野矢茂樹『新版 論理トレーニング』 「論理パズルの本」ではない 接続詞に魂を込めろ 的外れな応答をやめろ 批判的に読め って何?Twitterの見るに堪えない議論を越えろ 野矢茂樹『新版 論理トレーニング』 論理トレ-ニング (哲学教科書シリーズ) 作者:野矢 茂樹産業図書Amazon昔から評判だけ聞き及んでいたが、実際読んでみたら予想を遥かに超えた良著だった。 昔から「わかりやすい・論理的な・まともな文章を書くには何を読めばいいのか」というような質問を無限回受けてきたが、一旦これを読んでほしい。 きちんと勉強してきた人が知的活動の前提として保有している論理的思考力、もう少し地に足の付いた言い方をすれば「込み入った事柄を正しく扱う能力」をここまで明瞭に言語化している本を他に知らない。 「論理パズルの本」ではない まず最初に注意しておきたい点として、もしかしたらタイトルから受けるかもしれな
ロッキング・オン・グループ(株式会社ロッキング・オン・ホールディングス、株式会社ロッキング・オン、株式会社ロッキング・オン・ジャパン)代表取締役会長渋谷陽一は、7月14日(月)未明に永眠いたしました。 ここに生前のご厚誼に深謝し、謹んでお知らせ申し上げます。 渋谷は2023年11月に脳出血を発症し、緊急入院いたしました。手術後は療養を続けながらリハビリに取り組んでおりましたが、今年に入り誤嚥性肺炎を併発、74年の生涯を終えました。 1972年に20歳で『rockin’on』を創刊した渋谷は、音楽評論家・編集者・ラジオDJ・フェスプロデューサーとして多方面にわたり活動してまいりました。渋谷の活動を応援してくださった読者・参加者・各関係者の皆様に深く感謝申し上げます。 なお、葬儀は故人の意向により、近親者のみで執り行いました。 誠に恐れ入りますが、御香典・御供花・御供物・御弔電につきましては辞
香山リカの根本敬論精神科医の香山リカが2019年に『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー 根本敬論』という本を出版しています(版元は『Quick Japan』や村崎百郎と根本敬の共著『電波系』を出した太田出版です)。副題にあるように、これは根本敬の世界をトータルに論じた現時点で唯一の書物です。追って述べるように、かなり込み入った内容の本なのですが、この本は「根本敬論」であるだけでなく、「ヘイト」を生み出し「悪趣味」が流行し「サブカルチャー」が変質し(て「サブカル」になっ)ていった時代を、根本の作品を通して(自己)反省的に問い直すものでもあります。 香山リカは、1980年代前半、まだ医大生だった時に、当時「自販機本」と呼ばれていた街中の自動販売機で売られていた成人向け雑雑「HEAVEN」の編集/執筆者として登場しました(リカちゃん人形と同じ「香山リカ」は、もちろんペンネームです)。「HEAVEN」

60年代のビートルズやボブ・ディラン、80年代のプリンスや70年代のデヴィッド・ボウイ、スティーヴィー・ワンダーのように名作を連発し続けて、当時の音楽表現を常に更新し続けてきた時期を持つアーティストが、数はかなり限られますが一定数います。 今回はそんな特別なアーティストと言えるカナダのシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)の80年代までのアルバムレビュー書いてみました。おまけで彼女の90年代最初のアルバム『Night Ride Home』もレビューしています。 また今回は自分なりに点数をつけてみました。これは作品の一般的な評価とは異なる完全に好みでつけた点数になります。まあ、点数については参考までにということでお楽しみください。 Song to a Seagull (1968) 記念すべきデビューアルバム。基本的にジョニの歌とギターのみのシンプルな作り。プ


はじめに。これは映画『怪物』の内容とその問題点に触れる。映画『怪物』には児童虐待、いじめ、具体的な差別描写、児童を含めた自死をにおわせる表現、動物の死などの注意が必要な描写が多数含まれる。当事者、そして当事者性を強く持つ存在にとっては暴力性が強い内容が含まれるのだが、それらについて宣伝配給からの警告はない。改めて、当事者、もしくはいじめや虐待、自死描写がトリガーになり得る観客にとって致命的な傷を受ける可能性があるということを此処に明示する。同時に、そういった暴力性について触れながら、映画『怪物』とそれらを巡る諸問題に具体的に言及するため、この文章自体があなたにとって辛いものになり得るかもしれないことをあらかじめ警告する。ご自身の状態と相談して、読み進めて貰いたい。 日本映画だけでなく、日本の作品はこれらの命・精神に関わる警告を軽視しすぎていると日々感じている。これらの描写を“取り締まれ”と


