ソテツの雌花(種子錐)に授粉するゾウムシの仲間ロパロトリア・フルフラケア(Rhopalotria furfuracea)。最新の研究で、ソテツの雄花(花粉錐)や雌花は自ら発熱して赤外線を放ち、赤外線を感知できる花粉媒介者を誘引していることが分かった。(LILIAN SOUCEY) アマゾンに夜のとばりが下りると、ソテツはとうもろこしの芯のように突き出た雄花から、近くにいるゾウムシたちに花粉を届けてくれと呼びかける。その“呼び声”は、植物たちが自らの温度を上げて放射する赤外線だ。ソテツは自らの温度を周囲より最大15℃も高くできる「発熱植物」として知られている。この発熱によって放射される赤外線が花粉媒介者のゾウムシを引き付けることと、これが最古の花粉媒介シグナルの1つであることを科学者が初めて明らかにし、論文が12月11日付けで学術誌「サイエンス」に発表された。 「間違いなく驚くべき発見です」
2017年にグリーンランドのタシーラク・フィヨルドで撮影したオーロラ。オーロラは畏敬の念を引き起こすことがある。科学者によれば、畏敬の念は心拍数を下げ、ストレスを和らげるほか、脳や体にさまざまな変化を起こす。(PHOTOGRAPH BY RALPH LEE HOPKINS, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 畏敬の念は、私たちをはっと立ち止まらせる力を持つ。それは静かに忍び寄ることもある。裏庭を横切るシカの足音のように。あるいは、突然訪れることもある。胸を打つ音楽のうねりや、目の前に現れた広大な星空のように。 「畏敬の念は、平凡の下に無限が潜んでいることを思い出させてくれます」と米バンダービルト大学の神経科学博士研究員ハリ・スリニバサン氏は言う。 こうした瞬間はつかの間のように感じられるかもしれないが、心と体に永続的な痕跡を残すと科学者は言う。米スタンフォード大学などの2
土、というのは、とても日常的で、ほとんどの人にとって、すぐそこにあるものだ。都市生活者ですら、ひとたび外出すれば、土を見ないで一日を終えることは難しいし、そもそも、わたしたちが住んでいる家屋の下は、まず間違いなく土だ。 しかし、「土とはなにか」と聞かれると、とたんに言葉に詰まる。「粘り気がある土」「さらさらした土」「赤い土」「黒い土」といったふうに、性状を表現する言葉ならいくらでも思いつくけれど、土の土たる所以というのは、捉えがたい。 そんな中、土の研究者である藤井一至さん(福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニットリーダー)が、土をめぐるスケールの大きな一般書を連続して出版し、その都度、楽しく読んだ。いや、それどころか、読む前と後では、世界の見え方が変わるほどの衝撃をおぼえた。
ツバルのフナフティ環礁に浮かぶフォンガファレ島の、最も狭い地点をバイクで通過するカップル。写真の左側は太平洋、右側は礁湖になっている。(PHOTOGRAPH BY SEAN GALLAGHER) ハワイとオーストラリアの中間に位置するツバルは、人口1万2000人にも満たない小さな島国だ。平均海抜は3メートル以下で、気候変動による海面上昇の危機にさらされている。全国民の半分以上が住む首都フナフティは、2050年までに潮位の上昇により50%の土地が浸水すると予測されている。 いずれ世界のほかの沿岸国も、同じ問題に直面することになる。そうなったとき何が起こるのかを示す例として、ツバルは多くの人々の注目を集めている。世界銀行が2021年9月に発表した報告書は、2050年までに世界で2億1600万人以上が気候変動によって国内移住を余儀なくされると予測している。(参考記事:「海面上昇が加速、2050年
脳の白質を走る神経線維に色を付けた拡散テンソル画像。この線維に沿った水の移動を追跡することで、年齢とともに脳の配線がどのように強化、変化、劣化するかを地図化できる。(MARK AND MARY STEVENS NEUROIMAGING AND INFORMATICS INSTITUTE/SCIENCE PHOTO LIBRARY) 加齢とともに私たちの脳が変化することはよく知られている。言語を学ぶにしても、新しい技術を習得するにしても、脳神経回路の新たなつながりの築きやすさは、一生の間に変化する。しかし最新の研究で、その変化がどれほど劇的で法則性があるかが明らかにされた。 英ケンブリッジ大学が発表した論文によると、人間の脳の発達は一生のうちに5つのはっきりと異なる段階を経るという。そして、各段階を区切る4つの転換点が、9、32、66、83歳頃に訪れる。つまり、これら4つの時期が節目となり、
