Executive Summary トマス・ピンチョンのオーウェル『1984年』序文は、まったく構造化されず、思いつきを羅列しただけ。何の脈絡も論理の筋もない。しかもその思いつきもつまらないものばかり。唯一見るべきは、「補遺;ニュースピークの原理」が過去形で書かれていることにこめられた希望だけ。だが、考えて見れば、ピンチョンはすべて雑然とした羅列しかできない人ではある。それを複雑な世界の反映となる豊穣な猥雑さだと思ってみんなもてはやしてきた。だが実はそれは、読者側の深読みにすぎないのかもしれない。そしてその深読みが匂わせる陰謀論が意味ありげだった時代——つまり大きな世界構造がしっかりあって、裏の世界が意味をもった60-80年代——にはそれで通ったのに、1990年代以降はもっと露骨な陰謀論が表に出てきてしまい、ピンチョン的な匂わせるだけの陰謀論は無意味になった。それがかれの最近の作品に見られ

ずいぶん間が空いた山形月報ですが、今回は文学好きの間では話題ながらも難物と言われるコーマック・マッカーシー遺作2部作を中心に、ホームズの格闘術と、財政金融政策の話。文学にネタのような真面目な格闘術、さらには経済話といつもながらバラバラですが、さて、どんな話になるでしょうか! ずいぶん間が開いた (一年以上かよ!)。いつもながら、採りあげるつもり満々の本が一冊あって、それをどう料理しようか考えるうちに、ずるずる先送りになってしまうというありがちな話ではあります。 で、今回扱うのは、それではない。 コーマック・マッカーシーの遺作となる2部作『通り過ぎゆく者』『ステラ・マリス』だ。 マッカーシー『通り過ぎゆく者』 コーマック・マッカーシーは、現代にあって、本当の意味での文学を書けた数少ない作家の一人だ。そして、それは文学というものの意義が変わってきた現代では、決して容易なことではない。 村上龍は
Executive Summary カブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』(青土社、2006) は、葉巻をめぐる歴史、文学、映画、政治、その他ありとあらゆるエピソードを集め、さらにダジャレにまぶしてもう一度昇華させた楽しい読み物。著者が逃げ出したキューバへの郷愁もあり、単なる鼻持ちならないウンチク談義に終わらないまとまりを持つ。ギチギチ精読する本ではなく、楽しく拾い読み、流し読み、如何様にも読めるいい本 (つーか、こんなエグゼクティブサマリーつけるべき本ではそもそもない)。若島正の翻訳も、言葉あそびが強引にならずお見事。 最近、プーチンがらみの話とか、マジな堅い本ばっかり読んでいるし、こちらも真面目に読んで怒ってばかりなので、ときに気軽で楽しい本を読むとホッとする。そんな一冊が、このカブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』。 煙に巻かれて 作者:G. カブレラ=インファンテ青土社Amazon

多くの人が漠然と感じているのは、業績評価が問題の本質を外れ、文脈を奪い、人間による判断の微妙さを軽視して、システムのメカニズムを知っている者だけの利益になっている、ということだ。本書は、この傾向がどこから来るのか、なぜこの傾向が非生産的なのか、なぜわれわれがそれを学ばないのか、をはっきりと説明している。…あらゆる管理職が読むべき本。 ティム・ハーフォード(エコノミスト。『まっとうな経済学』) 「測定基準の改竄はあらゆる分野で起きている。警察で、小中学校や高等教育機関で、医療業界で、非営利組織で、もちろんビジネスでも。…世の中には、測定できるものがある。測定するに値するものもある。だが測定できるものが必ずしも測定に値するものだとは限らない。測定のコストは、そのメリットよりも大きくなるかもしれない。測定されるものは、実際に知りたいこととはなんの関係もないかもしれない。本当に注力するべきことから

