安倍元首相が殺害された事件の裁判がついに始まり、英誌「エコノミスト」も山上被告の証言や公判の行方に注目。なかでも加害者である山上に同情を示す日本人が少なからずいることは衝撃的だとして、その背景を報じている。 人々の同情心が量刑に与える影響 安倍晋三元首相が殺害された衝撃の事件から3年以上が経った2025年10月28日、殺人罪などで起訴された山上徹也被告(45)の裁判員裁判が始まった。 法廷に姿を現した山上は、黙って座り、視線を落としていた。検察側が事件の詳細と起訴状を読み上げると、山上は静かに、しかしはっきりとした口調で、「すべて事実です。私がやったことに間違いありません」と述べた。 街頭演説中だった安倍を山上が白昼堂々と銃撃した恐ろしい光景は、いまなお日本国民の脳裏に焼き付いている。だが事件後、大勢の日本人がその暴力行為を非難した一方、驚くほど多くの人々が山上とその犯行動機に同情を示した

貧困によるストレスが脳の発達を阻害したり、健康リスクを増大させたりするといった事実はよく知られているが、こうした影響が何世代かにわたり遺伝する可能性があることが近年の科学研究によって明らかになってきた。 極貧生活から年収70万ドルの富豪にのし上がった筆者が、最新の研究事例を引きながら、貧困という「病」の原因と治療法を模索する。 極貧の子供時代からいかにして成り上がったか 私がどんなに貧しくひもじい子供時代を過ごしたか、いまの姿からは誰も想像できないだろう。 私は、ウォール街のトレーダーとしてキャリアを積み、現在は国防研究組織「トルーマン・ナショナル・セキュリティ・プロジェクト」のフェローを務めるほか、米シンクタンク「外交問題評議会」の一員でもある。最近、金融リスクマネジメントに関する著書を出版したばかりで、年収は70万ドル(約7700万円)を超えた。 だが、依然として私は満たされず、未来へ

肝心なのはバランス感覚 ──フランスのシンクタンク「ジャン・ジョレス財団」の報告書で、あなたは左派が国境管理の強化と富の再分配に力を入れるべきだと提言されています。そのような結論に達した理由を教えてください。 ヨーロッパで選挙に勝ちたかったら、どの政党も、戦後に起きた二つの大きな歴史的革命を受け入れる必要があります。最初の革命は1940~50年代に起きました。フランスや英国をはじめとした欧州諸国で社会保障のセーフティネット、すなわち公共サービスと再分配型の税制が整備されたのです。 次の革命が起きたのは1960~70年代で、これは人種、ジェンダー、性に関する平等の闘いを推し進めるものでした。これらの二つの革命で得られた成果は、いまや不可侵のものとなっています。それを正面から否定する政党は、まともだとはとてもみなされません。 しかし、いまでは左派政党が道を見失っています。これは左派がレインボー

関税措置によって世界を振り回しているトランプ大統領。彼の政策は米国経済を悪化させる一方、その孤立主義は、多国間的なグローバル化を立て直すチャンスとなり得る──ノーベル経済学賞の受賞者、ジョセフ・スティグリッツはそう指摘する。 最悪のタイミングで関税を課した ドナルド・トランプのもとで、米国があれよあれよという間に史上最大のタックスヘイブンへと変わりつつある。 米国の財務省が、企業の実質的なオーナーを開示させる透明性確保の枠組みを、取りやめにする指示を出しただけでない。米政権は、国連の国際租税協力枠組条約の交渉から離脱し、海外腐敗行為防止法も執行しようとしない。さらには暗号資産の大規模な規制緩和までおこなおうとしている。 これらの措置は、過去250年にわたって米国の制度内に組み込まれてきた安全装置の破壊を狙う戦略の一環なのだろう。トランプ政権は、国際条約を破り、利益相反を無視し、権力の抑制と

教皇フランシスコの死去にともない、次の教皇を選ぶコンクラーベ(教皇選挙)が5月7日に始まる。奇しくも日本では映画『教皇選挙』がちょうど上映中で、大きな関心を呼んでいる。 だがコンクラーベは、ローマ・カトリック教会の最上層にいる枢機卿たちだけが参加する極秘の選挙であり、そのすべては謎に包まれているはずだ。となると、映画の描写はどこまで信じればいいのか。英紙「ガーディアン」記者が専門家たちに聞いた。 ※この記事はネタバレを含みます。 告白しなければいけないことがある。教皇フランシスコの訃報を聞いた朝、最初に頭に浮かんだのは、コンクラーベだった。ローマ・カトリックの専門用語としてのコンクラーベと2024年に公開された同名の映画、その両方だ。 コンクラーベでは、枢機卿たちが隔離され、新教皇を投票によって3分の2の多数決で選ぶ。映画では、長きにわたり秘密と崇敬の念に覆われてきたこの過程を観客が追体験