母親である女王アリを殺したのち、寄生性のテラニシクサアリ (Lasius orientalis)を女王として受け入れるキイロケアリ(Lasius flavus)の働きアリ。(TAKU SHIMADA) アリの巣の中では、『ゲーム・オブ・スローンズ』も顔負けのドラマが繰り広げられている。敵の軍勢を操って指導者を攻撃させ、王国をまるごと乗っ取るアリが存在するのだ。11月17日付けで学術誌「Current Biology」に掲載された新たな研究によると、ある種の女王アリは、まるでドラマに出てくるような策略を駆使して、別の種の女王アリをその王座から追い落とすという。このアリは、働きアリを騙してそのアリたちの母である女王を殺害させたうえ、自らが新たな女王の座に収まって働きアリを使役する。 このゾッとするような習性を最初に発見したのは、専門の研究者ではなく、あるアリ愛好家だ。2021年、普段からアリを
トリケラトプスやアンキロサウルス、ステゴサウルスの恐竜型メカニカルスーツが観客の目の前を歩く(ON-ART提供) 「こんなにすごい生き物がいたんだ」と感じてほしい――。そうした思いから、東京都立川市の株式会社ON-ART(オンアート)の金丸賀也(かずや)社長は、見た目も動きもリアルな「恐竜型メカニカルスーツ」のライブイベントを各地で開いている。 金丸さんは東京芸術大学の出身で、博物館の展示物制作に携わっていたとき、硬い強化プラスチックを用いることに違和感があった。試行錯誤する中で、軟らかい樹脂に色を塗り重ねることで動物の皮膚の透明感や、皮膚の下の脂肪や血液の質感を再現できると気づいた。 2005年、人が中に入って操縦する恐竜型メカニカルスーツの制作を始めた。現在はティラノサウルスやステゴサウルスなど37体。最新の研究を参考にしながら作っており、例えばトリケラトプスは、化石の知見をもとに棘(
進化によって獲得したとても重要な機能なのに、少々厄介な性質ももつ「記憶」。それは、私たちの心の最も不思議な謎の一つだ。必死で覚えようとしても忘れることがあるのに、特に努力しなくても覚えていることがあるのはなぜだろう? 記憶力を高める方法はあるのだろうか? 答えを求めて、私たちは記憶の科学の最前線にいる研究者たちに話を聞いた。最新の技術が記憶の回路を“ショート”させかねないことや、自分の弱点を認識することができる新しい記憶力テストの方法、さらには脳の潜在的な能力を最大限に生かすための科学的根拠に基づく秘訣を紹介しよう。 <記憶の変容> 「スマホで撮った大量の写真」が私たちの記憶を変える? スマートフォンで撮った膨大な写真をいつでも見られたら大切な思い出を失う心配はない。ただし、その便利さが記憶の形成に及ぼす影響も見落とせない。 英国バーミンガムに住む38歳のラバニア・オルバンは、子どもの頃の
地球の月とは異なり、準衛星は地球の重力に捕らえられておらず、実際には太陽の周りを回っている。しかし地球とほぼ同じ軌道と公転周期を持つため、地球からは、あたかも地球の周りを回っているように見える。(DETLEV VAN RAVENSWAAY, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 太陽系にわくわくするようなニュースが飛び込んできた。学術誌「ResearchNotes of the AAS」に先ごろ発表された論文によると、ビルほどの大きさの謎の小惑星が、地球と並走して太陽の周りを回っていることが分かったのだ。PN7と名付けられたこの天体は、2025年の夏まで天文学者も知らなかったが、60年ほど前から「準衛星」としてひそかに地球に寄り添っていた。 米メリーランド大学の天文学者であるベン・シャーキー氏がPN7について最初に聞いたときに思ったのは「また見つかったか、クールだな」。というのも
アトランタ動物園のジャイアントパンダ。白と黒の特徴的な外見を持つジャイアントパンダの野生の個体数はゆっくりと回復しつつある。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Zoo Atlanta) 半世紀にわたって世界の野生生物保護のシンボルを務めてきたジャイアントパンダを救おうとする努力が報われつつある。9月4日、ジャイアントパンダが絶滅危惧種(endangered)の指定から解除されたと国際自然保護連合(IUCN)が発表した。中国の竹林を原産とするジャイアントパンダは、絶滅の恐れのある生物を記載したIUCNの「レッドリスト」で、絶滅危惧種(endangered)から危急種(vulnerable)に引き下げられた。更新された最新のレッドリストには、8万2954種の生物が含まれており、そのうち2万3928種に絶滅の恐れ
