、アクセシビリティ、機械学習倫理 (META: ML Ethics, Transparency & Accountability)、人権、キュレーション、PR (Comms)、SRE (Site Reliability Eng) などです。一方で Home Timelines や Health Eng など Twitter のコア機能の開発側チームや Trust & Safety、あるいは Account Integrity まわりのオペレーションなどは、米国ではチーム単位で丸ごとなくなるといったことは起こっていないようです(インドなどの海外オフィスでは、「オフィスごと解雇」のようなことが起こっているようですが)。つまり、「ブランディングや外部との関係性は捨て置き、メディア企業としてのミッションを忘れ、コア機能の開発やモデレーションのオペレーションに集中する」というメッセージになっているように感じます。
そもそも補助線として重要なのは、「メディア企業としての Twitter」というところですね。Twitter の2021 Letter to Shareholders では、自社のミッションを次のように定義しています。
Our mission is to serve the public conversation, and with a broad selection of content that can be personalized to each individual’s interests, we believe Twitter is the best place to find out what’s happening.
簡単に訳せば、『我々のミッションは、公的な会話に奉仕することであり、個人の関心に特化されたさまざまなコンテンツを提示することで、Twitter を「今何が起こっているのか」を見つける最高の場所にすること』だというわけです。フォーカスが「読者」の側にあることに注意してください。iOS の App Store では、Twitter が「ニュースアプリ」として位置付けられています。「ソーシャルネットワーキングアプリ」というカテゴリがあるにもかかわらず、です。これは単なる App-Store Optimisation ではなく、「Twitter はニュースを発見し、今何が起こっているのかを知るためのサービスである」という思想が根底にあるものだと見た方が良いと思います。
これはキュレーションチームが最も代表している部分です。最近更新されたチームサイトの中で述べられている通り、このチームはトレンドやモーメント、トピックなど、ニュースとして Twitter がユーザーに提示するべきものを決定していました。これは全てガイドラインに基づいて人力で行われており、正確性や中立性に基づいてできるだけ多くのコンテキストをユーザーに与えることを目指していました。それを丸ごと解雇するということは、この「読者側」にフォーカスしたメディア企業としてのミッションを、丸ごと窓から捨ててしまったに等しいと見ています。他の被害を被ったチームも、プラットフォーム企業としての信頼性に関わるチームや、外部とのコミュニケーションなど、メディア企業としてのミッション上必要となる部分に見えます。Twitter をメディアとして捉えた時、「そこに何が表示されるのかをできるだけコントロールしたい」、そして「広告主たちとできるだけいい関係性を保ちたい」と考えるのは当然だからです。これは、広告に依拠するビジネスモデルである以上不可避でもあります。
では代わりに何にフォーカスするのか。何が Twitter にとっての新しいミッションとなるのか。ここからは想像になりますが、Twitter v Musk 訴訟で公開されている前 CEO の Jack Dorsey との会話がかなりヒントになると考えています。これは Exhibit H からの引用、長山による私訳です。
2022-03-26
ここで Jack が言っていることはそのままAT Protocol とBluesky として結実するわけで、この二人が完全に同じ方向を向いているかというと難しいところがあります。しかし、Jack とのこの会話が、 Elon による Twitter 買収の動きにつながっていく大きな一因だったと考えることは不自然ではないと思います。この後も Jack と Elon は複数にわたり会話を重ねており、Elon も他と話す際に「それが Jack の意志だ」ということを強調しています。
ここには、「読者に何が起こっているのかを知らせる」ためのニュースアプリとしてのミッションではなく、「自由な発信と議論が行われる脱集権的なプラットフォームを作る」という、「発信側」に重きをおいたミッションが透けて見えます。
だから、今後の方向性として、「広告モデルからの完全な脱却」と、「より脱集権的なあり方」の模索があることは間違いありません。まずは Blue Check など現在 Elon が試しているようなビジネスモデルの新たな形を模索しながら、Twitter のコア機能の開発に注力するような形になるでしょう。Twitter そのものによる AT Protocol の採用もありうるかもしれません。Jack はそもそも Twitter が会社であることが間違いであるという思想の持ち主ですが、Elon は会社として存続させ、ある程度のところで再度上場することを目論んでいます。もし「発信側」に重きを置いたミッションを持った、エンジニアリング企業としての Twitter が成功するのなら、Elon が思い描いた通りになるでしょう。それがどれくらい可能なのか、Elon がこれをうまく実行できているのか、は別の議論です。
「Musk はスパム問題を根本的に理解していない」という話も書くつもりでしたが、ちょっと長くなったのでまた今度にします。(SRE複数解雇も含め、「Webサービス運営というものを理解していない」という話になるかもしれません。)
ちなみに Twitter を Blockchain ベースにすることは、Elon も最初検討していたようですが、その後放棄した模様です。
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