『コンビニ人間』(村田沙耶香/文藝春秋) 36歳で未婚・処女。職歴はコンビニアルバイトのみで、18年間ずっと同じ店舗で同じ毎日を繰り返している。 世間一般で考えたら、「早く結婚しなきゃ」「ちゃんとした職業に就かなくちゃ」とか、将来に不安を抱くのが当然だ。 だが、『コンビニ人間』(村田沙耶香/文藝春秋)の主人公、古倉恵子に、そんな危惧は一切ない。意地を張っているわけではなく、本当にそれを「おかしい」とは思えず、悩んでいるとしたら、おかしいと思えない自分を見る周囲の目が少々うっとうしいことと、自分のせいで家族が悲しむことぐらいだ。 古倉恵子は変わっている。幼少期から「一般常識」や「不文律の道徳」が理解できなかった。 小さい頃、公園で死んだ小鳥を見つけて、周りの子供たちが悲しむ中、彼女だけは「食べよう」と言う。学生の頃、男子生徒がケンカを始め、「誰か二人を止めて」という言葉に反応し、シャベルで生

今年5月16日に発表された第31回三島由紀夫賞受賞作の「無限の玄(むげんのげん)」と、いよいよ7月18日に選考会と発表を控えた第159回芥川龍之介賞の候補となっている「風下の朱(かざしものあか)」を収録した、期待のカップリング小説集が7月14日(土)に発売される!本作で描かれるのは、死んでは蘇る父に戸惑う男たち、魂の健康を賭けて野球に挑む女たち――。若手作家の放つ注目の話題作から目が離せない! ■賞の選考委員は、この注目作をどう読んだ? ・三島由紀夫賞選考委員 辻原登氏の選評 私はこの若い作家に、前作の『リリース』の時から期待し、注目していた。『リリース』の中に次のような一文があったのを記憶している。「薪をくべる者の炎への期待」。薪をくべる者も炎に期待する者ももちろん作者だが、読者にはその炎で暖を取る喜びがある。 (中略) ありえない物語を語るための敷居は低く設定されていて、秀逸な細部と

『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子/河出書房新社) 青春小説の対極に位置する「玄冬小説」が、第158回芥川賞を受賞した。『おらおらでひとりいぐも』は63歳にして小説家デビューを果たした若竹千佐子氏の処女作。夫に先立たれ、子どもたちともうまく関係を結べないと感じている74歳の桃子さんが東北弁を武器に「老い」と向き合っていくこの物語は、「歳をとるのは悪いことばかりではない」と思える感動作だ。 桃子さんは、結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した。住み込みでアルバイトをし、周造と出会い、結婚し、二児をもうけ、そして、子育てが終わったと思ったら、夫はあっけなく死んでいった。 「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」。74歳になった桃子さんは40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとりお茶をすすりながら、過去を思い出し

『銀河鉄道の父』(門井慶喜/講談社) 親というものは自らの子を甘やかさずにはいられないものなのか。たとえ親の威厳を保とうと平静を装うとも、子の一挙手一投足に心揺り動かされてしまうものなのか。第158回直木賞受賞作・門井慶喜氏著『銀河鉄道の父』(講談社)は、『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』などの著作で知られる文豪・宮沢賢治の父親の姿を描き出した作品。 現代人からすると、宮沢賢治には聖人君子のようなイメージがつきまとうが、親から見れば、彼は決して出来の良い息子ではなかった。しかし、どんな「ダメ息子」であろうと、親は子を愛さずにはいられない。息子に振り回されながらも無償の愛を注ぎ続ける父親と、その愛情に甘えながらも、父親を超えたいと葛藤する息子。不器用な親子の姿を描き出した傑作小説である。 宮沢賢治は、明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた。生家は祖父の代から富裕な質屋。賢治の父・政次郎

『ふたご』(藤崎彩織/文藝春秋) 処女作にして直木賞ノミネートで話題の『ふたご』(文藝春秋/藤崎彩織)。SEKAI NO OWARI(セカオワ)のピアニスト・Saoriさんが、ボーカルのFukaseさんに勧められて書き始めたという本作は、女社会の中でうまく立ち回れない不器用な夏子と、感受性が強すぎて生きづらさを抱える繊細な少年・月島だ。 中学2年のときに出会った1つ年上の彼を、夏子は“寒空の下にいる動物みたい”だと感じた。どこにも自分の居場所が見つけられない、誰にも理解してもらえないさみしさを、言葉などなくても共有しあった2人は、互いを誰より大切にいつくしむようになる。 “ふたご”のようにしっくりくる彼は、夏子にとって親友であり、家族も同然だ。ときに恋人と呼称することもあるのだが、しかし、2人が男女の関係にはなることは決してなかった。嫉妬することも束縛することも許されないのに、彼は夏子を手

