それは二〇二四年の出版界における一つの事件であった。あるいは、その後の「令和人文主義」を巡る議論を思えば、ある種の地殻変動の予兆であったのかもしれない。三宅香帆氏による『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が三十万部を超えるベストセラーとなり、多くの読者がそのタイトルに自らの姿を重ね合わせ、切実な共感の声を上げたことである。 そこでは、かつて学生時代には貪るように本を読んでいた人間が、社会に出て「全身全霊」を求められる労働環境に身を置いた途端、読書という行為から疎外されていくという喪失がもたらす痛感が語られた。しかもそれは個人に由来する要因、例えば、怠惰のようなものではなく、日本の近代化と労働倫理の構造的な病理として描き出された。ゆえに同書は、現代の若年層の心に巣食う「文化的欠乏感」を見事に「言語化」したとして受容され、「消費」された。 この受容的消費に対し、データをもって異議を唱えたの

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