さて、ミエゾウ、ハチオウジゾウ、アケボノゾウの系列に戻る。これらは、日本各地で見つかっており(例えば、ミエゾウは三重県をはじめ、長崎県、福岡県、大分県、島根県、長野県、東京都でも発見されている)、しかし、大陸では発掘されていないという意味で、日本固有種だと考えられている。しばしば地名を冠していることからも、各地の「ご当地ゾウ」でありつつ、「日本固有のゾウ」でもある。そして、島環境らしく、時代が下るに従って、体が小さくなっていく。ご先祖のツダンスキーゾウに近いミエゾウは肩高が4メートルもの巨躯だったのに対して、アケボノゾウは2メートルだ。 「アケボノゾウは、70万年くらい前まで生きのびていたんですけど、そこで絶滅しちゃうんです。実はその一歩手前の110万年前ぐらいのときに、大陸からまた全く今まで日本にいなかったゾウが入ってくるんです。これがムカシマンモスと呼ばれているやつで、これまでいろいろ
地球史上で最大の絶滅が、今から約2億5200万年前のペルム紀と三畳紀の境界でおこりました。陸上生物の97%、海洋生物の80~86%の種が絶滅し、それまでの生態系は壊滅的な打撃を受けました。大絶滅は火山活動に起因する超温暖化とそれに誘発された海洋の無酸素化が原因とされており、それに続く三畳紀前期も極端に温暖で乾燥した気候であったと言われています。 その様な環境の中、どのような生物がどこで生活し、生物多様性や生態系はどのようにして回復していったのでしょうか。私は、地質学、古生物学、堆積学、岩石学など様々な分野の研究者と共同で、三畳紀前期の地球環境と生物を調べています。これまでの研究から明らかになった絶滅後の約500万年間の世界を紹介します。 三畳紀前期の世界を知るための窓 ウラジオストクは太平洋に面したロシア最大の港で、ロシア極東の政治、経済、文化の中心地です。ヨーロッパを感じさせる街並みが広
地理と歴史 2つのレンズで眺める 文明と交易の壮大なる物語 12月15日発行 予約受付中! 定価:6,380円(税込)本書の内容 300枚の地図で45億年にわたる地球のすべてを鮮やかに描き出した『地球史マップ』の著者で、フランスのベストセラー地歴史学者であるクリスティアン・グラタルーが、人類が地球上に広がり、さまざまな社会に分かれ、今日の世界を創り出すために交流を続けてきた物語を存分に語る。 58ページにわたるカラーアトラスに加え、47点の解説地図などをふんだんに盛り込み、社会間の関係、人類と環境との関係を考察していく。数万年前にサピエンスがオーストラリアやアメリカ大陸に到達してから、新石器革命や炭素の排出を経て、南北の格差、環境問題が起こっている今日まで、私たちが知る世界の輪郭を描き出す。 さらに、あえて史実とは異なる「もしも...」という問いかけにも挑戦しており、歴史上の分岐点におけ
2025年の秋から東京・上野の国立科学博物館で開催される特別展「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」。40億年の生命の歴史の中でも特に大規模だった5回の絶滅はなぜ、どのように起こったのか。そして、生命はどうやって乗り越えてきたのか。同展の監修者5人が展示の見どころとともに選りすぐりのトピックスを解説します(編集部)。
フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)というアメーバは、多くの場合、鼻に淡水が入ったときに人間に感染する。脳の炎症を引き起こして頭痛や嘔吐をもたらし、治療をしなければ、患者は昏睡状態から死に至る。(LONDON SCHOOL OF HYGIENE & TROPICAL MEDICINE, SCIENCE SOURCE) 猛暑の中、池で泳いだ14歳の少年。学校の遠足でプールに入った13歳の少女。自宅近くの川で水浴びをした5歳の少女。インド南部ケララ州の異なる地域に住んでいた3人の子どもたちは「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」で死亡した。温かい淡水や管理の不十分なプールに生息する微生物が引き起こす脳の感染症だ。また、27歳の男性も命を落としている。 「この3カ月間で、ケララ州では15件のPAMが報告されています。これまでは年に1件程度でしたから、大幅な増加です」と、ケラ