<プロフィール> 佐藤正午(さとうしょうご)○1955年長崎県佐世保市生まれ。北海道大学文学部中退。83年『永遠の1/2』で第7回すばる文学賞を受賞。同作品でデビュー。 〈作品〉『Y』1998年角川春樹事務所刊。『きみは誤解している』2000年岩波書店刊。『ジャンプ』00年光文社刊。『小説の読み書き』06年岩波書店刊。『5』07年角川書店刊。『アンダーリポート』07年集英社刊。『身の上話』09年光文社刊。『鳩の撃退法』14年小学館刊=第6回山田風太郎賞受賞。 ■第157回芥川賞候補作品 今村夏子「星の子」(小説トリッパー春号) 温又柔「真ん中の子どもたち」(すばる4月号) 沼田真佑「影裏(えいり)」(文學界5月号) 古川真人「四時過ぎの船」(新潮6月号) ■第157回直木賞候補作品 木下昌輝『敵の名は、宮本武蔵』(KADOKAWA) 佐藤巖太郎『会津執権の栄誉』(文藝春秋) 佐藤正午『月の

『みかづき』(森絵都/集英社) 限られた時間のなかで、子どもたちに何を教えてあげられるのだろう。欠点のない大人などいないのに、彼らを立派に育てあげることなどできるのか。そもそも教育には完成はないし、正解もない。時代ごと、人ごとに求められるものが違うというのに、教育者は何を理想とするのか。昭和から平成の学習塾業界を舞台に、教育に人生をかけた人々を描いた物語が、いま大きな話題をよんでいる。 直木賞作家・森絵都さんの著書『みかづき』(集英社)は、王様のブランチ ブックアワード2016大賞受賞作であり、2017年本屋大賞第2位を獲得した作品。親・子・孫、三世代にわたって児童教育に奮闘を続ける家族を描き出した感動巨編だ。「実在の人物を扱っているようなリアリティ!」「朝ドラや大河ドラマになってもおかしくない」などと、多くの人が映像化を期待してしまうように展開は鮮やか。紆余曲折を経て変化してきた教育のあ

『対岸の彼女(文春文庫)』(角田光代/文藝春秋) 圧倒的な筆力で幅広い年代の読者から共感と支持を得ている作家・角田光代さん。彼女の直木賞受賞作『対岸の彼女』のスピンオフ作品「私の灯台」(全5話)が無料公開される。 JTが運営するWEBサイト「ちょっと一服ひろば」での公開となるが、第1話だけは雑誌『ダ・ヴィンチ』2月号と「ダ・ヴィンチニュース」の特設ページでも公開される。本編『対岸の彼女』には、メインキャラクターとして3人の女性が登場する。専業主婦だったが、娘のためにも苦手な人付き合いを克服しようと仕事を始める小夜子、その彼女の就職先である旅行会社の独身女社長の葵、そして葵の高校時代を描いた章に登場する同級生であり、親友のナナコ。 スピンオフ「私の灯台」には、ナナコと思しき女性“ナナさん”が登場。時代設定は、『対岸の彼女』の19年後だ。リゾート地のある島でゲストハウスを経営する“ナナさん”

2017年1月19日(木)に発表された第156回「直木三十五賞」。同賞の受賞作『蜜蜂と遠雷』の大型重版が決定した。 2016年秋に刊行されてからすぐに、全国の読者からの感動と驚嘆と感謝の声が寄せられ続け、話題となっていた『蜜蜂と遠雷』。今回の直木賞受賞発表後、即20万部の大型重版が決定し、累計発行部数は27万部となった。 さらに特設サイトでは、著者渾身、文句なしの最高傑作と言われている同作の制作裏話を明かす編集者コメントも公開されている。 「構想12年、取材11年、執筆7年」とは『蜜蜂と遠雷』のプレスリリースや新聞広告で使ったフレーズで、恩田陸さんの担当歴20年以上になる私にとっても半分以上の年月この作品に携わり、3分の1の年月、月刊連載原稿の催促を続けていたことになります。 長く一つの作品にかかわるといろいろなことがあるわけで、その最大が3年に1回、開催される浜松国際ピアノコンクールへの

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