大規模な成功を収めているテック企業(ユニコーン企業)は、スタートアップで機能していたテクニックをエンタープライズ企業レベルにまでスケールさせる方法を見いだし、日々実践しています。Amazon、Facebook、Googleなどは、何万人もの従業員を抱えているにもかかわらず、スタートアップのように働いています。本書はSpotifyでアジャイルコーチやエンジニアの経験を持つ著者がユニコーン企業のソフトウェアづくりと働き方を解説します。 ミッションによってチームに目的を持たせ、スクワッドに権限を与え、信頼する。カンパニーベットを通じて大規模な取り組みを調整する。このような働き方とそれを実現するための文化のあり方を解説し、複数チームが連携しながら質の高いプロダクトを早くリリースし、迅速に技術革新を行うための方法を学びます。 プロダクトのデリバリーにフォーカスする世界有数のテック企業の事例を紹介する

β版アジャイルに開発する全ての人へ、勇気を与えるために、アジャイル開発を実践する26人の失敗と成功の経験談をエピソードとして伝えます。 β版について本書のステータスは現在β版であり、現在、著者やレビュアの方々により追加・修正が行われている段階です。 いま購入されてお読みいただけるのはその途上の原稿を元にしたものです。 最終的に正式公開されたものもダウンロードしお読みになることはできますが、 正式公開版を読みたい方には今しばらくお待ちいただくことになります。あらかじめご了承ください。 概要サンプルリンク用タグ 内容紹介日本全国のソフトウェア開発に携わる人々に伝えたいことがあります。アジャイルソフトウェア開発は日本で実績が積まれています。あなたの現場でアジャイルソフトウェア開発をすることはできます。この書籍は、そのための勇気を与えるために発行されました。 日本の現場のアジャイルこの書籍は1

Fiction: A Philosophical Analysis (English Edition) 作者:Abell, Catharine発売日: 2020/06/10メディア:Kindle版 まえおき: フィクションの哲学の現状 最近出版されたキャサリン・エイベルのFiction: A Philosophical Analysisという著作を紹介したいのだが、最初に「フィクションの哲学」と呼ばれる分野の現状について簡単に紹介しておく。 わたしがやっている分析哲学系のフィクションの哲学という分野は、大まかには形而上学・言語哲学系統のものと、美学系統のものに分けられる。 美学系統のフィクションの哲学は九十年代に確立された。もう少し詳しく言うと、九十年代初頭に出た三冊の本、すなわちケンダル・ウォルトンのMimesis as Makel-Believe、グレゴリー・カリーのThe Natu

※キャンペーンは終了しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。はてなブログ(2003から2019年まで運営のはてなダイアリーの期間も含む)を使ってくださっている方に、ご自身とブログについて寄稿していただく企画の第3弾として、2019年に『最高の任務』が芥川賞候補にノミネートされた作家の乗代雄介(id:norishiro7)さんに、ブログを書くことについて寄稿いただきました。 2004年から「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」を運営し、創作や書評、エッセイなどをブログにつづってきた乗代さん。進学、就職、そして作家デビューまで共に歩んだブログを書籍としてまとめた『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』が2020年7月に国書刊行会より刊行されました。15年以上にわたる乗代さんとはてなブログとの濃厚な思い出をそのまま記事にしています。ぜひ最後まで楽しんでください。 中学生から始めた

青田麻未(著)/2020年8月 4000円(本体)/四六判並製324頁 装丁:中島衣美 装画:門眞妙 環境を美的に見ることはいかにして可能か? なぜ私たちは環境について語り合うのか? 1970年代、環境保護思想の高まりとともに始まった英米系環境美学 代表的な環境美学者であるカールソンを始めとする諸学説を批評理論として読み直し、常に我々を取り巻き変化し続ける環境に対する美学的アプローチを考察する。 (ISBN 9784861106989) 目次|contents 序 第1章 環境としての世界とその批評―英米系環境美学とはなにか 第1節 美学からの環境へのアプローチ 第2節 英米系環境美学のスタイル 第2章 知識による美的鑑賞の変容―カールソンの環境美学 第1節 ネイチャーライティングと環境批評家 第2節 知識によって支えられる環境批評 第3節 影を潜める主体―カールソンの達成点と問題点 第3

