宗教の起源 作者:ロビン・ダンバー,小田哲白揚社Amazon本書はダンバー数で有名な進化心理学者ロビン・ダンバーが宗教を語る一冊.これまでに宗教を進化的に説明するものとしては,(宗教が信者に誤信念を抱かせ,儀式等にコストをかけさせることから個体にとって適応度を下げるものであることを前提にして)進化的に形成された適応的な認知傾向による副産物だとするもの(アトラン,ボイヤーなど),原始宗教は副産物であり,さらに組織化された宗教にはミーム複合体の側面もあるとするもの(デネット,ドーキンスなど),文化進化として説明するもの(ライトなど),マルチレベル淘汰をもちだして集団や社会にとって適応的であると説明するもの(DSウィルソンなど)などがあった.本書では,前提を見直して宗教は個体にとって適応的だったのではないかという観点から説明を試みるものになる.そしてその説明はこれまでのダンバーの研究領域である

女性のやせ願望については、摂食障害という健康上の問題のため、それをやめようという社会運動の対象になり、かつシリアスな研究の対象となってきた。やせ願望には社会的側面があり、俗に「男性が女性に痩せるよう求めるから過剰に痩せるのだ」というような議論が出ることがあるが、ここには誤解がある。 一般的に、「男の考える理想的な女の体型」と「女の考える女の理想の体型」を比較した場合、後者のほうがずっと痩せ型である。これは疫学的・心理学的な研究の対象となってきたし、少なくとも先進国内では再現性も高い。 男性が考える魅力的な女性の体型(上段Other Attractive)よりも、女性自身が考える「魅力的(Attractive)」な体型や「理想の(ideal)」体型のほうが細い。下段男性については、男性が考える男性の「理想の」「魅力的な」体形が安定しているのに対し、女性が考える魅力的な男性の体形(下段Othe

Is There AnythingGood About Men?: How Cultures Flourish by Exploiting Men (English Edition) 作者:Baumeister, Roy F. 発売日: 2010/08/12 メディア:Kindle版 前回の記事でも紹介した、心理学者のロウ・バウマイスターの著作『Is There AnythingGood About Men? :How Cultures Flourish by Exploiting Men(男にいいところはあるのか?:文化はいかに男性を搾取して繁栄するか)』を読み終えたので、軽く内容をまとめてみよう。 この本では、進化心理学と文化進化論の考え方を用いながら、社会における男性と女性それぞれの役割や扱われ方などが分析されている。バウマイスターは「エッセイ」であると表現しているが、学術的な

進化心理学 (放送大学教材) 作者:大坪 庸介放送大学教育振興会Amazon本書は進化心理学者大坪庸介の手になる進化心理学の教科書だ.今2023年度から放送大学で「進化心理学」が開講され,その教材として出版されたものだ.放送大学なら(BS視聴環境があれば)誰でも視聴でき,このようにテキストも出版されているので,初学者にとってはとてもうれしい学習環境になったというべきだろう. 冒頭の「まえがき」でいきなり,「進化心理学について学びすぎないようにしてください」とあって驚かされるが,教科書に書いてあることを鵜呑みにするのではなく自分で考えることによって理解が深まるのだという趣旨のようだ.そして進化心理学は「進化・適応」という大原則から統一的な理解が得られるという面白さがあること,進化的な説明が現代の倫理観とかけ離れたものであることが多く,誤謬のリスクがある反面,価値中立的に事実を評価することに

経済力や社会的地位や容姿や年齢とかの尺度において、自分より圧倒的に格上の女と結婚してる同僚がうちの会社ではめちゃくちゃ多い。本人は高校中退で35歳年収300万なのに嫁さんは20代でモデル級美人で早大卒で法務局の常勤職員 とかそのレベルの格差婚事例が平気である。 格上の女性を見事に射止めている男達のほうに共通している点は 元不良だったとかお調子者だったとかで学生時代にクラスのカースト上位にいたということ。 どうやら、世のイケている強者女性のなかには 「社会的地位や経済力ではなく、小中学生時代の感覚のまま生物的な強さやキャラとしての魅力とかを重視して自分の番を選ぶ」 というタイプは結構いるみたいだ。 例えエリート階層の女性であってもだ。 ちなみに俺はそういうタイプの青少年ではなかったので独身だ。 そもそも底辺職なのにもかかわらず同僚達がそういう格上女性との繋がりを持てているのは弊社が目黒の地