突然過ぎて意味がわからなかった。ギタリスト・笹久保伸が3月11日、Xにてジャズ評論家の柳樂光隆氏を名指しで批判し始めたのである。いわば音楽家から評論家へのカウンターだ。 ミーハーで口だけのクソみたいなやつに褒められても喜ぶフリをしないといけないんだから音楽家の人生も大変だよ。 若い人々は評価を無視して作品を作った方がいい。 近年自分の歩みの中で何か恥じることがあるとしたら、それは評論家・柳樂光隆みたいな中身のない人間に『良い』とか書かれたこと。 pic.twitter.com/2wvFFEJEPX — SHIN SASAKUBO (@shinsasakubo) March 11, 2024 私個人としては、柳樂氏が監修する『Jazz The New Chapter4』でディスクレビューを担当させてもらったし、主宰した『ネオホットクラブ13』にもゲスト出演してもらった。好意でインタビューさせ


《星月夜》は、ゴッホが南仏サン・レミ近郊の精神病院に入院している1889年に制作された。彼の絵に描かれた糸杉は、「見たままを描かず、モチーフをコラージュすることによる抽象性の探求や、自然の神秘性への喚起」と解釈されている。 一方、エッフェル塔は、1889年の第4回万国博覧会の目玉として建設された。1886年に開催された塔のコンペで、ギュスターヴ・エッフェルによる革新的な鉄格子の案が採択され、以降、エッフェル塔の計画や準備の様子は新聞や雑誌で頻繁に報道された。 イギリス・サウサンプトン大学の教授、ジェームズ・ホールによると、エッフェル塔の除幕式では夜間に花火や電飾などで壮大なショーが行われ、夜空が様々な光で照らされる様子は、まさに《星月夜》に描かれた光景そのものだったという。 ホールはこう説明を続ける。 「エッフェルは、エジプトから贈られたコンコルド広場にあるオベリスクを凌駕しようと、金属製


ある地方紙に月一連載しているエッセイ。今月はこんな主題だった。 毎日新聞の社説が、ある政党の所属議員たちの相次ぐ不祥事について猛省を求める論説が掲載された。新聞が一政党を名指しして、もっと「常識的に」ふるまうように苦言を呈するというのはかなり例外的なことである。ルッキズム的発言や経歴詐称の疑いなど、いくつか同党の議員の不祥事が列挙してあった。しかし、この苦言が功を奏して、以後この政党の所属議員が「礼儀正しく」なると思っている人は読者のうちにもたぶん一人もいないと思う。この政党の所属議員たちはこの社会で「良識的」とみなされているふるまいにあえて違背することによってこれまで高いポピュラリティを獲得し、選挙に勝ち続けてきたからである。「無作法である方が、礼儀正しくふるまうより政治的には成功するチャンスが高い」という事実を成功体験として内面化した人たちに今さらマナーを変更する理由はない。 「無作

▶︎ 都築響一+「下町レトロに首っ丈の会」キュレーションによる「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」が、東京都渋谷公園通りギャラリーにて1月22日~4月10日に開催されている。「おかんがつくるアート」のことと本展が定義する「おかんアート」とはなんなのか、その歴史的文脈をふまえて解説。視覚文化論、美術制度史、ジェンダー論を専門とし、手芸とアートの関係をジェンダーの視点から研究してきた山崎明子(奈良女子大学教授)が論じる。【Tokyo Art Beat】 「おかんアート」の前で思考する「おかんアート」というものが以前から気になっていた。一目見て自分の身近にあったもので、懐かしいと感じる作品が多い。私自身、子供時代にこれらを母と作った記憶がある。小学生でも作れるもので、こうしたモノを作りながら縫う・編む・結ぶなど手芸の基本的技術を知らずに学んだのだと思う。東京都渋谷


要約 宇崎ちゃんの献血ポスターが女性を性的対象としているかしていないかについて「その解釈は間違ってる!」と証明することって、不可能なんじゃないの? そもそも「正しい解釈/間違った解釈」っていうのを決める絶対的に偉い人って、もういないんじゃないの? 絶対的に偉い人がいない中で「その解釈は正しい!/間違ってる!」と議論することって、不毛に思えてならない。 「様々な解釈が同時に存在する」ということを認めた上で、異なった解釈をする人同士がどうやって付き合っていくか考えたほうが、建設的なんじゃないか。 「正しい解釈/間違った解釈」ではなく「抑圧する解釈/抑圧される解釈」について、後者をすくい上げるような批評こそ、個人的には批評に期待したいな 献血ポスターをめぐる立場の違いの整理 www.j-cast.com この論争に言及する人たちの主張を僕的にごく簡単にまとめると、以下のようになるんじゃないかと考

