
「何用あって月世界へ。月は眺めるものである」。1969年のアポロ11号の月面着陸を、コラムニストの山本夏彦さんはこう皮肉った。人類初の快挙だが、言われてみれば、宇宙開発競争でソ連に後れを取った米国の意地だった。持ち帰った「月の石」は、翌年の大阪万博の目玉になったが。 ▶「観光目的」に、泉下の山本さんはどう言うだろう。米宇宙ベンチャーのスペースXが来年末に初の月旅行を行うと発表した。1週間ほどの日程で、月面には降りずに月を周回して地球に戻る。すでに2人の乗客が申し込んでいるそうだが、支払い済みの予約金は「かなりの額」としか明らかにされていない。 ▶同社は最終的な目標として火星旅行も計画しており、将来はコロニーを建設して人類の火星移住を実現するという。なんとも壮大な夢だが、宇宙船とロケットは開発中で、まだ打ち上げ試験も行われていない。どのみち縁がないから、月も火星も「眺めるもの」でいい。

科学や芸術の発展に貢献した国際的な功績をたたえる第40回京都賞(稲盛財団主催)の受賞者3人による記念講演会が、国立京都国際会館(左京区)で開かれた。各分野で最高峰の業績を挙げた研究者たちが語る貴重な研究エピソードや人生観に、約1300人の参加者は熱心に耳を傾けていた。 記念講演会に先立って授賞式が行われた。先端技術部門に帝京大の甘利俊一特任教授(89)▽基礎科学部門に英ケンブリッジ大ガードン研究所のアジム・スラーニ研究ディレクター(80)▽思想・芸術部門に米ニューヨーク大のキャロル・ギリガン教授(88)-が選ばれ、それぞれメダルや賞金1億円が贈られた。人工知能(AI)の理論的基盤を拓く先駆的な研究と、情報幾何学の確立の業績が評価された甘利氏は、「幸運なるわが人生」と題して講演。幼少期から算数や数学が好きだったが、大学時代に純粋な数学ではなく、当時設けられたばかりの数理工学分野に進んだこと

涙で顔をくしゃくしゃにして24歳のヘレン・マルーリスは喜びを爆発させた。米国旗で身を包み、場内を一周しても、表彰台でもマルーリスの涙は止まらなかった。 米女子レスリング界で初の金メダルであるばかりでなく、「レジェンド」吉田沙保里を破っての大殊勲に米メディアは沸いている。 米紙USAトゥデーはマルーリスがフリースタイル53キロ級のメダル授賞式を終えた後の記者会見の彼女の言葉を伝えている。 「吉田さんのことを研究すればするほど、彼女のことが好きになった。彼女と戦うことは夢だった。沙保里は敵ではない。神様は本当にそれを私に教えてくれました」 マルーリスは過去2回、吉田と対戦しているが、いずれもフォール負けだった。もっとも実力をつけ、米の同じ階級ではもはや敵なしだった彼女は、ラスベガスで2015年に行われた世界選手権の55キロ級で金メダルを取っている。 「オリンピックで吉田と戦うためには2キロ減量

政治系ニュースの発信はおカネになるらしい。過去、有力政治家に関する偽情報を発信し、現在はスタンスが変わったユーチューバー「闇のクマさん」に収益を上げる仕組みなどについて話を聞いた。政治ニュースはバズる──政治系ユーチューバーを始めたきっかけは 「もともと動画撮影が好きで、子供やゲーム系の動画をアップしていた。ただ、編集がしんどい笑。しゃべるだけの動画が作れないかと思い、2020年4月、アライグマのアイコンで時事ニュースをしゃべりだしたら、やたら政治のニュースがバズることに気が付いた」 「英国のタブロイド紙に書かれていた台湾に関するデマニュースを信じて発信したら50万、60万再生された。4カ月後にはフォロワーが10万人になって、素人ながら『政治系インフルエンサー』とされるようになった」 ──政治系インフルエンサーはユーチューブ発信でどの程度もうかるのか 「僕は最初の3年で1億円くらい収益を

