■机にしがみつくような毎日 武蔵に清盛、曹操、尊氏。躍動感あふれる物語にみんな夢中になった。没後50年を迎えた国民作家、吉川英治。その作品は今も愛され続けている。 その生涯にのこした長編は80編、短編は180編に及ぶ。一人の作家がなぜここまで膨大な作品群を生み出すことができたのか。 「文字通り、机にしがみついているような毎日の連続だった」。長男の英明さんは著書『吉川英治の世界』で仕事に没頭する父の姿をこう記している。 吉川英治記念館の学芸員、片岡元雄さんに聞けば、「仕事人間」のエピソードは枚挙にいとまがない。朝起きたらまず、縁側沿いの文机に向かう。朝食や洗面器を妻に運ばせ、食事も歯磨きも机に座ったまま。10本近い仕事を抱えていた時は、作品が多くて始まりの場面がわからなくなるため、書生に毎回、連載の最後の数行を書き写させていたほどだったそうだ。 ■大衆の心つかんだ永遠の青春小説 『宮本武蔵』

吉川英治が亡くなって、ことしで五十年になるという。吉川英明『父 吉川英治』(講談社文庫)が6月に新装復刊されてはじめて知った。 吉川といえば、『宮本武蔵』や『新書太閤記』、『新・平家物語』、『私本太平記』、『三国志』などの大長篇小説をはじめ、数十年かけても読みつくせないほどの厖大な作品群が残されているものの、わたしは数えるほどしか読んだことがなかった(中学時代、わたしのクラスで「吉川版三国志」がちょっとブームになった。その頃いくらか読んだのである)。 この夏、H先生が蔵書を整理されるというので、吉川や司馬遼太郎、新田次郎(新田はことし生誕百年をむかえた)の文庫をたくさん下さった。そのなかに、吉川の出世作『鳴門秘帖(一)(二)(三)』(講談社吉川英治文庫1975)もあったから、こないだ読みはじめ、いま第二巻まで読みおえたところ。やはり、めっぽう面白い! 先月末のことであったか、某所で、この作

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