韻踏み夫名義でライター/批評活動をしていた中村拓哉が本名で『日本語ラップ 繰り返し首を縦に振ること』(書肆侃侃房)を上梓した。アメリカのブロンクスで誕生したヒップホップを日本(語)で体現することに対して、真正面から向き合った一冊だ。ヒップホップヘッズなら誰しも体験したことがある、「繰り返し首を縦に振ること」。この行為を肯定と捉え、一人称のアートフォームを徹底的に解説していくのが、『日本語ラップ 繰り返し首を縦に振ること』という本である。今回、中村が本書を執筆した動機、過去/現在の日本のヒップホップシーン、さらに今後の活動に至るまで深く話を聞いた。(宮崎敬太) 日本語ラップが「誤解や偏見に晒されている」ことへの危機感 ――本書はどのようなモチベーションのなかで書かれたのでしょうか? 中村拓哉(以下、中村):僕は韻踏み夫という名義で2022年に『日本語ラップ名盤100』(イースト・プレス)とい

この記事の写真をすべて見る 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、インファンテリズムについて。 * * * ある時、鮎川さんからインファンテリズムについて書いてくれますかというメールが送られてきた。この言葉はかなり昔に誰かが僕のことを書いた時に初めて知った言葉だった。その時は「幼児性」と判断したように記憶しているが、このインファンテリズムは僕の本質でもあると論評されていた。その後、ずっと経ってから僕は『新世紀少年密林大画報』(平凡社)というムック形式の本を編集することになって、巻頭に三島由紀夫さんの文を引用した。少し長いが紹介しよう。 「恥かしい話だが、今でも私はときどき本屋の店頭で、少年冒険雑誌を立ち読みする。いつかは私も大人のために、『前にワニ後に虎、サッと身をかわすと、大口あけたワニの咽喉の奥まで虎がとびこんだ』と云った冒険小説を書いて

2025年の第67回グラミー賞では、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)の『Djesse Vol.4』が最優秀アルバム賞にノミネートされた。最終的に受賞したのはビヨンセだったが、これまでに15回ノミネートされ、7度の受賞歴を持つジェイコブの作品が、いわゆるポップ・アーティストとは一線を画す音楽性でありながら、主要部門に名を連ねるようになったのは注目すべきことだ。 『Djesse Vol.4』は、ジェイコブが2018年に始動した『Djesse(ジェシー)』シリーズの第4作であり、全4部作が揃って初めて完結する壮大なプロジェクトの最終章となる。当初、彼はこのラストピースについて相当悩んでいるように見えた。シングルのやライブ盤のリリースを挟みながら、方向性を模索している印象もあった。しかし最終的には、現代ゴスペルの重鎮カーク・フランクリン、コールドプレイのクリス・マーティン、スティ

2023年1月、ある冬の日の昼下がり、ジンジャー・ルート(Ginger Root)ことキャメロン・ルーは中央線に乗って高円寺駅へと向かっていた。子どものはしゃぐ声と車内アナウンスの他には何も聞こえない静かな車内には、清冽な日差しが差し込んでいる。彼はiPhoneを取り出し、敬愛してやまない日本の音楽を聴き始めた。電車が駅に止まる。忙しなく乗降する乗客たち。座席に一人座ったままのジンジャー・ルートの頬には透明な涙が伝っていた——。アメリカ・カリフォルニア州出身のアーティスト、ジンジャー・ルート。中華系アメリカ人の3世である彼は、コロナ禍中に山下達郎、細野晴臣、大貫妙子、竹内まりやを始めとした日本の音楽やアニメ、映画などのポップカルチャーに出会い、心酔。この3年間で日本語も勉強し、今では取材を受けられるまでの流暢さになった。テレビや雑誌などで「昭和レトロを現代に甦らせる外国人」というような切


1リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く