このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。 X: @shiropen2 オーストリアのザルツブルク大学とニュージーランドのオークランド大学に所属する研究者らが発表した論文「Acute Effects of Fasting on Cognitive Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis」は、断食状態と満腹状態での認知パフォーマンスを比較し、断食が認知機能に与える影響を調査した研究報告だ。 断食が脳の働きに与える影響について、これまで「朝食を抜くと頭が働かない」「空腹時は集中力が低下する」といった通説が広く信じられてきた。 研究チームは63の研究論文から得られた2

北京の研究者のチームが、アルミニウムイオン電池の安定化に成功したと発表しました。リチウムイオン電池よりも優れた代替品として、アルミニウムを用いた電池を開発できる可能性が期待されています。 Aluminum Batteries Outlive Lithium-Ion With a Pinch of Salt - IEEE Spectrum https://spectrum.ieee.org/aluminum-battery リチウムイオン電池は軽量で大容量の電力を蓄えることが可能なため、スマートフォンや電気自動車などの分野で幅広く活用されています。しかし、素材となるリチウムは高価で価格変動が激しいほか、リチウムイオン電池には発火性の電解液が必要などの欠点があります。 アルミニウムは地球の地殻で3番目に多い元素で、価格がリチウムの約4分の1と安く、電池への利用可能性を探る研究が行われてきました

因果を破って充電します。 東京大学で行われた研究により、因果律の壁を打ち破る新たな手法によって、従来の量子電池の性能限界を超えることに成功しました。 これまで私たちは古典的な物理学も量子力学でも「AがBを起こす」と「BがAを起こす」いう因果律が存在する場合、一度に実行できるのは片方だけであると考えていました。 しかし新たな充電法では、2つの因果関係を量子的に重ね合わせる方法が用いられており、「AがBを起こす」と「BがAを起こす」という2つの因果の経路から同時に充電することに成功しました。 研究者たちはこの方法を使えば、既存の量子電池の充電能力を高めることができると述べています。 しかし因果律を破るとは、具体的にどんな方法なのでしょうか? 今回はまず因果律を打ち破る不確定因果順序(ICO)と量子電池の基本的な仕組みを解説し、その後、2つの量子世界の現象を組み合わせた今回の研究結果について紹介

地球の土壌に生息する一部の細菌は他に栄養源がない時、空気に含まれている微量の水素を分解し、電子をエネルギーとして取り出しています。オーストラリア・モナシュ大学の生物医学研究者であるRhys Grinter氏らの研究チームは、水素を分解する酵素を細菌から分離し、実際に空気中の水素を直接電流に変換することに成功したと報告しました。 Structural basis for bacterial energy extraction fromatmospheric hydrogen | Nature https://doi.org/10.1038/s41586-023-05781-7 Electricity from thinair: an enzyme from bacteria can extract energy from hydrogen in theatmosphere https:

InnovativeTech: このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。 スマートフォンやノートPC、電気自動車などで使用するバッテリー(リチウムイオン電池)は、長年使っていると充電の減りが早くなる。これは電池を使っていないときに電池内で放電と似た化学反応が起きてしまう自己放電という現象が原因だ。 カナダのダルハウジー大学に所属する研究者らは、そんなリチウムイオン電池が自己放電する理由を、偶然にもリチウムイオン電池の実験中に明らかにした。 前提の説明として、リチウムイオン電池には正極と負極があり、その間にセパレータがある。これらの部品は、いわゆるジェリーロール状に巻かれたものと積層されたものがある。いずれの場合も、ジェリーロールや電池の積み重ねを固定するためにテ

AWS Oceanは、「Archimedes Waveswing」と名付けた装置を6カ月にわたり海中で稼働した結果、中程度の波の状態で10kW以上、最大で80kWを出力できたと発表した。この成果は、同社の予想を20%上回ったという。 Archimedes Waveswingは、ブイに似た50トンの装置で、海底からケーブルでつながれ、海面の少し下に設置されている。通過する波の力を利用して発電する仕組みだ。AWS Oceanによると、試作機は風力階級10の暴風で荒れた海にも耐えることができたという。スコットランド北方のオークニー諸島沖で進められている今回の試験は2022年中に終了する予定で、2023年にはさらなる試験が計画されている。

