◇「役に立つこと」を念頭に 科学技術と社会の関係研究−−小林傳司教授(57) 科学技術と社会の関係を研究する「科学技術社会論(STS)」という学問領域がある。小林傳司(ただし)教授(57)は01年にSTS学会を立ち上げ、日本ではなじみの薄いこの領域の研究を進めてきた。昨年3月11日の東日本大震災、その後の東京電力福島第1原発事故以降、科学と社会を巡る問題は急速に先鋭化した。小林さんは新しいエネルギー政策を巡り政府の調査や意見聴取会の結果などを検証する「国民的議論に関する検証会合」のメンバーを務めるなど、震災以降も行政と関わりながら発言を続けてきた。 震災以降、低線量被ばく問題など科学は不可欠だが、科学だけでは対処を決められない問題は山積する。「STSの蓄積は必ず生きる」と話すが、現状は「反省ばかり」だ。なぜか。「例えば原発問題でも安全/危険で色分けされ、固有のリスクがあることを前提に、それ
◇学習会で「ニセ科学」警鐘 リスクを判断する助けに−−菊池誠さん(53) 東日本大震災と東京電力福島第1原発から1年が過ぎ、書店では震災前に比べ科学関連の書籍が増えている。その中でも話題をよんだのが「もうダマされないための『科学』講義」(光文社)だ。「科学技術コミュニケーション」や「食の安全とリスク」などテーマごとに科学者、ジャーナリストが分担して執筆した。同書の第1章を担当したのが大阪大サイバーメディアセンターの菊池誠教授(53)だ。テーマは「科学とニセ科学」。 菊池さんは統計物理学を専門とする科学者だ。2000年代半ばから「ニセ科学問題」を中心に科学と社会の関わりについて精力的に発言を続けている。 ニセ科学とは「科学を装っているが実は科学ではないもの」の総称だ。例えば、今回の原発事故後でも「ある菌を使ったドリンクがチェルノブイリ事故でも有効な対策だった」とありもしない効用をうたう商品が
ソーシャルメディアの面白さは出会いのハードルを下げることにある。つながりが目に見えるようになり、インターネットから現実の生活に直接影響を与える動きが活発になっている。 私が特に注目しているのは、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に向き合う福島県での取り組みだ。科学者と地域住民が協力し合い、放射能汚染後の生活をどう再建していくかを考える「エートス」という活動が、同県いわき市などで始まっている。活動を支えるのが、ツイッターだ。 エートス発足のきっかけとなったのは、地域で林業や畜産業を営む人ら約25人が集まって開いた学習会。その活動を、参加者が発信するツイッターで知った京都女子大の水野義之教授(核物理学)が講師として参加、協力を続けている。学習会では「家庭菜園のものを食べていいのか」「肉牛が出荷制限を受けた。防ぐ方法はないのか」といった生活に根ざした率直な質問がぶつけられた。水野さんは周辺の
<おおさか発・プラスアルファ> ◇今度こそ、応えたい 東京電力福島第1原発事故による放射性物質飛散対策に取り組む神戸市のビル経営者、藤田正樹さん(37)は阪神大震災での苦い経験を活動の原点にしている。助けを求める声を無視し、逃げてしまったのだ。駆り立てたのは「今度こそ『声』に応えたい」という強い思いだったという。 ■下敷きの人残し 昨年12月、神戸市内で開かれたイベントで藤田さんは声を張り上げていた。「福島で農地ごとの除染、測定結果の公開に取り組んでいます。ぜひ現状を知ってください」 藤田さんは、もとは「理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター」(神戸市)で研究職にあった科学者だ。神戸生まれ、神戸育ち。甲南大で生物学を学び、神戸大大学院に進学した。遺伝子分野の研究を進め理学博士号を取った。遺伝子の機能を調べるために、実験の中で放射線を直接扱った経験も少なくない。その後、02年から理研で
◇2カ月で相談1400件 東日本大震災による福島第1原発事故以降、放射能汚染への不安に便乗した商法が全国で相次ぎ、国民生活センターへの相談が事故発生から2カ月余りで1400件を突破した。放射性物質の除去や被ばくの低減をうたった健康食品や浄水器の他、架空の未公開株や社債の売り付けまで手口はさまざま。トラブルも少なくないといい、同センターは注意を呼び掛けている。【石戸諭、金森崇之】 同センターによると、インターネットを中心に事故後、商品の宣伝が急増。「酵母を使った健康食品に、被ばく低減効果があるのか」「浄水器で本当に放射能を除去できるのか」などの相談が寄せられた。浄水器の中には効果が科学的に証明されていないのに約25万円するものもあった。 チェルノブイリ事故(86年)の際、放射線による急性中毒を防いだとされる砂糖玉を紹介するサイトも登場した。直径数ミリでボトルに入っており、約30粒で580円。