ドナルド・トランプ米大統領の復権により、2025年1月以降、巻き起こされている地政学的激変。その理由と行く末を、仏紙「ル・モンド」が米国の著名ジャーナリスト、ファリード・ザカリアに聞いた。 世界中の政治エリートたちと親しく付き合う米放送局「CNN」のジャーナリスト、ファリード・ザカリア。彼はハーバード大学で政治学者サミュエル・ハンチントンのもと博士論文を提出した後、ジャーナリストの道を進み、現在はCNNで世界情勢についての番組を持つと同時に、「フォーリン・ポリシー」、「ワシントン・ポスト」、「ニューズウィーク」などに寄稿している。 1997年、ザカリアは「フォーリン・アフェアーズ」に歴史的な「非自由主義的民主主義」という記事を発表。この概念は、投票によって選ばれながらも、自由と法の支配を激しく攻撃する指導者による体制を表すために用いられる。 ファリード・ザカリアは『民主主義の未来 : リベ

近年、日本に暮らすイスラム教徒が増えるにつれ、教義に則った土葬墓地への需要が高まっている。大分県の別府ムスリム協会は土葬墓地の建設を求めているが、地元の日出町の町長らの反対で難航している。 墓地建設に対する抵抗感の背景には、ネット上で拡散されるイスラム教への誤解があると中国紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は指摘する。 教義に沿って死者を葬りたいという日本のイスラム教徒(ムスリム)の願いが、ソーシャルメディアの敵意の波にさらされている。 2020年9月当時、大分県を拠点とする別府ムスリム協会の人々はムスリムのための土葬墓地建設の許可が同県日出町の行政から、まもなく得られるだろうと考えていた。 だが現在に至るまで、承認は下りていない。同協会の代表ムハンマド・タヒル・アッバス・カーン(57)はそのことを嘆いている。土葬が法律で禁止されていない日本で、自分たちの率直な要望が認められないの

動画や画像がデジタル世界に溢れているいま、本を読むことがめっきり減ったと感じている人は少なくないはずだ。読書の習慣がなくなると、われわれの読む力も衰退していくのか。この読む力を脳科学の観点から研究する英国の音声学者マイケル・ロールが、自身の最新の研究結果を簡潔に紹介する。趣味で読書する人の数は着実に減っているようだ。英国読書協会が2024年に実施した調査によれば、英国の成人の半分が読書を定期的にはしないと回答している(2015年の42%から増えている)。さらに、16〜24歳の若者のほぼ4人に1人が読書家だったことはないと答えている。 だがこうした数字は何を意味しているのか。文字よりも映像が好まれる傾向は、われわれの脳や、種としての進化に影響するのか。優れた読書家の脳はどんな構造になっているのか。 こうした疑問を解明したのが、学術誌『ニューロイメージ』に掲載された私の新たな研究論文だ。

大都市なのに大気が比較的きれい 東京が注目に値するのは、第二次世界大戦中に米軍の爆撃によって破壊し尽くされた後、ほぼ全面的に再建されている点だ。世界に目を転じると、戦後に建設された都市は、ほぼ例外なく自動車への依存度が高い。 たとえば、1950年代に比べて人口が増加しているテキサス州ヒューストンや、急成長の著しい英国の小都市ミルトンキーンズがそうだ。開発途上国の都市も同様である。 自動車の登場以来、世界中の建築家や都市計画者は、道路中心で、大多数の人が車を運転することを前提とした都市設計に抗うことができなかった。だが、どういうわけか東京はそれを回避し、はるかに人間中心の都市として再建されたのである。 世界最大の脱自動車都市が日本にあるというのは驚きかもしれない。なにしろ日本は、三菱、トヨタ、日産を世界に送り出し、世界中に自動車を輸出している国だからだ。 たしかに、日本人の多くが自動車を所有