Survival of the Friendliest: Understanding Our Origins and Rediscovering Our Common Humanity (English Edition) 作者:Hare, Brian,Woods, VanessaRandom HouseAmazon本書は進化人類学者で比較認知学者でもあるブライアン・ヘアとやはり比較認知学者でジャーナリストであるヴァネッサ・ウッズの夫妻による協調性の進化に関する本.中心となるテーマは「自己家畜化によるヒトの協調性進化」になる. 導入章の冒頭ではアメリカの公民権運動時代の(人種混合)強制バス通学時代の逸話が語られている.強制バス通学による人種ミックスクラスが始まった当初,白人児童はマイノリティ児童を侵入者と見做し,クラスは過剰に競争的でとげとげしい雰囲気だった.そこでジグソーメソッドを導入し


再読するので内容メモ。 個人の感想も混じっているので気になったら買おう。(アフィではないので安心だ) カッコ書きは本文の引用、中丸から始まるのは要約と私見だ。こんなまとめで内容が正確に分かるわけではないので買おう。(呪文) はじめに 「わたしは本書で、人間には、(必然的に独善に至る)正義へのこだわりが一般的な本性として備わっていることを示したい。つまりそれは、進化によって設計された特徴のひとつであって、本来は客観的かつ理性的であるはずの私たちの心に混入した、異物や誤りなどではない。」 第1部 まず直感、それから戦略的な思考 「心は〈乗り手〉と〈象〉に分かれる。〈乗り手〉の仕事は〈象〉に仕えることだ」 第1章 道徳の起源 ・道徳は生まれ(遺伝子)と育ち(環境)のどちらかによって決まると考えられていたが、合理性によって獲得されるという見方が現れた。 ・子供は道徳的な規則と慣習的な規則を区別して
なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学 作者:ランドルフ・M・ネシー草思社Amazon 以前私が書評したランドルフ・ネシーの「Good Reasons for Bad Feelings」が邦訳出版されるようだ.本書は現役の精神科医であり,かつ「Why We Get Sick?(邦題:病気はなぜあるのか)」をかつてジョージ・ウィリアムズと共著したこともある進化的理論に理解のある著者によるさまざまな精神病理の進化的な解説を行う本である. 冒頭第1部で通常の疾病と精神疾患の違いが強調され(通常の疾病は何らかの身体の機能的な問題が病気の本質で,それが症状として目に見える形で現れると考えられるのに対して,精神疾患は脳の器質的異常を感知できないために症状からのみ記述される),なぜ心はこうも脆いのかが説明されるべき進化的な謎であるとする.邦題はこの本書の中心的テーマを提示するものであり適切

www.asahi.comnote.com 広島大学の伊藤隆太氏の発言が差別的であるとして問題視されており、それにあわせて、彼の研究分野である「進化政治学」も批判の対象となっている。 わたしの目から見ても伊藤氏の発言のうちのいくつかは差別的であり、解雇まで求めることが妥当であるかどうかはともかくとして、批判は免れないものだと思う*1。 しかし、Twitterなどでは、伊藤氏の差別発言が問題であるからと言って、彼の研究している学問分野までもが安直にレッテルを貼られて否定される、という風潮が散見される。それも、ほかの分野の学者たちがレッテル貼りや否定の先鋒に立っているようで、かなり嘆かわしい事態だ。 たとえば、シノドスに掲載されたオピニオン記事と、それに対する反応のひとつが、下記のようなものである。synodos.jp これはあまりにも粗雑な論の立て方。遺伝子を政治的な意思決定と結ぶなど跳
著者 大坪庸介(おおつぼ ようすけ) 2000年,Northern Illinois University, Department of Psychology博士課程修了。Ph. D.。現在,東京大学大学院人文社会系研究科准教授。 主要著作に,『進化と感情から解き明かす社会心理学』(共著,有斐閣,2012年),『英語で学ぶ社会心理学』(共著,有斐閣,2017年)など。 はじめに この本は「仲直り」についての本です。ですが,そもそも仲直りが必要な状況というのは,誰かとケンカをしたり,何かで相手ともめた状況です。このような状況を心理学では対人葛藤といいます。対人葛藤さえなければ仲直りも必要ないわけですから,仲直りについて考えるよりも,対人葛藤をいかにして避けるか,減らすかを考えた方がよいのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし,どんなに注意深く相手とつき合っていたとしても,

進化でわかる人間行動の事典 朝倉書店Amazon本書は進化視点にたったヒトの行動の事典になる.さまざまなヒトの行動のなかから「遊ぶ」「争う」「歩く」から「恋愛する」「笑う」まで(50音順)43項目を選び出し,それぞれの行動について機能(究極因)と進化史に焦点を当てながら(事項によっては至近的メカニズムや発達についてもカバーされている)現時点での知見を解説するものだ.編者は小田亮,橋彌和秀,大坪庸介,平石界という日本の進化心理学界の中心メンバー,執筆陣はそれぞれの項目に関連するリサーチを行っている研究者39名が担当するという豪華なものになっている. どこから読んでも良いし,必要に応じて参照するという使い方が基本的に想定される種類の書物だが,もちろん頭から通読しても大変面白い.多くの執筆者が総説的な叙述スタンスをとっていて大変勉強になる. 全体的な感想としては,まだまだ特定の行動についてそれ