有力政治家を相手に、信じ込んだデマ情報をユーチューブ動画で配信し、現在は「事実系」インフルエンサーとしての活動を心がける「闇のクマさん」。10月4日投開票の自民党総裁選に出馬した5候補の中にも過去誤情報を配信してしまった相手がいるという。政治系ユーチューバーとして5候補について語ってもらった。 高市氏「奈良のシカ以外しゃべることあった」──高市早苗前経済安全保障担当相は、外国人観光客による奈良のシカへの暴行発言が物議を醸している 「難しいな…高市さんは割と応援している政治家で、正直、シカの話題に触れてほしくなかった。奈良選出の議員だからこそシカに対する思いは当然だし、お話をするのもいいと思う。ただ、あれだけ政策に詳しい人だ。ほかにしゃべることはいっぱいある。わざわざ敵を増やしてしまう話題に触れなくてもよかった」 林氏「めちゃめちゃ頭いい」──林芳正官房長官はネット上で「リンホウセイ」とのあ

政治関係のネット世論を巡っては、政治系インフルエンサーによって誇大に解釈された「偽情報」も少なくない。アライグマのCGで、時事ニュースをまくし立てる「闇のクマさん」は、橋下徹元大阪市長や自民党の稲田朋美元防衛相、河野太郎前デジタル相、林芳正官房長官ら有力政治家に対するネット上の誤情報を信じ、配信した過去がある。最近は何が事実なのかつかめるようになったといい、誤りに気が付くと謝罪動画も配信する。闇のクマさんのアカウント名で活動する会社員男性が産経新聞の取材に応じ、スタンスの変化を振り返った。 <闇のクマさんのユーチューブチャンネルのフォロワー数は約30万で、これまで2400本の動画をアップした。闇のクマさんに影響を受けたインフルエンサーは少なくなく、再生数も含めてトップインフルエンサーだったという> ──デマ情報を配信した相手政治家に対し、動画などで謝罪している 「一個一個(真実として)聞い

フェミニストで社会学者の上野千鶴子氏は5日、自民党の高市早苗総裁選出を受け、X(旧ツイッター)で「初の女性首相が誕生するかもしれない、と聞いてもうれしくない」と思いを漏らした。上野氏は日本の女性学、ジェンダー研究のパイオニア的存在として知られる。 上野氏は、スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が毎年発表する各国の「男女格差(ジェンダーギャップ)指数」を挙げ、「来年は日本のランキングが上がるだろう。だからといって女性に優しい政治になるわけではない」と投稿した。 高市氏は選択的夫婦別姓制度に慎重な立場を示しており、上野氏は「これで選択的夫婦別姓は遠のくだろう。別姓に反対するのは誰に忖度しているのだろう?」と疑問視した。高市氏は長年、旧姓の通称使用拡大に力を注いでいる。

戦略提携の検討について説明する日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長=15日午後、東京都港区(斉藤佳憲撮影) 自動車業界の構図を変える新たな企業連合となるのだろうか。 国内自動車2位のホンダと3位の日産自動車が電気自動車(EV)分野で戦略提携の検討を始める覚書を結んだ。車載ソフトの開発やバッテリーなどEV基幹部品の共通化、共同調達を想定している。 国内外でしのぎを削ってきた両社が提携するに至った背景には、米国や中国の新興メーカーが価格競争力や開発スピードの速さでEV市場を席巻していることへの危機感がある。 提携によって開発スピードを速め、スケールメリットを生かして調達コストを削減する狙いだ。競争力を高め、世界のEV市場をリードする企業連合になることを期待したい。 日本メーカーはEVで大きく出遅れている。昨年のEV販売台数は日本勢最多の日産でも14万台弱にとどまる。世界首位の米テ

衆院選で大敗を喫した石破茂首相(自民党総裁)が28日の記者会見で、引き続き政権を担う意欲を示した。 自身が設定した与党過半数という勝敗ラインを割り込む大敗の責任をとらずに、石破首相が政権に居座ろうとするのは信じがたいことだ。責任をとって潔く辞職すべきである。 自民は比較第一党に踏みとどまった。友党の公明党とともに政権構築を目指すのは分かるが、それは国民の信を失った石破総裁の下ではありえない。自民は速やかに総裁選を実施し、新総裁と新執行部が他党と交渉するのが望ましい。本当に反省しているか石破首相は会見で、衆院選の審判を「真摯(しんし)に厳粛に受け止める」と語った。だがその言葉とは裏腹に、「国政の停滞は許されない」と繰り返し、「安全保障、国民生活、災害対応に万事遺漏なきを期すことも私どもが負うべき責任だ」と述べた。 そこには反省が感じられない。国民は衆院選で石破首相に国政運営を託したくないと

