この秋、出口治明さんと古典を学ぶ講座に参加している。毎月1冊、光文社古典新訳文庫のラインナップの中から出口さんがおすすめの作品を取り上げ、当日はその本にまつわるお話と(しばしば脱線するがこれが楽しい)活発な質疑応答とで、あっという間に2時間が経ってしまう。実に中身の濃い贅沢なひとときだ。 講座は全5回で、初回はダーウィンの『種の起源』、2回目はプラトンの『ソクラテスの弁明』だった。ちなみに来月予定されている3回目はヴェルヌの『地底旅行』だそう。自然科学、哲学と来てまさかのSFという流れが素敵である。 「古典を読めば、世界がわかる」と題されたこのイベント、どうしてこんなに面白いのか。もちろん博覧強記の出口さんの語り口に多くを負っていることは間違いないが、「古典新訳文庫で作品に触れる」という点も大事なポイントだと思う。実際、このレーベルのおかげで初めて最後まで読み終えることができた古典がたくさ

最近、土屋政雄の翻訳について話す機会があった。『日の名残り』の「プロローグ」の 原文と訳文をあらかじめ読んでもらい、その楽しみ方を話していった。以下はそのときに話した内容、話すつもりで十分には伝えられなかった点をまとめたもの である。 翻訳を職業にしている以上、当然といえば当然のことですが、すぐれた翻訳家が訳した本をよく読んでいます。何かのヒントが得られないかと考えて、原文と 訳文を見比べていくことも少なくありません。そうやって読んだ翻訳書は数百冊あります。そのなかで、これは名訳だと思えるものはそう多くないのですが、今 回紹介する土屋政雄訳の『日の名残り』は、文句なしの名訳、たぶん、ベスト5に入る名訳だと考えています。 土屋訳の「プロローグ」を読んで、これが翻訳なのかと驚いた人が少なくないのではないでしょうか。翻訳というより、土屋政雄が日本語で書いた小説なので はないかと。そういう感想をも
ホント、みんなケインズの英語が名文すぎるとか実に難解だとかなんとかいうけど、ふつうだよ。当時の人の多くはああいう書き方したんだよ。マーシャルとか読んでごらんよ。みんな、自分の英語力がないのをごまかそうとして、わかりもしないのに美文だとか言ってるだけ。 すでに要約は一通りあげたけど、そんなに難しいと思わなかったし、普通に訳してみたよ。古くてうだうだしい感じを吸収するために、ですます調にしてみた。関係代名詞で長くだらだらつなげる文章は、遠慮なくぶった切った。でも、ケインズなんてこんなもんだよ。 ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』山形浩生訳(全訳) (pdf 780kb) これまでの訳は、英語も経済学もよくわかってないやつが、もったいつけてむずかしく訳そうとするから難しくなってただけの話なんだよ。 まあこの調子で全訳あげるかどうかもわからないけど(スミスとマルクスも途中なんだよなあ)……とい

すっごい下らないことだが。 以前勉強会で、どんなに深遠で難解な本のタイトルでも英語にすると簡単に見えるという話になったことがある。実際にデリダの『エクチュールと差異』はWriting and Differenceだったりする。というわけで、何でも大阪弁に翻訳してみると非常に気楽な感じになるのに気づいた。 例えば デリダ『エクリチュールと差異』>『書くこととちゃうねん』 クンデラ『存在の耐えられない軽さ』>『おるっちゅうことのもう我慢ならん軽さ』 キェルケゴール『死に至る病』>『往生するまでのダルさ』 マルクス『資本論』>『あきんどとは』 ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』>『ツァラトゥストラはこう言いはりました』 西田幾多郎『善の研究』>『善いってなんぼ?』 みたいな感じ。もちろん俺はネイティヴな大阪弁を操れないから適当だが。
だいぶ前に「池内紀氏が嫌い」と日記に書いたことがあるけれども、頃日こちらの記事を読んでその理由が自分なりに明確になった。なるほど彼はそういう態度で翻訳にあたっていたのか、と目からうろこが落ちた。 池内氏の翻訳態度を自分なりに総括すると、原文を尊重しないこと、これに尽きる。もちろんそれが端的にいけないというわけではないし、場合によっては相当な効果を生むこともあるだろう。しかし、である。こういう態度は、原著者よりも翻訳者のほうがえらい、という見識のあらわれでもあるのではないか。あるいはそこまでいわなくても、翻訳者はテキストを自由に編集する権利がある、と本気で信じているのではないか。 編集、それはふたつのもののあいだをとって調整する、ということだろう。同じく中間的存在であるという点で、それは翻訳という作業と馴れあいやすいのかもしれない。しかし、両者はあくまでも別物だ。編集ということをいろんなもの
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