主演が彼だったら… 1993年に公開されたカズオ・イシグロの長篇第三作目『日の名残り』の映画版で、感情を抑圧した執事スティーブンズを演じたのはアンソニー・ホプキンスだった。しかしいま、イシグロは、ジョン・クリーズが同役を演じていた可能性を夢想する。 「早い段階で出ていた案だったんですよ」。コッツウォルズにある彼の隠れ家から車で少しのところにあるホテルのティールームで、イシグロはサンドイッチとスコーンをつまみながら言う。 執事役にクリーズの名前をあげたのは劇作家のハロルド・ピンターだったが(ピンターは原作の大ファンで、自ら権利を取得して最初の脚本を執筆していた)、結局その案はボツとなった。ホプキンスを「素晴らしい」と褒めたたえながらも、イシグロはこう打ち明ける。 「残念なことに、ジョン・クリーズは自分にはこの役を演じられないと思ったそうです。彼はもっと優れた役者になれたかもしれないと思うんで

禁止の限界 何十年もアルコール依存症と戦い続けても効果が見込めず、あとは亡くなるだけとなった場合、もはや「禁酒」は意味をなさない。むしろ、適切な環境で適量のアルコールを飲みながら、最後の日々を仲間と過ごすほうが、本人にとっても地域コミュニティにとっても幸せなのではないか──こうした考え方に基づき、飲酒をあえて許可しているドイツのアルコール依存症患者向け福祉施設が注目を浴びている。ドイツのハンブルクにある「ハウス・エーイェンドルフ」には、2024年8月時点で137人の入居者がいる。みんなアルコール依存症患者だが、全員に対して自由に飲酒が許可されている。アルコール依存症患者にも飲酒が許可されているホームはドイツに何箇所かあるが、ここが最大規模だと独誌「シュピーゲル」は報じる。 シュピーゲルによると、以前はハウス・エーイェンドルフも、ほかのアルコール依存症患者向けの施設と同様、アルコールを禁止

大川原化工機事件や袴田巌の無罪確定など冤罪事件が続いている原因として、日本の人質司法への批判が高まっている。長期勾留や自白の強要に近い取り調べ──日本で逮捕されると、被疑者はどんな扱いを受けるのか。他の先進国との違いを英誌「エコノミスト」が指摘する。 出世欲から事件を「捏造」 2020年、横浜市にある化学機械メーカー「大川原化工機」の社長ら3人が逮捕された。容疑は、生物兵器に転用可能な機器を中国へ輸出したというものだった。 3人は約11ヵ月間勾留された。5回の保釈請求は、いずれも裁判官によって却下された(6回目で許可)。捜査官たちは罪を認めれば釈放するとほのめかしたが、彼らは応じなかった。 1人は勾留中に胃がんが見つかり、適切な治療を受けられないまま亡くなった。最終的に全員の無実が証明された冤罪事件である。 この事件は、日本の刑事司法制度が抱える根深い問題を浮き彫りにしている。それは被疑者

岸田首相が退陣し、石破新内閣が発足することになったが、「顔」が入れ替わっただけで自民党政権であることに変わりはない。過去70年近く続く自民党の一党支配について、「それは健全な民主主義なのか」と米紙は疑問視する。 他の議会制民主主義と比べても特異 日本の与党・自民党の支持率が過去最低を記録するなか、岸田文雄首相は退任し、10月1日、石破茂が新首相に就任する。 だがこれは大きな変化の前兆とはいえない。石破は岸田と同様、世襲議員であり、自民党は依然として政権を維持しているのだ。 同党は過去69年のうち4年を除くすべての期間において日本を統治してきた。その息の長さは、他の議会制民主主義国と比較しても特異であると専門家らはみている。 評論家や活動家たちは、一党支配の長期化と野党の弱体化は深刻な欠陥であり、日本の民主主義と有権者の政治参加意識の健全性について疑問を投げかけるものだと指摘する。政治学者

あなたはとてつもなく忙しい。ビジネスチャットのスラックでやり取りして、メールを書き、ズーム会議も次から次に入っている。これらを同時にこなすこともある。しかし重要な仕事はできているだろうか。 カル・ニューポート氏の答えはノーだ。 「ちょっと待てよ、どれも重要じゃなかった、といったところだ」。ジョージタウン大学でコンピューターサイエンスを教え、注意力散漫の時代における集中力の重要性を訴えるニューポート氏はそう話す。 ニューポート氏によると、私たちは重すぎる負担を減らすことでより多くを達成できるという。同氏が提案する解決策「スローな生産性」──同名の本も出版している──は優れた成果を上げる人々が引き受ける仕事を減らして、仕事の質を上げ、ときどき戦略的に手を抜く一つの方法だ。最高の質こそ目指すところであり、がむしゃらに働くことは敵である。 これこそが、人工知能(AI)や人員削減から私たちの仕事を救

