今から10年ほど前。
ある日いつものように、入院している雪也を見舞った香苗は、病室で一人見知らぬ女性が雪也の胸に右手をあてて、顔を覗き込んでいるところに遭遇する。
その女性は自分を『死神』―もしくは天使―だと言った。仕事として、雪也の命を回収しに来たのだ…、と。
冗談ではない。そんなことを許してたまるかと香苗の主張に、死神と名乗った女性はしばらく考えた末にある提案をした。自分の見るところ、香苗の生命は極めて珍しい、言うなれば価値の高い生命だ。だから、それを確実に回収できるならば、つまり香苗の命と引き換えならば、この少年を助けてやってもよい、と。
香苗はその提案に乗った。即断だった。
それから十年の時が過ぎた。
雪也は紆余曲折はあったものの、次第に健康になっていった。この春からは大学に通っている。これからが雪也の人生の本分となることだろうことは、誰の目にも明らかだった。
………一方、香苗にはタイムリミットが近づいていた。
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