天皇陛下の譲位を前に、産経新聞が実施した元号や皇室に関するアンケート。全体では日常生活で主に元号を使う人が多かったが、年代別に見ると若年層で結果が逆転し、西暦を使うと答えた人の割合が上回った。皇室との距離感についても、年代が上がるほど「身近になった」とする人が増え、年代間の意識の違いが浮き彫りになった。 アンケート結果によると、日常生活でよく使うのは「元号」と答えた人が、70代以上では6割以上を占めたのに対し、「西暦」は2割弱。60代では7割近くが「元号」だった。 一方、30代では「元号」が5割弱で「西暦」をやや下回った。20代以下では「元号」が約4割で「西暦」が6割近くに。「昭和以前の元号を使っても、生まれる前のことでぴんとこない」(大津市、25歳の女性会社員)などの声が目立った。 ただ、「西暦」をよく使うと答えた若者も、必ずしも元号が必要ないと考えているわけではない。大阪市西区の会社員

医療・医学の最前線を取材して「人体」の全貌に迫り、米メディアで大絶賛されているエンタメ・ノンフィクション。医療・医学の話なのに、医師であり研究経験のある私が全く知らなかったことのオンパレードで、引き込まれるように読んだ。 23章で構成され目次だけで8ページもあるが、各章とも20ページ前後で読みやすい。膨大な調査や取材で得た素材を正確さを失わずに十分に咀嚼(そしゃく)し、ユーモアも交えて分かりやすく表現しているのが素晴らしい。例えば心臓について、著者は「一生のあいだに一トンの物体を空中に二百四十キロメートルの高さまで持ち上げるだけの仕事量をこなしている」と記す。日頃の診療で心臓は鼓動し命をつないでくれている単なる臓器としてしか認識していなかっただけに、改めて心臓のすごさを実感した。 また、イングランドの解剖学者、ウィリアム・ハーヴェイは血液が体の中を循環していることを発見したことで知られるが

「南海トラフ巨大地震は2038年ごろ」。元京大総長で京都造形芸術大の尾池和夫学長は、過去のサイクルからこう予測しているが… 阪神大震災、東日本大震災など大地震が続く日本列島。4月に発生し、直接死の犠牲者50人を出した熊本地震は発生から4カ月が過ぎたが、復旧は十分に進まず、いまだ避難所には多くの人が身を寄せている。活断層が動いた直下型地震となったこの熊本地震について、以前から警告を発していた地震学者がいる。元京都大総長で、京都造形芸術大の学長を務める尾池和夫さん(76)だ。一体、どんな人物なのだろうか。(西川博明) 熊本地震の予兆根拠 尾池氏は熊本地震が起こる約3年前、熊本市内で行った講演で、「今にも地震が起こりそうだ」などと話していた。 その根拠として「(熊本県を横断する)日奈久(ひなぐ)断層で小さな地震が起こっている」とし、熊本周辺で地震活動が活発化しつつある、と警鐘を鳴らした。 地震学

待ち焦がれた塀の外に出てみれば、独居房で増えた独り言が抜けず、小さな物音にも目を覚まし、コンビニの女性店員とはまともに会話ができない-。刑務所に長期間服役した元暴力団組員の社会復帰をテーマにした9月発売の小説「ムショぼけ」(小学館文庫)が翌10月にテレビドラマ化され、話題を呼んでいる。元組員でかつて服役した沖田臥竜(がりょう)さん(45)が自身の体験をもとに、原作を手がけた。出所直後の戸惑いや逆境をリアルに表現する一方、人間関係の中で希望を見いだす主人公の姿を前向きに描いている。妻子とは音信不通に…「ムショぼけ」とは、自由を制限された刑務所で長期間過ごした人が、社会の環境の変化やスピードに合わせることができない現象をいう。 「受刑者は長い刑務所暮らしで塀の外の暮らしに夢を膨らませるが、出所してすぐに現実を突きつけられる」(沖田さん)。暴力団組織の指示で殺人未遂事件を起こし、懲役14年の刑