宮城県石巻市の鮫浦湾で漂流物の水面下に潜って捜索救助する潜水士たち=2011年3月19日、海上保安庁提供 「こんな悲しい仕事はない」。東日本大震災の行方不明者捜索にあたる海上保安庁特殊救難隊の隊員はこうつぶやいた。映画「海猿」シリーズで注目されたこの隊の最大の任務は人命救助だ。海上保安庁はこれまで被災地全体で324人を救助、76人の遺体を収容した。だが被災から2週間以上が過ぎた今は、生存者の救助だけでなく遺体発見も難しい。「ここまで捜してもらっても見つからないのなら」。行方不明者の家族が気持ちに区切りをつける。そんな役割も担っている。【石戸諭、村山豪】 救難隊員の増井雅和さん(27)が海面で叫ぶ。「車があった。人がいないか確認します」。26日、岩手県宮古市重茂(おもえ)の石浜地区。前日から周辺海域で捜索にあたっていた特殊救難隊員ら4人の捜索チームがこの日、地域住民に頼まれたのは行方不明者が
非常時に普段以上のことはできない。東日本大震災以降、強く感じている。日ごろから疑似科学を批判している科学者は、普段と同じように根拠不確かな情報が広まらないように努めていた▲専門家の動きも迅速だ。東京大の早野龍五教授もツイッターを使って原発問題を分かりやすく解説している。未曽有の大災害で被害がどこまで広がるかはわからないが、できることをできる範囲でこなす人がいかに多いか。今後の復興に向けて希望も感じている。【石戸諭】
河瀬直美監督のドキュメンタリー「玄牝(げんぴん)」をみた。舞台は「自然分娩」を実践することで有名な愛知県の吉村医院だ。「江戸時代の生活をしていれば異常なお産は無くなる」「自然なお産だと子供を愛せる」という発言が随所に出てきた▲違和感を覚える。帝王切開で産み、子供を愛している親はいる。医療環境が整っていない江戸時代のほうが母子に負担がかかる出産だったのは容易に想像できる。「自然だから良い」という発想はどうもなじめない。【石戸諭】
「麻疹(ましん)などを予防する新3種混合(MMR)ワクチン接種と自閉症発症に関連がある」。98年、英医学誌に発表された説だ。当初から研究者によって批判され、調査結果自体も「でっち上げ」だった▲だが、この説は一気に広まっている。メディアが「危険性」をあおったためだ。英国ではワクチンの接種拒否、はしか感染者が増えた。いいかげんな説を信じて危険性を訴えた結果、別の危険を生みだす。日本でもよくあることだ。人ごとではいられない。【石戸諭】
全国的にクマの出没が相次ぐ中、「餌不足のクマのために」とドングリを山にまいたり、山中に果物を持ち込む行為が問題となっている。クマの生態に詳しい専門家は「野性動物への餌付けであり、他の場所で採集したドングリを山に持ち込むことは生態系を壊すことにつながる」と警鐘を鳴らし、「生態系にあった植樹を」と提唱する。【石戸諭】 ◇山の生態系壊さぬ対策を 善意の餌付けで人里出没も 環境省によると、クマによる死者、負傷者は昨年11月末現在で145人。09年度の64人を大きく上回り、捕獲も3854頭に達した。県内でも昨年12月末現在で196件の出没情報が寄せられ、統計を取り始めた00年度以降で最高を記録。原因として考えられるのがクマの餌となるドングリ類の不足だ。ドングリがなるブナは豊作と凶作を繰り返し、昨年は06年以来の凶作年だった。このため人里にクマ出没が相次いだ。 一部の自然保護団体は「餌不足のクマを救お
ちょっとバタバタしていて、更新に間があいてしまいました。 さて、毎日新聞の石戸記者の記事にちょびっと登場しております。なんか自分のこと書くのは恥ずかしいですね・・・。ありがとうございました。 きび談語:1月17日の岡山面で… /岡山 2・24 1月17日の岡山面で、刑務所の過剰収容問題を紹介しました。取材の過程で大きな示唆を与えてくれたのが「犯罪不安社会―誰もが「不審者」?」(光文社新書、浜井浩一・芹沢一也著)です▲「現在、治安は悪化し、凶悪犯罪が多発している」と言えば納得する人は多いと思います。これは事実でしょうか。答えは否。同書では犯罪関係の統計や犯罪の語られ方などを多角的に分析し、「治安悪化説」に根拠がないことを解き明かしてします▲「06年ベスト新書」の声もある同書。編集を担当した倉敷市出身のフリー編集者、安原宏美さんは「事実ではなく、感情で治安対策を進めていいのか」と言います。虚
毎日新聞の石戸記者から掲載連絡メールをいただきました。 ---------------------------- きび談語:警察に逮捕された容疑者が… /岡山 警察に逮捕された容疑者が軽度の知的障害者だったと報道された事件に関して、知人からこんなメールをもらった。「障害への理解が浅はか。なぜ社会的な支援から漏れてしまったのかが大事なのでは」▲知人の指摘はもっともだ。実際に、同じような障害の子供がいる人に話を聞いたことがある。日常生活の大部分は支障なくこなせるため、かえって理解が進んでいないというのだ。「相談できる場所はどこにあるのか。周囲の支援がもう少しあれば」とも話していた▲望ましい支援や福祉について考えてしまう。容疑者の言動をこれ見よがしに伝えるニュースが、障害者の“不審者扱い”や排除につながらなければいいのだが。問題は別にあると思う。【石戸諭】 毎日新聞 2009年1月9日 地方版
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