姫田 忠義氏(ひめだ・ただよし=ドキュメンタリー作家)7月29日、慢性閉そく性肺疾患のため死去、84歳。神戸市出身。葬儀・告別式は近親者で行った。喪主は長男大(だい)氏。 54年に神戸市から上京後、民俗学者の宮本常一に師事。アイヌの儀式や山間地の焼き畑農法などを撮影し、消えゆく文化や暮らしを映像作品に残した。76年、民族文化映像研究所を設立。89年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受けた。 生涯で100本を超えるフィルム作品を製作。代表作に、北海道・二風谷で撮影した映画「アイヌの結婚式」(71年)、新潟県北部でダム建設を前にした山村の暮らしを追った映画「越後奥三面-山に生かされた日々」(84年)がある。テレビ番組では宮本が監修した「日本の詩情」。
妖怪学の祖 井上圓了 [著]菊地章太 近年、井上圓了といえば、妖怪の研究者で、漫画家水木しげるの大先輩のような人だと考えられている。が、彼は明治初期、井上哲次郎と並ぶ哲学者であった。そして、彼が「妖怪学」という講座を開いたのは、哲学を民衆に説く方便として、である。妖怪といっても、今なら人が幻想と呼ぶものに相当する。たとえば、国家は共同幻想だというかわりに、国家は妖怪だというようなものだ。 とはいえ、圓了は文字通り、さまざまな妖怪現象を調査し、それが幻想であることを人々に説いてまわった。その意味で、彼は啓蒙(けいもう)主義者であった。したがって、妖怪について書いた民俗学者柳田国男は、先行世代の圓了を嫌った。ロマン主義的な柳田にとって、妖怪は消滅しつつあるフォークロア(民俗)の一種として重視すべきものであったから。しかし、実際には、圓了は柳田に劣らず全国を歩いて妖怪について調べ、それを文学的装

世界の中の柳田国男 [編]R・A・モース、赤坂憲雄 編者のR・A・モースらは、柳田国男を「知の巨人の一人」と評する。その存在と学問研究は単に日本だけの遺産ではなく、世界的な意味を持つというのが本書の訴えである。11人の外国人研究者、2人の日本人研究者がそれぞれの角度からその実像を描きだす。礼賛・称揚に傾かず、短所や限界まで具体的に抽出しているので、改めて我々の柳田像を見直すことになる。 膨大な著述、独自のフィールドワークと口承重視の研究、同時にその経歴は多様だが国家が押しつけるナショナリズムとは一線を画したとの論点、視点が示される。 とくに1920年代初頭に国際連盟の委員としてジュネーブに滞在するのだが、そこで柳田の学識は広まったとの見方、『桃太郎の誕生』ではヨーロッパと日本の物語の関係性に注目したという。比較研究中心のヨーロッパ流フォークロア(民俗学)との決別、それ自体は「西洋への反逆」

ISBN: 9784806714477 発売⽇: 2012/09/01 サイズ: 20cm/14,318p 狼の群れと暮らした男 [著]ショーン・エリス+ペニー・ジューノ 一般に狼(オオカミ)は、凶暴で狡猾(こうかつ)な動物だと見なされている。しかし、太古から人間と狼は、狩猟仲間として仲良くやってきたのだと、著者はいう。狼を恐れるイギリスの田舎に育った著者は、そのような考えをアメリカの先住民から学んだ。本書を読みながら、私は、かつて民俗学者柳田国男が言ったことを思い出した。柳田は、狼をカミと信じて畏敬(いけい)した時代があった、そして、日本には狼がまだ生存している、と主張して、半ば正気を疑われたのである。 しかし、米・アイダホの山中で野生の狼の群れの中に入って2年間も暮らしたこの著者の行為は、正気を疑われるどころではない。狼に仲間だと認められるためには、何度も足や口をかまれ、喉(のど)や腹

「腹の虫」の研究 日本の心身観をさぐる (南山大学学術叢書) 著者:長谷川 雅雄 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:自然科学・環境 「腹の虫」の研究 日本の心身観をさぐる [著]長谷川雅雄、辻本裕成、ペトロ・クネヒト、美濃部重克 九州国立博物館で『針聞書(はりききがき)』という戦国時代の医学書を見物したことがある。いわゆる「腹の虫」を扱った珍しい図が載っているのだ。さながら新種の妖怪か「ゆるキャラ」並みの奇妙奇天烈(きてれつ)な姿をしており、同館でフィギュアになって販売されるほどの隠れアイドルである。「虫の知らせ」「虫が好かない」、あるいは「虫の居所が悪い」というように、ムカムカして腹の虫が納まらない不快感をもたらす病原体なのだが、これはいったい虫なのか化け物なのか? 本書は、謎の虫の正体を追って、精神医学、国文学、人類学、さらに文芸、芝居にまで捜査網を張った知の大捕物である。 たとえば

盆踊り―乱交の民俗学 [著]下川耿史 伝統行事を「性的共感」から見直そうとした異色作。著者は風俗史家で、とりわけ性にまつわる本を数多く書いてきた。従来の民俗学は性のテーマを真っ向から取り上げておらず「祖霊信仰や農耕儀礼などの問題にすりかえ」てきた、とふんまんやるかたない。今では民俗芸能として多くの見物客を集める有名盆踊りも、元は交歓の相手を共同体の中で、ひそやかに選びあうことが主眼だったとみる。さらに盆踊りにつながる種々の踊りを生んだ「風流(ふりゅう)」文化は「夜ばい」や「ざこ寝」と同根、というのが著者の主張で、そのルーツを折口信夫が「謬(あやま)り」としてしりぞけた、古代の性的な行楽行事「歌垣」に、あえて求めている。 ◇ 作品社・2100円

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