皆さんこんにちは。昨年末のコミックマーケット97では、緋悠梨さんと夏鎖芽羽さんが企画された『ラノベ読み合同誌 2010年代推し作品レビュー集』に寄稿しました。ここで私は今井楓人『救世主の命題〈テーゼ〉』全3巻(MF文庫J、2013~14年)を紹介しました。この作品は、以前3回にわたって2万2000字という長大なレビューを書いた、私にとって深い思い入れのあるオススメの作品です。 今回の合同誌で「2010年代のライトノベル」として取り上げた際に、改めて『救世主の命題』を再読してレビューを書きました。すると不思議なものです。以前にあれほど論じたのに、改めて色々な思いがこみ上げてくるのです。だから、もう一度この作品について語ろうと思います。よろしくお付き合い下さい。 ―目次― 1.2010年代を代表する作家としての野村美月 2.美少女ゲームに対する高い批評性 3.6番目のヒロイン・ルーメをめぐって

最近のネットでは「異世界ファンタジー」という言葉の意味が変質してきている、という問題は以前から何度か指摘されていました。 ごく最近になって新たに出てきた「異世界ファンタジー」の用法というのは簡単に言うと、「基準となる世界(多くの場合は現実に近い世界)とは別の一つないし複数の世界が登場するファンタジー」もしくは、「RPG風の職業やステータスやスキルといった概念が存在するファンタジー」ということになります。これは言うまでもなく、現在web小説およびその書籍化(ラノベ)で流行している異世界転移・転生ファンタジー作品群を想定したものです。 その背後には若い世代の、 「ファンタジーが別の世界を舞台にするのは当たり前でしょ?なのにわざわざ『異世界』って付けてるんだから、転移転生のことに決まってるじゃない」 「『伝統的なファンタジー』が舞台にしてきた世界と、現在のなろう系ファンタジーが舞台にするステータ

前回:第1回:大人だってラノベが読みたいんですっ!(ライトノベルの特異点はどこですか?:ゼロ年代後半から分かるラノベ史) ◆「空気」を読むのが苦手でした。私事から入るのは大変恐縮だが、中学校や高校に通っていた六年間、クラスの「空気」というものが非常に苦手だった。いわゆる「リア充」が空気を支配していて、陰キャであるところの僕はそれにサイレント・マジョリティとして従うことを余儀なくされた。「大体コイツはこういうキャラだ」というレッテルを半ば押し付けられて、それに従って生きるのに若干の息苦しさを感じていた。 僕が「生徒」という身分だったのは五年くらい前までの話だが、丁度そんな状況を的確に表していたのが鈴木翔の『教室内(スクール)カースト 』(2012)である。今にして思えば、カースト制のようにクラスの中でも順位があって……という話は、ゼロ年代の中盤から生徒たちの間では半ば常識のようなものとなって

(作者より)ええと、これから語ることは、自分語りのようなものだ。十年以上ライトノベル市場から離れていた人間が、どうやって細々とはいえ戻ってきたのか、という話だ。 何かの足しになるかは疑わしい。ただ、消える作家は今も昔も多い。これを書いている自分とて、また消える可能性は大いにある。でも、誰かの参考にでもなればいーかな、と思って書こうと思った次第だ。 ——では、はじまりはじまり。 2004年のことになる。デビュー作の電撃文庫「ストレンジロジック」を書いた後、ぶっちゃけた話行き詰まっていた。 (リンクをクリックで商品ページに飛びます。今新品無いけどー!) いやずいぶん早いな! って言われるかも知れないけど、全く創作蓄積の無いままデビューしてしまった奴である。お許しいただきたい。 というか、ストレンジロジックの2巻がポシャったのである。原因はいくつかあるが、最も大きなところは自分の遅れだ。一応書き

異世界召喚・転移・転生ファンタジー小説の歴史 日本の異世界(異界)へ行く物語の歴史は、1820年以前よりもさかのぼれます。平田篤胤ののこした『仙境異聞』は仙界で暮らした少年の話をまとめ、宮地水位が記した『異境備忘録』は神界や魔界への旅の記録をのこしています。これらはファンタジーというよりオカルト的要素が強く出ています。 異世界召喚ファンタジーといえば、高千穂遙さんが1979年に書いた『異世界の勇士』が有名です。高校生の主人公リュージが異世界へ招かれて災厄を救う物語です。また、半村良さんの『亜空間要塞』(1974年)も異世界転移作品といえるかもしれません。 1991年ころから、不安定な社会情勢を背景に、異世界へ行く物語が増えはじめます。しかし以降、現代世界から異世界へ行く召喚・転移ものはなりをひそめ、異世界を舞台にした異世界の物語、異世界ファンタジーが隆盛しました。 そして2011年。ネット
要するに「昔のラノベと今のラノベで何となく似た要素がある作品を比較して紹介しちゃおう」という記事です。 『涼宮ハルヒの憂鬱』 vs 『いでおろーぐ!』 涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫) 作者: 谷川流,いとうのいぢ出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2003/06メディア: ペーパーバック購入: 20人 クリック: 1,535回この商品を含むブログ (1481件) を見るいでおろーぐ! (電撃文庫) 作者: 椎田十三,憂姫はぐれ出版社/メーカー:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス発売日: 2015/03/10メディア: 文庫この商品を含むブログ (10件) を見る行動力に溢れたヒロイン、その彼女を補佐する主人公、無愛想でぺったんこな少女、ふわふわした美少女、なんだか胡散臭いイケメンと、彼らが所属するよく分からない部活動、そしてヒロインに秘められた能力は世界の危機にまで

