『共謀罪の何が問題か』(高山佳奈子/岩波書店) 2017年6月15日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」、いわゆる「共謀罪」が国会で可決された。この法律の危険性は、かねてから叫ばれていた。「節税の相談が脱税の計画とみなされ、逮捕される」「上司がムカつくから一緒に殴ろうぜ、という冗談を交わすだけで罪になる」など、耳を疑う適用例が挙げられ、それを信じてしまう国民も少なからずいただろう。正直申し上げると、私は共謀罪には全く関心がなく、国会やデモ隊を煽り立てるメディアにうんざりだった。「共謀罪なんて私の生活には関係ない」と思っていた。しかしそれはどうやら間違いらしい。『共謀罪の何が問題か』(高山佳奈子/岩波書店)を読めば、共謀罪は私たちの生活に大いに関係あることが分かる。 ■「テロ対策のため」というのは大ウソ メディアが報じる国会の模様を見る限り、与党は

『水鏡推理6 クロノスタシス』(松岡圭祐/講談社) 加計学園問題、森友学園問題など、なにかと話題の絶えない文部科学省。一体何が真実なのか、誰が本当のことを言っているのか、霞ヶ関はその名のごとく、霞か靄が立ち込めているように不透明だ。明らかな情報も簡単に握りつぶす巨大組織に、たったひとりで立ち向かう人物———現実世界の前川喜平氏は事務次官だったが、松岡圭祐氏著の小説『水鏡推理』シリーズでは、ヒラのノンキャリ女子・水鏡瑞希が「文科省の闇」に迫ろうとする。 『水鏡推理』シリーズは、どの巻から読んでも楽しめる時事ネタを絡めた展開が話題を呼び、累計60万部を突破している大人気シリーズ。リアルすぎる内容に文科省から面談を求める連絡があったというほど、現実の世界とリンクした作品であり、読者はそのリアリティに圧倒される。STAP細胞問題の某氏がモデルと思われるキャラクターが出てきたり、震災や核融合発電をテ

『死刑捏造: 松山事件・尊厳かけた戦いの末に』(藤原 聡、宮野健男、共同通信社:著/筑摩書房) かえせ かえせ 十年をかえせ 家族のもとにボクをかえせ これは1965年、斉藤幸夫が仙台市の刑務所から、文通相手に送った詩の一部である。幸夫は放火殺人事件の犯人として死刑判決を受けていた。しかし、実際には警察から自供を強要されており、提出された証拠は捏造だった。幸夫は1984年に無罪が証明されるまで、30年近くも無実の罪で拘束され人生を台無しにされたのである。 松山事件として知られる冤罪の顛末をまとめたルポルタージュが『死刑捏造: 松山事件・尊厳かけた戦いの末に』(藤原 聡、宮野健男、共同通信社:著/筑摩書房)である。本件に限らず、近年では多くの冤罪が発覚し問題となっている。冤罪事件の詳しい経緯を知ることは、このような悲劇を繰り返さないための糧となるだろう。 1955年10月、宮城県松山町で農家

『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』(伊藤真/KADOKAWA) みなさん、「憲法」について興味があるだろうか? めちゃくちゃ詳しいし関心がある、という人の方が少ないと思うが、無知ではいられない現状が目の前にある。 2012年に自民党の憲法改正草案が発表された。今後憲法改正が現実味を帯び、民意の問われる日も近いかもしれない。となると、日本国民として「興味ない」で済まされる問題ではないのだ。今年は日本国憲法が施行されて70年の節目でもある。これを機会に、もう一度≪憲法≫について、学んでみてはいかがだろう。電子書籍化され現在電子書店にて好評配信中となっている、『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』(伊藤真/KADOKAWA)は、「憲法について知っておきたい。だけど、教科書を読む気にもなれないし、難しい内容には頭がついていかない!」という人にうってつけ。「ものすごく分かりやすい」のに「基

『ヒルビリー・エレジーアメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社) 過激な発言の数々で世界中の注目を集めるドナルド・トランプ大統領だが、いまだに彼の当選はショッキングな出来事として世界中の印象に刻まれている。それは当事者であるアメリカ国民からしても同じことだ。そして、トランプを圧倒的に支持した白人貧困層への関心が集まるようになった。 どうして彼らはトランプを愛し、前大統領オバマのように物腰柔らかな政治家を憎むのか? 『ヒルビリー・エレジーアメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)はタイム誌が「トランプの勝利を理解するための6冊」の1冊に選定するなどアメリカ国内で大反響を巻き起こしており、これらのタイムリーな謎に答えてくれるだろう。 先に述べておきたいのは、本書が思想書や政治論の類ではないということである。内容はケンタッキー州南東部ジャクソン出身の著者、J.D.ヴァンスの自

