犬、めちゃくちゃ好き。 もう1年くらい毎日通勤中に必ずすれ違う犬がいて、特に好きだ。あまり犬種に詳しくはないが多分なにかしらの大きい和犬で、焦げ茶色である。最近ちょっともっさりしてきて、冬らしい感じなのが良い。 品の良いご婦人と相当ゆったりめのペースで歩いており、やや前をとつとつ歩きながら、自信と活気に満ちた表情をしている。たまに振り返り、すぐまた前を向くのだが、その表情がすごく良い。自分が愛されているということに微塵の疑いもない様子がありありと伝わる、すんっ、というか、てんっ、というか、そういう収まりの良い擬音がつく顔である。 ほとんど毎朝見ているため、なんとなく犬のほうも私を知っているとみえる。角を曲がった先にいると、おっ、みたいな顔をする。そんな気がする。 そして犬というものは犬に敵意のない人間を理解できるのか、あなたは悪い人ではなさそうですね、そしてわたしに興味がありそうですね、と

俺の嫁さんは自分で走る。特にプログラムされずとも、自分で考えて走る。 出会いは俺が二十八の時。働いている会社は新卒採用が全くなく、若いのが入らないので代謝が悪かった。その会社にしては珍しく新卒入社だった俺は、六年経てど部下はおろか後輩すらできず、ずっと続く「若手扱い」に辟易してた。そんなある日、自主退職者の補填として彼女が来た。当時二十七歳。見た目も少し近いが、雰囲気はシン・ゴジラに出てきた市川実日子まんま。会社が外資系だったこともあり、人事も面白みがないよりは風変わりな人材を好む傾向があったため、第一印象は「まためんどくさそうなのが…」という感じだった。 彼女は必要以上に人と馴れ合わないけれど、飲み会は割と顔を出す(ただし質問されない限り会話はせず、淡々と飲んでる)し、仕事は完璧なもんだから、一年たつ頃には「ちょっと変わったミステリアスな人」みたいなキャラで定着し、重宝される人になってい

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