3位 世界最高の話し方 1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール 岡本純子 ¥385

先日、現カクヨム世界一位の「横浜駅SF」の作者イスカリオテの湯葉さんがこのようなツイートをしておられました。 (※なお、例のアレとアレはやはりランキング除外されておりました。そうだね。) ※横浜駅SF(イスカリオテの湯葉) - カクヨム 絶えまない増改築の続く横浜駅がついに自己増殖能力を獲得し日本の99%を覆い尽くした未来を描くSF小説。 あらすじで全力でぶん殴った読者の首根っこを引っ掴みぐいぐい読ませる。一発ネタを発展させた「誰がここまでやれと言った」タグを進呈したくなる作品。 面白いぞ!*1 これ、同じ疑問持ってる人少なくないと思うんですよね。 最近「小説家になろう」出身作品を中心にWeb小説が大人気で、ランキング上位の作品は軒並み書籍化されていて(というか最近はそろそろ人気出てきたかな?→書籍化決定しました! 報告が当たり前になってきていて)アニメ化される作品もいくつも出てきて……っ

ライトノベルのアニメ化はそもそもが破綻してるような気がしてきた。 | AniSosa 今まで色々なライトノベルがアニメ化されてきました。しかし、その中でアニメ業界を代表するような作品はほとんど無かったと思います。放送中の反応は大きくても、放送終了時には、期待されていなかった原作の作品や、オリジナル作品の話題であることが多く、次の作品が放送され始めると、全くと言っていいほど話題に上がらなくなります。 「 アニメ業界を代表するような作品」の解釈は分かれそうだが、「涼宮ハルヒシリーズ」や「物語シリーズ」などは全てのアニメ作品の中でもトップランクのセールスを記録しているし、 続編が見たいアニメアンケート*1などでもライトノベル作品が上位を占めていることから、放送終了後に話題にならなくなっているわけでもないだろう。 端的にいうと「お金を出しているアニメ出資社側の商品は売れず、お金を出してない出版社側

小説家になろうの月間ランキングでは長らく「悪役令嬢モノ」がブーム。いつの間にやら大流行り、書籍化作も読み切れないほど出てきて、女性向け恋愛モノとしては一大ジャンルになりました。 悪役令嬢モノというのは「前世でプレイした"乙女ゲーム"or愛読していた"少女マンガ"の世界に転生した主人公が、自分は"ヒロインをいじめる悪役"のポジションだと気がつき、シナリオで予定されたバットエンドを回避するため東奔西走する」系ジャンル。 それ以前、女性向けでは「乙女ゲーム世界に脇役(モブ)転生して傍観生活」がブームでしたが(詳しくはなろう女性向けのブーム変遷)、大分能動的になった印象です。傍観系脇役だとやはりストーリー展開しづらいんですかねー。 悪役令嬢モノは、既定の物語に干渉して運命を捩じ曲げる、カタルシス的な要素が読者にウケた気がします。局地的に流行った「ざまぁ」展開(実は腹黒な良い子ちゃんヒロインに陥れら