『朴槿恵 心を操られた大統領』(金香清/文藝春秋) 3月31日、韓国初の女性大統領として、国民から多くの期待が寄せられた朴槿恵(パク・クネ)前大統領が逮捕された。巨額の収賄、国家機密漏洩ほか、友人の崔順実(チェ・スンシル)容疑者と共謀したとされる、一連の「崔順実ゲート事件」の真相解明も正念場だ。 この事件を傍観していて、「政治家でもない友人が大統領を操れるのか?」と不思議に思ったのは筆者だけではないだろう。そして、官邸でのひとりメシはまだしも「緊急時でさえ連絡の取れない“孤高の大統領”なんてアリなのか?」と。 日韓のメディアで活躍する女性ジャーナリスト、金香清(キム・ヒャンチョン)氏によるノンフィクション『朴槿恵 心を操られた大統領』(文藝春秋)は、「崔順実ゲート事件」の全貌と、背景にある権力独占主義、コネ社会、若者世代の鬱屈などの韓国諸事情を明かすだけでなく、この事件の大いなる謎解きにも

『法律って意外とおもしろい 法律トリビア大集合』(第一法規 法律トリビア研究会/第一法規株式会社) くだらない瑣末なことや雑学を意味する「トリビア」という言葉が世間に定着したのは、おそらくフジテレビ系列で放送されていた番組『トリビアの泉』の影響だろう。同番組のスーパーバイザーを務めた劇作家の唐沢俊一氏は、この手の知識について自身の著書で「実生活に無用のものであればあるほど純粋におもしろい」と述べているのだが、そこからすると『法律って意外とおもしろい 法律トリビア大集合』(第一法規 法律トリビア研究会/第一法規株式会社)などは、法律という実生活に関わっているものだけに、トリビアとは少し違うのではと思いつつ読んでみた。本書では、法律の条文を記載したあとに「条文をほぐしてみましょう」と分かりやすく解説を入れており、やはり知識として役に立ってしまう。例えば、昨今では飲み会で飲酒を強要することなど

『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日(講談社+α新書)』(牧野愛博/講談社) 2月13日、マレーシア・クアラルンプール国際空港で起こった、金正男(キム・ジョンナム)氏の暗殺事件。そして3月6日には、北朝鮮が4発の弾道ミサイルを日本海に向け発射。まさに、やりたい放題の北朝鮮。果たしてこの国とどう向き合えばいいのか。 こうした中、北朝鮮の実情や金正恩についての様々な情報を提供してくれるのが、『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日(講談社+α新書)』(牧野愛博/講談社)だ。 著者の牧野愛博氏は朝日新聞ソウル支局長。そのためか、まえがきの最後に「本書の内容は個人的見解」との一文も。その分、金正恩の生い立ち、素性、恐怖政治から、北朝鮮の様々な実情、たくましく生きる市井の人々の様子に至るまで、情報網を駆使して得た情報が惜しみなくレポートされている。 まず筆者がなるほどとうなずけたのが、「金正恩の気質」についての指摘

2016年11月、アメリカ大統領選挙で共和党のトランプ候補が当選した。メディアも識者もほとんどが予想だにしなかった驚きの結果であり、日本を含め世界中が困惑の色を隠せない。トランプ氏が大統領になるということはどういうことなのか。本書『「トランプ時代」の新世界秩序』(三浦瑠麗/潮出出版)の中で、アメリカは国際社会における「帝国」の座から意気揚々と撤退する、と国際政治学者の著者は指摘する。 選挙中、アメリカ軍を日本に駐留させているコストを日本はきちんと払うべきだとトランプ氏は主張した。日本のみならず、韓国や欧州などアメリカ軍を駐留させている国々に対してもだ。これは単に金を払えということではない。これこそ、世界を影響下におく「帝国」の座から自ら撤退しようとしていることを意味している。アメリカはこれまで世界中の紛争に首をつっこんできた。なぜなら、「アメリカが国際的な制度作りを主導することが、アメ

米国系銀行や証券会社で債券ディーラーなどを経て1995年に作家へ転身した幸田真音氏の作品が、2017年2月25日(土)に電子版として一挙配信される。今回、電子版として配信されるのは8作品12点だ。デビュー後は国際金融の世界を主な舞台に、時代を先取りするテーマで次々と作品を発表、今年で作家生活22年を迎える。2000年11月に刊行され、ベストセラーになった『日本国債』、14年に第33回新田次郎文学賞を受賞した『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』などは上下合本版で配信される。幸田ファンはもちろん、これまで気になっていた…という人は必見だ。 <ラインナップはこちら> 『eの悲劇』 証券会社を解雇され、警備会社に再就職した「私」篠山孝男は、自衛官上がりの藤木達也と東都銀行本店ビルの警備中、屋上から飛び降り自殺をしようとしていた三田村光治を助ける――「eの悲劇」。警備を務める中で知り合った、自殺

