ドキュメンタリー作家であり、本年度ベルリン国際映画祭ドキュメンタリー賞の審査員も務めた想田監督は、映画が持つ力の大きさゆえに、作り手には高い倫理、誠実さ、透明性が必要だと語る。映画界、とくにドキュメンタリーの世界は狭い。 伊藤詩織氏とは、シドニー映画祭とロンドン映画祭で遭遇した。拙作『五香宮の猫』と伊藤氏監督の『Black Box Diaries』が、両映画祭に招待されていたからである。 第97回アカデミー賞(2025年)授賞式に参加した伊藤詩織氏(中央)、エリック・ニアリ氏(左)、ハンナ・アクヴィリン氏(右)。(提供/REX・アフロ) ロンドン映画祭では『Black Box Diaries』のチケットが売り切れていたため、僕は伊藤氏からチケットをもらって鑑賞した。その翌朝、伊藤氏とプロデューサーのハンナ・アクヴィリン氏とホテルの朝食会場でばったり会ったので、作品について質問をしたり、意


最近「偽ニュース」という言葉がよく聞かれるようになり、それに伴って「ファクトチェック」を取り上げるメディアも増えてきた。昨年の米大統領選でファクトチェックが活発に行われていることを紹介したが、そのころより関心が高まっていること自体は、喜ばしいことだ。と言いたいところなのだが、どうもファクトチェックの意味を誤解していると思えてならない記事が目立つ。ここで、ファクトチェックとは何であるか、あるいは何でないのかを整理しておきたい。 ファクトチェックは「事実確認」?多くの新聞は「ファクトチェック(事実確認)」というように、訳語をつけて紹介している。「事実確認」はまさに直訳であり、間違いとは言わない。だが、「事実確認」という言葉から一般に思い浮かぶのは、事実関係がまだよくわかっていない段階で、確認を行うプロセスではないだろうか。「ファクトチェック」の本質を表した良い訳語だとは思われない。 私は、日本


パリに本部を置くNGO「国境なき記者団」が発表した「報道の自由ランキング」で、日本が180ヵ国中、72位とされたと伝えるテレビ朝日の報道ステーションで、ジャーナリストの後藤謙次さんが、「実感がない」とコメントしたことが、一部ではかなり批判をされていた。 だが、「実感がない」というのは、かなり控えめな言い方ではないか。 ピンとこないランキングこのランキングで47位のポーランドでは、昨年暮れに憲法裁判所の権限を大幅に制限する法律を作り、さらには今年1月、公共放送や通信社を国有化し、幹部人事を掌握するなど、報道機関の独立性を制限する法案が成立。政府は直後に公共放送のトップを交代させた。これについて、EU欧州委員会が予備調査を始めると報じられている。 67位のハンガリーの現政権も、一足先に裁判官の退職年齢を早めたりメディア規制の法律を次々に行ってきた。70位の香港では、中国共産党に批判的な書籍の出


ありとあらゆるメディア、識者、ジャーナリストが問題の本質をネグって、“朝日吊るし上げ”に熱狂する言論状況。そんな中、本サイトは逆に朝日を叩く側、読売新聞や産経新聞、週刊誌、そして安倍政権に対して、「おまえたちも同じアナのムジナだ!」と徹底批判を展開してきた。付和雷同、勝ち馬に乗ることしか考えていないこの国のメディアの中でこんな酔狂なまねをするのは自分たちくらいだろうと覚悟しつつ……。実際、いくら書いても孤立無援、本サイトの意見に同調してくれる新聞、テレビ、雑誌は皆無だった。 ところがここにきて、意外な人物が本サイトと同様、メディアの“朝日叩き”への違和感を口にし始めた。その人物とは、朝日新聞の連載で朝日の報道姿勢を批判するコラムを書いて掲載を拒否された池上彰氏だ。 この問題は朝日新聞による言論の封殺だとして読者から非常な不評を買い、朝日にとって「慰安婦問題」や「吉田調書」以上にダメ―ジにな

