2020.11.16 なぜ戦争は起こるのか?――『進化政治学と国際政治理論 人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ』(芙蓉書房出版) 伊藤隆太(著者)国際政治学、安全保障論 なぜ人間は戦争をするのだろうか。この究極的な問いをめぐり、これまで社会科学では一つの誤った発想が中心的なドグマとなっていた。それは、「戦争は人間の本性とはかかわりがない」という考え方である。 このルソー的なドグマは翻って、「戦争は学習された産物である」、「戦争は西欧文明の退廃さにより引き起こされる」、「人間は本性的には平和的である」といったおなじみの命題に派生していく。たとえば、戦争は人間本性に由来するという古典的リアリスト(ホッブズ、モーゲンソー等)の先見的な洞察にもかかわらず、1970年代以降行動論が台頭する中で、国際政治学はより「科学的」な理論を目指して、人間本性論を拒絶するに至ったのである。 しかし、進化論

近年の中国の経済的・軍事的台頭、イギリスのEU離脱とアメリカの政治的混乱、そして貿易戦争 から始まった米中冷戦の時代を予感あるいは意識してか、この十年間に戦略書が、英語で書かれたものだけを見ても、続々と出版されている。その中でも出版国で評判が高く、日本で翻訳されたものが二冊ある。 一つはローレンス・フリードマン(2018)『戦略の世界史(上・下)』(日本経済新聞出版社、 原著は2013年刊)であり、もう一つが今、読者が手にされている本書である。前者の翻訳が出るのに5年かかったのは、751頁と大著であるからだろう。本書は、その半分ぐらいだが、今年の4月に出たばかりで、いくつかの書評によれば評価は高いようだ。両書とも、戦略論の分野の古典になると思う。 著者のジョン・L・ギャディスは、テキサス大学オースティン校で歴史学の博士号を取得後、オハイオ大学教授、アメリカ海軍大学校客員教授などを経て、『大

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