『政争家・三木武夫 田中角栄を殺した男(講談社+α文庫)』(倉山満/講談社) 2016年の日本の出版界は、故・田中角栄元首相の回顧ブームに沸いた。そのきっかけを作ったベストセラー小説が、石原慎太郎氏の『天才』(幻冬舎)だった。政治史を何も知らない人から見れば、石原氏はさぞかし田中氏に近い政治家だったのかな、などと思うだろう。しかし事実は違うようだ。むしろ田中内閣時代、その金権体質の政治を痛烈に批判した急先鋒こそ、石原氏だったのだ。そんな政治家たちの、国民は決して覗くことのできない舞台裏、政争・駆け引きのリアルを教えてくれるのが、『政争家・三木武夫 田中角栄を殺した男(講談社+α文庫)』(倉山満/講談社)だ。本書の主人公、故・三木武夫氏(1907年3月17日―1988年11月14日)は、田中氏の直後となる第66代内閣総理大臣に就任した政治家だ。米国留学を経て1937年に30歳で明治大学を卒

政府が成長戦略の一環と位置付けたこともあり、至るところで「働き方改革」という言葉が聞かれるようになりました。誰からもこれを否定するような声はなく、様々な立場を超えて「これからは必須の取り組みである」ということが強調されています。もちろん私もこの動きについてはまったく異論ありません。 ただ、この「働き方改革」で言われていることには、矛盾する正反対の視点が含まれています。 一つは「ワーク・ライフ・バランスの改善」という視点です。これを実現すれば、長時間労働など仕事に偏った働く人たちの生活が改善され、家事や病気療養、育児・介護といったこととの両立が可能になり、女性や高齢者にとっても働きやすい環境が作られるといいます。これを一言で言ってしまえば「働く時間をもっと減らそう」ということです。 もう一つの視点は「生産性の向上」ということです。これから労働人口が減っていく中でも、経済成長をしなければならな

『トランプ後の世界 木村太郎が予言する5つの未来』(木村太郎/ゴマブックス)アメリカの大統領選挙で、ドナルド・J・トランプが勝利を収めて2ヶ月が過ぎたが、今でもあの時の衝撃は忘れられない。世界中で多くの人が「まさか」と思う結果だったのではないだろうか。そして来る1月20日には、遂にトランプ大統領が誕生する。選挙戦中の数々の暴言もさることながら、日本人として気になるのは、やはり日本に対する政策。米軍撤退の可能性やTPPからの離脱など、私たちに大きな影響を及ぼしそうな内容も少なくない。トランプが正式に大統領となった後、世界がどう変わるのか、様々な憶測が飛び交っているが、実際はどうなるのだろうか。『トランプ後の世界 木村太郎が予言する5つの未来』(木村太郎/ゴマブックス)では、トランプが国民の支持を得た理由を様々な角度から分析し、トランプ大統領誕生後に世界や日本がどう変わるのかを予測している

『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(加藤直樹:訳/ころから) マンガ『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(加藤直樹:訳/ころから)には、1987年に韓国で起こった、市民による民主化運動が描かれている。当時の全斗煥(チョン・ドファン)大統領は独裁政権をしいていて、歯向かう市民の中には投獄されて凄惨な拷問を受けた者もいたほどだった。しかしそれこそ市民の怒りは沸点を越え、彼らが政権に反対の声をあげたことで民主化を勝ち取れたのだ。 『沸点』で描かれているその様子は、今回の朴槿恵(パク・クネ)政権退陣要求デモのひとつの原点でもあると、翻訳を担当した加藤直樹さんは分析している。加藤さんのインタビュー後編を、引き続きお送りする。 ⇒前編はこちら 「今回の朴槿恵退陣要求デモの映像を見ていたら、参加した高校生が『かつて私たちの両親が勝ち取った民主主義を壊されたくない』とスピーチしていました。彼の念頭に

『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(加藤直樹:訳/ころから) 2016年12月9日、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領への弾劾訴追案が可決された。今後は憲法裁判所によって、審判が下されることになる。 「国政に友人のおばさんを介入させた」ことへの怒りから、「朴槿恵は退陣しろ!」と書いたプラカードを掲げた人たちがソウル市内を埋め尽くしたデモは、日本でも連日のように報道された。その様子を見て「韓国のデモってアツい」と思った人も多いのではないだろうか。と同時に、「国民がデモ慣れしている」と感じた人もいたことだろう。しかし彼らがデモに集まるのは、それが趣味だからでは多分ない。怒りの声をあげることで国政を動かした体験が過去にあり、「人が動けば時代が変わる」ことを信じているからだ(と思う)。 その「体験」を描いたのが、韓国のマンガ家チェ・ギュソクの『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(加藤直樹:訳/

『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』(高城剛/集英社)本記事が掲載される頃には、成立しているはずの「カジノ法案」。その結果、数年後にいよいよ本邦初登場となるのが、カジノを含んだ統合型施設「IR(インテグレーテッド・リゾート)」である。ところでIRって? なぜカジノだけじゃダメ? などなど、国民の多くはわからないことだらけだ。 そんな折、まさにタイムリーに登場して、これらの疑問にズバッと明快に答えてくれるのが、本書『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』(高城剛/集英社)だ。二者択一を迫るかのようなタイトルではあるものの、正解は早々にこう明かされる。 世界中の国家が観光収入を大きな財源と見るようになったこの十数年、各国で様々なカジノやIRが展開されているが、ジリ貧の衰退に向かっているのがカジノであり、国の経済を支えるほどに成長しているのがIRなのである。本書

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