経済ジャーナリズム:2014 年への展望 2013.12 月 『ジャーナリズム』没原稿 山形浩生 1 経済ジャーナリズムといっても、幅は広い。そして世の中で経済ジャーナリズムだと思 われているものの大半について、日本はそんなに問題がある状態ではないだろう。もちろ ん仕事柄、比較の対象となっているメディアが発展途上国ばかりで、利権と党派まみれの 新聞だったり大本営発表だけのテレビだったりという偏りはあって、それと比べればネコ でも立派に見える。ついでに、ドコモがiPhone を扱うというネタが今年やっと実現するま でに、何回飛ばし記事を読まされたかを考えて見ると、日本もそんなに威張れるわけでは ない面もある。 しかしおそらく、事実を伝えるだけの報道は今後、重要性を失う。特にネットの進展で そうした部分は他の手段で伝達される比率が増える。そして、速報性についてネットの情 報流通と張り合おうと

通信業界でワールドコムとMCI、銀行業界でバンカメリカとネーションズバンク、自動車業界でダイムラー・ベンツとクライスラー---。 以上はいずれも、1990年代後半にアメリカで実現した大型M&A(企業の合併・買収)だ。経済紙ウォールストリート・ジャーナルの記者スティーブン・リピンによるスクープで公になったという点でも共通する。 私も同時期にニューヨークに駐在し、リピンの特報を連日のように目にして「こんな特ダネ記者がいるのか」と衝撃を受けたのを覚えている。一説によると、ウォールストリート・ジャーナルの1面や3面、別刷り1面など主要面に掲載された記事に限っても、彼の署名記事は5年間で500本以上に達する。年に数本しか書かない記者も珍しくない同紙の性格を考えると、リピンは突出していた。 今年1月に配布されたジャーナリズム専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」の2012年1・2月号を見て、改


「中国の沖縄領有を示唆する論文」と繰り返し紹介沖縄の帰属問題を取り上げた人民日報の論文記事をめぐり、日本の一部メディアが「中国に沖縄の領有権があると示唆する論文」と報じている。 しかし、論文は沖縄の帰属問題が未解決だと指摘しているものの、中国の領有権主張には言及していなかった。領土の帰属問題が未解決だということと、領有権を主張することとは、明らかに異なる意味をもつ。 5月8日付人民日報に掲載された専門家の署名論文現に、論文の執筆者の一人、李国強氏も、米紙の取材(この論文が発表された8日とみられる)に「琉球列島が中国に帰属するとか、これを中国に帰属させるべきだということでは全くない」と語っている(5月9日付ウォール・ストリート・ジャーナル「人民日報、沖縄の日本の主権に異議」)。本来、日本のメディアが取材して報道すべきことだが、それはともかく、「沖縄の帰属が未解決と主張する論文」であって「沖縄

主任弁護人の佐藤博史弁護士の怒りが炸裂した。まずは検察官に。そして報道陣に対して。5月22日の第1回公判前整理手続きが終わった後の記者会見の席上である。検察側が提出した証明予定記載事実に事件と被告人のつながりについてまったく記載されていないという「異常なもの」(佐藤弁護士)だった。唯一の警察官調書が開示されたものの、肝心の部分は黒塗り。弁護側の公訴棄却の申し立てはほとんど報じられず、また雲取山山頂から今月になってメッセージ入りの記憶媒体が発見されたという警察情報はそれなりの大きさで伝えられた。この警察情報を無批判に報じたマスメディアについて、佐藤弁護士は「警察の御用聞きはやめてもらいたい!」と一喝した。 「異例」づくめの検察の対応この日の公判前整理手続きには、被告人の片山祐輔被告もスーツ姿で出廷した、という。裁判官が黙秘権の告知をしたが、特に本人が話す場面はなかったようだ。 弁護側は佐藤弁

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