角界“追放”の元力士が出場、米国流SUMOに現地メディアも驚き エジプト出身の大砂嵐ら、試合前に舌戦も 2024年4月13日、米ニューヨークで開催された「ワールド・チャンピオンシップ・スモー(WCS)」で、トロフィーを掲げる大砂嵐とソスラン・ガグロエフら Photo: Roy Rochlin / Getty Images 米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで相撲の世界大会とされるスポーツイベントが開かれ、米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、観客はプロレスさながらのリングネームや相手選手への挑発も含む“米国流”の相撲を興味津々で楽しんだという。 同大会には、大相撲の元幕内で引退勧告の処分を受けたエジプト出身の大砂嵐や、大麻所持事件で日本相撲協会を解雇された元若ノ鵬とみられる選手も出場。それぞれ現地メディアの取材に応じている。 「礼儀正しい日本の相撲」と大違い 複数の現地メディ

低成長を続ける日本経済が回復する兆しはなかなか見えず、世界3位を維持してきた名目GDPも2024年2月にドイツに抜かれた。欧州議会の顧問などを務める経済学者ダニエル・グローは日本経済低迷の原因を独自に分析し、欧州諸国に「同じ失敗をするな」と警鐘を鳴らす。 日本はもっと、よくなっていいはずだ。 労働者の教育レベルは高く、かつよく訓練されているし、社会全体としての投資額は多くの先進諸国を上回っている。たとえば日本における研究開発費はGDPの3.3%を占め、最近まで米国よりも高かった。にもかかわらず、日本経済は相対的に低迷しつづけている。ドイツ人経済学者で欧州政策策定協会の所長でもあるダニエル・グロー。欧州各国の政府や中央銀行の顧問を経て、現在は欧州議会の顧問を務める。米シカゴ大学で経済学の博士号を取得。専門は金融・財政政策、為替レート、気候変動など Photo: Puramyun31 / W

日本の漫画が人気なフランスだが、いわゆる少女漫画の作品はまだあまり知られていない。そんななか、フランスで1月末に開催されたアングレーム国際漫画祭に合わせ、大規模な萩尾望都回顧展がアングレーム市美術館で開催された(2024年3月17日まで)。これを受け、仏紙「ル・モンド」がオンラインで萩尾にインタビューをしている。 戦後日本の漫画界の立役者 萩尾望都の50年以上に及ぶ創作活動から生まれた作品の数々に目を通すと、痛感することがある。それは、フランスが世界有数の日本漫画消費国を自負するわりに、日本の漫画の受容においてすっぽりと抜け落ちてしまっている部分があることだ。 これは萩尾だけに限った話ではないが、フランスでは、日本の著名女性漫画家の作品の多くが出版されていないのだ。1972~76年に描かれた萩尾の初期の名作『ポーの一族』のフランス語版が出版されたのは、2023年に過ぎない。 1949年生ま

西洋の凋落を証明する「3つの要因」 ──2023年に弊紙から受けたインタビュー「第三次世界大戦はもう始まっている」が、今回の新著を書くきっかけになったと伺っています。すでに西洋は敗北を喫したとのことですが、まだ戦争は終わっていませんよね。戦争は終わっていません。ただ、ウクライナの勝利もありえるといった類の幻想を抱く西側諸国はなくなりました。この本の執筆中は、それがまだそこまではっきり認識されていなかったのです。 昨年の夏の反転攻勢が失敗に終わり、米国をはじめとしたNATO諸国がウクライナに充分な量の兵器を供給できていなかった事態が露呈しました。いまでは米国防総省の見方も、私の見方と同じはずです。 西洋の敗北という現実に私の目が開かれたのは、次の三つの要因によるものでした。 第一の要因は、米国の産業力が劣弱だということです。米国のGDPにはでっちあげの部分があることが露わになりました。私は

ガブリエル・ズックマンの答え 同じ「ベーシック・インカム」という言葉を使っていても、二つの大きく異なるものを指しているということがあります。第一のベーシック・インカムは、保守派が提唱することが多いものですが、これは社会保障制度を通じた所得再配分の大部分を廃止し、その代わりにベーシック・インカムという単一制度で、国民全員に一律で現金を給付するという構想です。 それに対し、もう一つのベーシック・インカムは、革新派が提唱することが多いものですが、これは既存の社会保障制度を通じた所得再配分を維持しながら、それに加えて国民全員に現金を支給するというものです。累進的な所得税を財源とするので、高所得者はベーシック・インカムのために支払う額のほうが、ベーシック・インカムで受け取る額よりも大きくなります。逆に低所得者は、支払う額よりも受け取る額のほうが大きくなります。 後者のベーシック・インカムが実現可能で

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