風力発電は、きちんとした条件のもとで使用すれば、天然ガスよりも安く、それでいて余計な二酸化炭素を排出しないクリーンな再生可能エネルギーだ。 他の発電施設に比べて、見た目的にも人との親和性が高く、付近に設置されることへの抵抗感が少ないというメリットもある。 そんなクリーンなエネルギーだからこそ、2019年には60ギガワット以上もの風力発電タービンが新たに設置されるなど、世界で急速に普及が進んでいる。 だが良いことばかりではない。鳥が風車の羽(タービン)に衝突して命を落とすというケースが相次いで報告されているからだ。現在その対策として検証が進められているのは、羽に色を塗る試みだ。 風力発電の弱点は鳥の衝突 風力発電は、そのクリーンさとは裏腹に、環境への影響がまったくないわけでもない。例えば鳥やコウモリといった空飛ぶ動物にとって、風力タービンは空中に仕掛けられたギロチンのようなものだ。アメリカ

支柱などで太陽光発電を行うソーラーパネルを高い位置に設置し、その下の空間で農業を行う試みは「営農型太陽光発電」と呼ばれており、発電と農業を組み合わせて収益を得ることが可能です。イギリスやイタリアの研究チームが行った実験により、通常のソーラーパネルではなく「着色した半透明のソーラーパネル」を使うことで、営農型太陽光発電における農業の効率が向上する可能性が示されました。 Tinted Semi‐Transparent Solar Panels Allow Concurrent Production of Crops and Electricity on the Same Cropland - Thompson - - Advanced Energy Materials - Wiley Online Library https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full

金属の表面をレーザーで加工することで、「完璧な太陽エネルギー吸収体」を作り出すことに研究者たちが成功しました。これを用いることで、より理想的な太陽光発電システムを作り出すことが可能となります。 Lasersetch a ‘perfect’ solar energy absorber : NewsCenter https://www.rochester.edu/newscenter/lasers-etch-a-perfect-solar-energy-absorber-414902/ ロチェスター大学はクモやアリの水に浮くことができる能力をヒントに、「水に浮く金属」を開発しました。水に浮く金属は、非常に短いパルス幅で発振することでレーザー強度を高くしたフェムト秒レーザを用いることで、金属表面に強い疎水性(超疎水性)を持たせるというものです。 ヒアリやミズグモに触発された「沈んでも浮く金属」

理化学研究所と東京電機大学の共同研究チームは10月17日、ミミズの筋肉組織を利用した小型ポンプを開発したと発表した。動作のためのエネルギー源には、生体の共通エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を利用しており、将来、ミミズと同様の構造を人工的に作ることができれば、電力不要で駆動する超小型ポンプを開発できる可能性があるという。 ポンプは、体内埋め込み装置の開発など最先端研究分野で小型化が求められているが、従来の圧電素子による小型ポンプは、電源やワイヤーなどが必要で、小型化には限界があった。 研究チームは、小型ポンプの材料に生体筋肉組織を利用することで、小型で効率のよいポンプが実現できるのではないかと発案。ミミズの体表を構成する「体壁筋」に着目した。ミミズの体壁筋は収縮力に優れ、制御性や応答速度にも長けているためだ。 まず、フトミミズを輪切りにして開き、幅約1センチのシート状にし、電気

理論物理学者スティーブン・ホーキングは、ヒッグス粒子の研究が進むことで、時空の完全なる崩壊というシナリオの引き金を生んでしまうのではないかと危ぶんでいる。粒子に膨大なエネルギーを与えるこの実験が、この宇宙を飲みこんでしまうほどの「壊滅的な真空の崩壊」を引き起こすかもしれないというのだ。 人類が神の領域に入り込んでしまったことで、「審判の日」はすぐそこまで迫っているのだろうか? ヒッグス粒子は、2012年に欧州CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使って発見された素粒子で「神の粒子」とも呼ばれている。 ヒッグス粒子は、1000億ギガエレクトロンボルト(GeV)を超える高エネルギー状態では準安定状態となる。 この時、真空の泡が光速で膨張していく破滅的な真空崩壊が起こる可能性があるという。著名な科学者らの講義内容を書籍化した「スタームス(Starmus)」という本の序論でホーキングは、「

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