「自分の娘が殺されたのに、なぜ犯人は刑務所でのうのうと生きているのか」 「自分の子供が殺されても、裁判官は犯人に同じ判決を下せるのか」 いずれも日本で起きた殺人事件の被害者遺族から私が聞いた言葉である。両者とも犯人に死刑を望んでいたが、裁判で無期懲役が確定した。 命を奪われたら命でもって償うべきだ-。多くの遺族は、犯人に対しそう感じているだろう。だが、中には慎重な見方を示す遺族がいるのも事実だ。それは犯行動機や犯人が内省しているか否か、遺族と被害者との関係性、犯人は未逮捕のままか、など事件を取り巻くさまざまな事情によっても微妙に変化する。 ゆえに遺族感情は複雑だ。犯人が死刑に処されても、被害者は生き返らない。では命と引き換えに「罪を償う」のは可能なのか。本書は、白黒の判断が難しい死刑をテーマに真正面から切り込んだノンフィクションである。 現在、死刑を実質的に廃止している国は、欧州各国を含む

4月3日に発行予定の翻訳本「トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇」を巡り、同書を扱う書店への放火を予告する脅迫メールが、発行元の産経新聞出版宛てに届けられていることが30日、分かった。複数の書店にも同様のメールが送られており、産経新聞出版は威力業務妨害罪で警視庁に被害届を提出した。 メールはドイツのドメインが使われており、産経新聞社のアドレスに送られてきた。「原著の内容はトランスジェンダー当事者に対する差別を扇動する」として、「出版の中止」などを求めた上で、発売した場合には抗議活動として同書を扱った書店に火を放つとしている。 翻訳本は米ジャーナリスト、アビゲイル・シュライアーさんによるノンフィクション。ブームに煽られ性別変更したが、手術などで回復不可能なダメージを受け後悔する少女らを取材している。すでにアマゾンなどネット書店では予約が始まっている。 同書

2年にわたる新型コロナウイルス対策が例年流行する他の感染症を広く抑制してきた半面で、乳幼児期に有益な免疫を獲得できない〝免疫負債〟を抱えた子供の増加につながったとの懸念が強まっている。コロナの感染状況が落ち着いた今冬は、夏風邪の「手足口病」と「ヘルパンギーナ」の患者報告が季節外れの拡大を見せた。昨年激減した「RSウイルス」も大流行が起きており、免疫負債の波紋が広がりつつある。 東京都港区にある小児科医院「クリニックばんびぃに」では10~11月、口腔(こうくう)内の発疹などの症状を訴える子供が急増。1週間に10~15人ほどが手足口病かヘルパンギーナに診断されるという例年にはみられない状況に直面した。 時田章史院長は「コロナのデルタ株流行がひと段落した後から患者が増え始めた印象だ」と分析。今月に入り、患者数はやや減ってきたが、併設された病児保育室では定員6人の半分近くを手足口病の子供たちが占め

作者と同じ難病の重度障害者女性を主人公として、健常者の特権性や多様性の意味を問いかける作品「ハンチバック」で第169回芥川賞を射止めた市川沙央さんが、産経新聞に「読書バリアフリー」について寄稿した。全文は以下の通り。 ◇ 電気式人工咽頭という機器がある。手のひらに収まる筒状の機器の先を喉元に当てて口を動かすと、声帯を切除した人や気管切開していて発声できない人でも、電子音で喋(しゃべ)ることができる生活補助具だ。ステレオタイプの宇宙人の声のような抑揚のない音だが、コツを掴(つか)めば電話もかけられるほど明瞭に話せるようになる。現在でもさまざまな病気で声を出せない人がこの電気式人工咽頭を使っている。 元々は第二次世界大戦において戦傷を受けて声帯を失った人々のため、アメリカで開発されたものである。戦後の日本にも同様の戦傷障害を抱えた人は多くいただろうが、彼らに社会がどのように報いたのか私は知らな

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