インドのカルナータカ州で交尾するヘリグロヒキガエル。黄色いカエルはオスで、茶色いカエルはメスだ。(SUSANNE STÜCKLER) 毎年、インドと東南アジアでモンスーンの雨が降り始めると、文字通り輝きを増すヒキガエルがいる。ヘリグロヒキガエル(Duttaphrynus melanostictus)のオスがわずか10分ほどで茶色からレモンイエローに変わるのだ。この変化が2日間にわたる狂乱の繁殖行動と一致することは長く知られていたが、2025年9月2日付けで学術誌「Ichthyology & Herpetology」に発表された論文で、具体的な役割が解明された。(参考記事:「トゲ肌からツル肌に早変わりする新種カエルを発見」) オーストリアの首都ウィーンにあるシェーンブルン動物園の研究者たちは調査のため、3Dプリンターでカエルをつくった。茶色いものと黄色いものを用意し、交尾(抱接)のために集ま
幼いTレックスを襲うナノティラヌスの集団。ナノティラヌスは幼いTレックスとする説もあったが、新たな証拠により別の種の恐竜であることが明らかになった。(ANTHONY HUTCHINGS) 小型でスリムなティラノサウルス類の化石は、はたして幼いティラノサウルス・レックスなのか、それとも別種の恐竜ナノティラヌス・ランケンシス(Nanotyrannus lancensis)なのか。40年にわたる激しい論争がついに決着するかもしれない。ティラノサウルス類の化石を200以上分析した研究結果が10月30日付けで学術誌「ネイチャー」に発表され、Tレックスとは別種の敏捷でスリムな恐竜ナノティラヌスであると著者らは宣言した。 「論争を終わりにするため、私たちはこの問題をあらゆる角度から検証することにしました」と言うのは論文の筆頭著者で、米ノースカロライナ自然科学博物館の古生物学者であるリンジー・ザンノ氏だ。
年齢を重ねても脳をさえた状態に保てるかどうかにかかわる要素が、新たな研究で明らかになってきた。(Photograph by Britt Erlanson, Getty Images) 高齢になっても頭がさえた状態に保つにはどうしたらいいのだろうか。80歳を超えてもなお数十歳若い人と同じくらいの認知機能を持つ「スーパーエイジャー」がいるのはなぜなのか、その秘密が徐々に解き明かされつつある。 2025年8月、米ノースウェスタン大学の研究者らが、過去25年間にわたって行われたスーパーエイジャー100人以上を対象とした調査と、スーパーエイジャー77人の死後の脳の分析から得られた知見について論文を発表した。 この研究は、スーパーエイジャーたちの脳には多くの共通点があり、それらが認知機能を維持するうえで役立っている可能性があると推測している。 また、生活習慣の違いがどの程度の差を生むのかはまだ解明すべ
ヨーロッパハムスターは、ペットショップで見かけるハムスターよりも大きく、気性が激しい。国際自然保護連合(IUCN)から近絶滅種(critically endangered)に指定されている。(Photograph By Mikhail Rusin)2023年2月、ウクライナの都市ヘルソンやキーウが巡航ミサイルによる攻撃を受ける中、首都キーウに暮らすミハイル・ルーシン氏は、ほぼ1週間にわたって暖房も電気も使えない状態で過ごすことになった。夜間の最低気温は約マイナス10℃。これも戦争がもたらす苦難のひとつだったが、ルーシン氏には自分や家族のほかにも心配なことがあった。キーウ動物園のハムスターたちだ。ハムスターは暗い部屋に置かれた広いカゴの中で冬眠しており、一般的に寒さには強いが、体温が下がりすぎると回復できなくなる恐れがある。(参考記事:「ハムスターの爪、冬眠中は伸びが止まると判明、でも綺麗
アメリカ、カリフォルニア州沿岸に生息するさまざまな海洋生物(イラスト)。 Photographs by David Liittschwager, National Geographic 数世紀にわたる懸命な努力にも関わらず、地球上の生物種のおよそ86%はいまだに発見されていないか名前が無いらしい。最新の推計によると、地球には総計870万種の生物が生息しているという。 つまり、分類済みの種は15%に届かず、現在の絶滅速度からすれば多くが記録されずに姿を消してしまうだろう。 研究チームの一員でカナダにあるダルハウジー大学の海洋生物学者ボリス・ワーム氏は、「非常に単純な疑問が出発点だった。“すべての種を発見するという取り組みは、私たちの手の届く範囲にあるのか、それとも?”という問いだ」と話す。 「出した答えは“範囲外”だった」。 スウェーデンの植物学者カール・リンネが、生物の多様性を理解するため

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