福井大と千葉大で査読偽装の問題が発生しているようなのでメモ。
普通の人にはあまり馴染みがないと思いますが、論文の査読(審査)は論文を書いた研究者と独立した研究者によって行われます。今回の件が報道のとおりの査読偽装(自分の原稿を自分で審査した)ということであれば、査読システムの根幹に関わることなので、ねつ造や剽窃と同程度のかなり重大な研究不正なると思います。
福井大教授が「査読偽装」の疑い 論文審査に自ら関与か | 毎日新聞
福井大の60代の女性教授らが国際学術誌に投稿した学術論文で、この教授が、論文の審査(査読)を担う千葉大の60代の男性教授と協力し、自ら査読に関与した疑いがあることが関係者の話でわかった。学術誌の出版社が研究不正と認定し、福井大教授側に論文の撤回を勧告したことも判明。
僕も年間に何本かの査読依頼があって協力していますが、守秘義務があるのでそれを口外することはできません。また、査読委員はそれを行ったからと言って、特にそれで学会からお金が貰えたりはしないボランティアです。査読員がどのように選ばれるかは学会や会議によって違うと思いますが、参考までに情報処理学会のジャーナル編集細則を見ると以下のような記載があるのが分かります。
論文誌ジャーナル編集細則-情報処理学会
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(3)担当編集委員は、原稿に添付されたキーワードと梗概を参考にするとともに、次の諸事項を考慮して、1週間以内にその原稿に対する査読委員を選定し、査読を依頼し、内諾を得る。
a)査読委員の専門分野が原稿の専門分野をカバーすること。
b)査読委員は著者と同一機関に所属、またはこれに準ずる関係にないこと。
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(5)著者には査読者名および担当編集委員名を知らせないものとする。
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基本的には査読を引き受ける前に、論文の著者が自分と同じ所属や研究グループでないことを事前に確認するのが通例です。査読委員になってくれる人を探すのは大変なので、査読依頼があったらできるだけ断らないのが通例ですが、このような場合だけは利益相反(Conflicts of Interest:COI)を申し出て必ず辞退しなければなりません。逆に査読委員を依頼する側に回ったこともありますが、思わぬ人から「実はこの論文読んだことがあって、私のアドバイスがたくさん入ってるんですよ・・・」という COI の申告があってびっくりしたこともあります。
また、査読には査読委員は著者の情報を知ることができるシングルブラインド制と、査読委員は著者の情報を知ることができないダブルブラインド制がありますが、国内の情報系はシングルブラインド制のところが多いように思います。今回はそのあたりの隙をついたということでしょうか。
† 2022/9/9 追記
論文は撤回されていました。
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