バイオリン~弦楽四重奏生演奏。仲間への鎮魂歌<レクイエム>
ただひとり、誰もいない教室の中を歩く。机をそれぞれまわり、軽く手で触れ、そこに座っていた仲間のことを思い出す。
繰り返す時間の中で、生きて、笑い合って、同じ季節を共有した仲間たち。
その机から伝わる感触に、それぞれの仲間たちの体温を感じるような、そんな錯覚。
自分の机へと戻り、そこに置いてあったバイオリンを手にして、弓を弦の上にゆっくりと乗せた。
弦が弾かれ振動し、駒を通り、表板や裏板に伝わり、共鳴し、バイオリン独特の豊かで華やかな音色が奏でられる。
複雑な弦の動きが生み出す音色は、4本それぞれが自己主張し合いながらも、美しい調和をみせる。
まるで私たち仲間みたいだ。
それぞれ個性も性格も違った。けれど私たちはいつも一緒で、積み重ねた時間が本当に楽しくて・・・。
私たちの間に流れていたのは、友情という名の旋律だった。信頼という名の響きだった。
目をつむれば、まるで昨日のように鮮明に思い出せる。その場面にあった景色も、天気も、空気も、仲間たちの笑顔も。
ついつい、フフッと笑いがこぼれる。
みんなで集まった時のように自然と笑顔になる。瞼の裏に再生される記憶。バイオリンの音色と同期し、時に楽しく、悲しく、せつなく、紡ぎだされていく。
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