●Tyler Cowen, “How much is politics in the genes?”(Marginal Revolution, June 21, 2005) ジョン・ヒッビング(John Hibbing)&ジョン・アルフォード(John R. Alford)&カロリン・フンク(Carolyn L. Funk)の3名の政治学者が着手した研究 [1]訳注;John R. Alford, Carolyn L. Funk and John R. Hibbing(2005), “Are Political Orientations Genetically Transmitted?“(The American Political Science Review, Vol. 99, No. 2, pp. … Continue readingでは、8,000組を超える双子を対象にした聞き取り

もっと! : 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学 作者:ダニエル・Z・リーバーマン,マイケル・E・ロング 発売日: 2020/10/02 メディア: 単行本 研究者らが発見したのは、ドーパミンの本質は快楽ではまったくないという事実だった。ドーパミンは、それよりもはるかに影響の大きい感情を生み出している。これから紹介するように、ドーパミンに対する理解こそが、さまざまな領域での人類の努力を説明し、さらには予測するための鍵を握っているのだ。 その領域は、目をみはるほどに広い。たとえば、芸術、文学、音楽の創造。成功の追求。新世界や自然の法則の発見。神をめぐる思考。そして、恋もそのひとつだ。 (p.14) このシンプルな概念は、大昔からある疑問ーー愛はなぜ色褪せるのかという疑問を化学的に説明している。私たちの脳は予想外のものを希求し、ひいては未来に、あらゆるエキサイティングな可能性

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化 作者:デヴィッド・M. バス メディア: 単行本 原著は1994年、邦訳も2000年とかなり古く、進化心理学の本のなかでは「古典」の部類に入るものだ。そして、古典なだけあって、進化心理学の考え方のなかでももっとも基本となる部分が詳しく紹介されているところが参考になる。 タイトル通り、人間の男女の性行動について、繁殖を成功させるための「戦略」という観点から分析する議論が主となっている。 ・冒頭の、「恋愛」や「愛情」の自然性(実在性)を論じる箇所はとくに興味深い。 さらに問題を複雑にしているのは、愛情というものが、人間の生活のなかで中心的な役割を果たしていることだろう。恋愛という感情を体験しているとき、人間はその虜となってしまう。また、愛情を向ける対象が存在していないときには、恋愛の空想が頭のなかを占めてしまう。愛ゆえの苦悩は、おそらく他のどんなテーマに

なぜ幼なじみは負けヒロインなのか。 なぜ幼なじみヒロインは冷遇され続けたのか。 その答えは我々の遺伝子に刻まれている。 【目次】 勝てるはずがない 近親相姦というタブー 毎日会ったら姉弟だ 幼馴染は結ばれない 終わりに 参考書籍 『人類進化論 霊長類学からの展開』 『赤の女王 性とヒトの進化』 『進化心理学から考えるホモサピエンス 一万年変化しない価値観 』 『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略』 幼馴染が勝利する話を解説した記事 2021/05/05 追記 2021/12/05 追記 勝てるはずがない 2021年春アニメで最も言及したくなるタイトルは『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』だ。 第1話 幼なじみが絶対に負けないラブコメ 松岡禎丞Amazon いや、無理だろ。URLの時点で敗北している。 とはいえ見てみないと確かなことは言え

エボサイ(EvoPsy) @selfcomestomine なんで現代人は「孫を育てたくて仕方ない本能」を持ってる祖母と子どもをわざわざ引き離しておいて、夫が仕事で疲れきって育児に協力してくれない!みたいなこと叫んでんのかな。バカかと思う。 2021-04-15 19:51:50 エボサイ(EvoPsy) @selfcomestomine 一体何のためにサピエンスのメスには自然界で珍しい "閉経" が進化したのか。なにゆえ人間には自分の子供が巣立った後にも長寿命が残されているのか。なぜ祖母にはやたらと孫にかまいたがる心が進化しているのか。なぜ夫婦二人での子育てはこれほどつらく厳しいのか。だれも疑問に思わないのだろうか。 2021-04-15 22:50:01 エボサイ(EvoPsy) @selfcomestomine 子どもを産めない個体は、じぶんと遺伝子を共有する血縁個体の子育てを手伝う

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