なんかまた最近、女の子を描いた絵が過度に性的とかそういうはなしで、Twitterの方で炎上があった模様です。 www.asahi.com www.itmedia.co.jp こういう話題については、このブログでも何度か取り上げてきました。 amamako.hateblo.jp amamako.hateblo.jp amamako.hateblo.jp なので、こういう問題に対しての僕の原則的立場とかは、上記の記事を読んでいただければと思います。 ただ、こういう炎上をいっぱい見てきて、僕には一つ思うことがあるのです。 それは、「オタクとフェミニズム、なんでこんなに仲が悪くなっちゃったの?」ということです。 かつて、オタクとフェミニズムが結構仲がいい時代があった……少なくとも、僕の認識では こういうことを言うと、多くの人はきっとこう思うでしょう。「オタクとフェミニズムってもともと仲悪かったんじ



「一行残れば勝ち」 斎藤 セレクションからして大変なお仕事でしたね。 渡部 選ぶだけでたっぷり半年以上かかりました。この本では、原典から抜いた惹句的な一行と僕の解題を読んでもらえれば、日本近代批評の主立ったところがわかるし、その惹句を付けた目次(後掲)だけでも、おおよそがわかると思います。 斎藤 私、これ買いだと思います。だって重要な批評ばっかりこんなに集めた本って、これまでにないですよね。 渡部 批評のアンソロジーは、『昭和批評体系』五巻本(番町書房)などが昔はあったし、いまも、岩波文庫に『日本近代文学評論』の二巻本がありますが、秋成・宣長から蓮實・柄谷まで七十本、ひとりの編著者が作った本はこれが最初だと思います。 斎藤 いまでは個人全集をひっくり返さないと読めない文章も多い。文庫の回転はこの頃えらく速いけど、真っ先に消されるのが文芸批評です(笑)。名前は知ってるけど、読んでないものも多




浅田 彰(あさだ・あきら) 1957年、神戸市生まれ。 京都造形芸術大学大学院学術研究センター所長。 同大で芸術哲学を講ずる一方、政治、経済、社会、また文学、映画、演劇、舞踊、音楽、美術、建築など、芸術諸分野においても多角的・多面的な批評活動を展開する。 著書に『構造と力』(勁草書房)、『逃走論』『ヘルメスの音楽』(以上、筑摩書房)、『映画の世紀末』(新潮社)、対談集に『「歴史の終わり」を超えて』(中公文庫)、『20世紀文化の臨界』(青土社)などがある。 最新のエントリー 19.05.01 昭和の終わり、平成の終わり 19.03.29 原美術館のドリス・ファン・ノーテン 19.03.07 マックイーンとマルジェラ――ファッション・ビジネスの大波の中で 18.12.07映画のラスト・エンペラー――ベルナルド・ベルトルッチ追悼 18.11.03トランプから/トランプへ(5)マクロンとトラン


「アメリカンスナイパー」の時に「町山さんに逆らったな(大意)」と言われ、「えー!ぜんぜんそんな事ねえけど、それより、そんな、逆らうと消されるみたいな人なんだっけ町山さんって!こわっ!」と思ったという話しをちょいと前に書きましたが ↓ 菊地「マンガを愛好する皆様に陳謝致します」 (コチラ、長文に継ぐ長文で申し訳ないんですが、この際ですし、サブテキストとしてお読みくださるとーーー特に町山さんに於かれましてはーーー有り難いです。「セッション!」評の後日談です) んでまあ、上記の通り、ワタシの不注意による筆の滑りを現在マンガを愛好している人々に陳謝させた頂き、話はそれだけ、実際はそんなおっかない事なんてある訳がないよな〜みんな大袈裟な〜ははははは〜。等と思いきや、やはり町山さんは大変に偉い上に怖い方なようで、非常に丁寧な口調によって、がっつりタイマンの反論を頂戴しまいました。しかも、非常に慇懃な

社会学者、批評家であり、かつアイドルグループ「PIP」のプロデューサーとして活動する濱野智史さん。常に冷静な視点と分析で批評をしてきた気鋭の社会学者は、なぜ批評される側のアイドルをプロデュースするに至ったのか? そこには、自らがAKB48にどハマりしたという実体験と、売れないアイドルのセカンドキャリアを憂う“親心”があった——。 左から、権八成裕(すぐおわパーソナリティ)、中村洋基(すぐおわレギュラーゲスト)、澤本嘉光(すぐおわパーソナリティ)、空井美友(アイドルグループPIPメンバー)、橋田 唯(PIPメンバー)、小林希望(PIPメンバー)、濱野智史(批評家、社会学者、アイドルプロデューサー)※本記事は2月6日放映分の内容を収録したものです。 AKB48は宗教である! 澤本:今回のゲストは、批評家で社会学者の濱野智史さんです。 濱野:よろしくお願いします。濱野です。 澤本:濱野さんは『前



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