yomou.syosetu.com 「小説家になろう」投稿作品で人気のジャンルがファンタジー世界への異世界転移、転生物だ。まあこういうジャンルの物語というのは昔から存在していて、人気もあるので特に不思議ではないのだけど、読者がすぐに作者になれるWeb小説サイトの特性なのだろうか、設定の共有具合がすごいなあと思うのだ。 転生物と転移物 ファンタジー世界での活躍自体はあまり違わないのだが「転移」と「転生」という異世界への行き方の違いがある。「転移」は主人公が勇者召喚などの魔法、または偶然開いた次元の裂け目への転落などの方法で肉体を保ったまま転移するものだ。突然異世界に召喚されるため、元の世界では行方不明となる。 異世界に勇者として召喚される作品というのは昔からあるのだが、「なろう」で特徴的と言っていいパターンが勇者召喚を異世界からの誘拐とみなす視点だ。まあ実際なんの同意もなく日本の日常から魔物
この記事は、小説投稿サイト「小説家になろう」において、ある種の異世界ファンタジーが流行あるいは定着しているのは何故か、という問題について、簡単に整理したものです。 『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』や『オズの魔法使い』や『火星のプリンセス』や『聖戦士ダンバイン』の話ではありませんのでご留意ください。 さて、現時点での情報を整理してみますと、 1. 最強、召喚、転生、憑依、逆行、内政といった特徴的な要素は、二次創作SSの界隈で熟成されてきたものである 2. 『ゼロの使い魔』の二次創作SSが流行し、「好きなキャラをファンタジー世界へ召喚するためのフレームワーク」として確立された (3. このフレームワーク的な異世界ファンタジーが、その他の特徴的な要素と共に、「小説家になろう」に流入した?) 4. 「小説家になろう」が二次創作禁止になり、受け皿として用意された二次創作専用サイトの「にじフ
『幻想再帰のアリュージョニスト』 この小説が面白すぎてもう辛抱堪らなくなったので(エア)ステマ*1です。 異世界転生保険とは契約者本人を受取人として、保険量である新たな人生を給付する制度である。 身の程を知らない、馬鹿な思いつき――そのような予断に基づいて下された攻撃命令。暗号通貨の交換所に攻撃を仕掛けた十六人の呪文使い達が一人残らず攻性防壁で脳を灼き切られたばかりか、感染呪術によって三親等以内の親族が皆殺しにされるという大惨事に直面して、ようやく【公社】の電脳保安部の責任者は事態が自らの手に負えないレベルにあることを認識した。 事象改竄系過去遡及呪文【叙述悪戯】。 語りの焦点をずらし遠近感を狂わせ、時間を遡って過去の事象を再解釈し、『実はこうだった』という事実の開示(に偽装した過去改変)を行う類推呪術(アナロギア)の一種。 性別誤認、年齢誤認、人物誤認、数量誤認、状況誤認、時間誤認、動機
2014年05月09日23:26 新人賞作家は2冊目で本当にサヨナラなのか? 調べてみました。 カテゴリ新人賞雑談 (;`・ω・´)「今日はなんでしょう?」 (´・ω・`)「先日のこの記事を読んで、ちょっと気になったから色々と調べてみた」 ・有名ラノベ・エロゲライターが語る「業界の裏事情」(ニュー速VIPブログ) (;`・ω・´)「ここに書いてあったこの文ですね」 ・新人が増えすぎて 編集は新人賞作家の面倒を見てらんない → 2冊目でサヨナラ (´・ω・`)「実はうちのブログは細々とライトノベル新人賞に関しては細々と取り上げ続けていて、主要レーベルの新人賞だったら3年くららいは遡ることができる」 (;`・ω・´)「長いことやってきましたね」 (´・ω・`)「そういうわけで今回は2012年の新人賞の追跡調査してみて本当に新人賞作家は2冊目でサヨナラかどうかを検証してみました」 その時の記事:
今から約一年ほど前にHJ文庫大賞にて『せんせいは何故女子中学生にちんちんをぶちこみ続けるのか?』という作品が奨励賞を受賞したとき、僕は大いに落胆したものだ。 「一見過激そうなタイトルをつけてはいるものの、どうせそれは単なる言葉遊びで、問題作と謳いながらも結局内容は毒にも薬にもならないラブコメなんだろう? そういうのはもううんざりなんだよ」 それから一年の時が流れ、とうとうその問題作が発売された。流石にタイトルは変更されたものの、これはこれでろくでもないタイトルである。「こんなろくでもないタイトルをつけて、いったい中身はどんなもんなんだろうね」と手に取ってみたら主人公が本当に強姦魔で、物語開始時点ですでに中学生たちを強姦していた…………ああ、こういうの有りなんだ。ごめん、舐めてた。 この記事の人みたいにぜってーブラフだと思ってたわー。いやいやいやってか強姦魔って。あれかな? HJ編集部はGA

毎年恒例、今年1年間に刊行された百合ライトノベルまとめ。唯一の本ブログ定例企画です。過去は下から 2011年2010年2009年 作品ラインナップ かなり緩い判断基準で百合と判断しています。ご了承くだし。 ※それは百合じゃないだろという反論は受け付けません。これは百合だったよは随時募集。 ノートより安い恋 ノートより安い恋 (Yuri‐Hime Novel) 作者: 森田季節,小山鹿梨子出版社/メーカー: 一迅社発売日: 2012/03/17メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (12件) を見る 世界の終わり、素晴らしき日々より 世界の終わり、素晴らしき日々より (電撃文庫) 作者: 一二三スイ,七葉なば出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス発売日: 2012/09/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 23回この商品を含

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