はい、コロナ戒厳令開始前に、サイモン『意思決定と合理性』の改訳を始めました。 cruel.hatenablog.com で、終わった。まあ読みなさい。 ハーバート・A・サイモン『人間活動における理性』(1982)pdf版 ハーバート・A・サイモン『人間活動における理性』(1982) epub版 右クリックでダウンロード 読者のみんなは、ぼくに深く感謝するがよいのだ。これはそれだけの価値がある、すごい本だからだ。 この短い本に収められた叡智のすごさは、ちょっと比類がない。第1章は、彼の限定合理性理論のまとめであると同時に、自分でその限界をバシバシ指摘したおっかない部分。2章は、進化論について一般人の知るべき事を、とんでもなく高度な話まで含めて網羅している。第3章では、1982年の時点で地球温暖化の話にすでに目配りしてあるのに驚くし、また最後に出てくる、各種経済学派のちがいは唯一、期待形成の
こちらは改訂前の旧版のページです。改訂改題版『事業をエンジニアリングする技術者たち ― フルサイクル開発者がつくるCartaの現場』の商品ページをご覧ください ウェブシステム=ソフトウェア技術+ビジネス 株式会社VOYAGE GROUP 監修、和田卓人 編 224ページ A5判 ISBN:978-4-908686-09-2 2020年8月7日 第1版第1刷 発行 株式会社VOYAGE GROUPによる紹介ページ 正誤および補足情報 ともすれば、互いに相反する関心を追っているとさえ捉えられる「ビジネス」と「ソフトウェアエンジニアリング」。しかし現実のウェブシステムで事業を成り立たせるためには、両者を分け隔てることなく、技術力と洞察力と調整力をもって課題に取り組む必要があります。本書は、和田卓人氏による株式会社VOYAGE GROUPのソフトウェア技術者11人へのインタビューに補足解説を添え

クレディセゾンでCTOをされている小野和俊さん(ブログ、Twitter)より、2020年7月29日発売の新刊をいただきました。どうもありがとございます。 その仕事、全部やめてみよう――1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」 作者:小野 和俊発売日: 2020/07/30メディア:Kindle版 小野さんは1976年生まれで同じ年なのですが、CTOというロールモデルについて同世代において先陣を切って、国内にはそういうひとがほとんどいない中で2000年代から作り上げてきた第一人者といえるでしょう(他には伊藤直也さんや藤本真樹さんも、そのような開拓者だと思います)。そんなわけで、同じ年代の彼らが高いレベルで活躍しているのを遠くから畏敬の念とともに遥かに見るしかなかったというような人です。 そうわけで、小野さんが長年書き継いでいる「小野和俊のブログ」を読むことで見識の一端に触れてきたわけですが、

1945年8月、原子爆弾というきわめて高度な科学技術の産物により、日本の敗戦は決定的となった。だからこそというべきか、戦後日本は敗戦の要因を科学技術の遅れと定位し、迷うことなく科学技術立国を推し進めていった。アジアでいち早くアメリカと肩を並べる先進国となり、技術援助をとおして他のアジア諸国の発展に寄与する存在であろうとし続けてきた。一見するとこれは、非合理的で狂信的な軍国主義から、合理的で理性的な民主主義への転換に見える。しかし本書は、戦時期の日本を丹念に分析することで、その物語を否定する。欧米と比肩する日本という国の自意識を科学技術によってつくり(=テクノ・ナショナリズム)、遅れたアジアを科学技術で開発・発展させてアジアの盟主たらんとする(=テクノ帝国主義)ことの淵源は、むしろ1930年代からの戦時体制、とりわけ満州を中心とする東亜の建設にあることを本書は暴く。 アーロン・S・モーア著『

2017年 11月 6日 コメントは受け付けていません。 エルドラードの孤児 《ブラジル現代文学コレクション》 ミウトン・ハトゥン(著) 武田千香(訳) 判型:四六判上製 頁数:188頁 定価:2000円+税 ISBN:978-4-8010-0291-3 C0397 装幀:宗利淳一 11月中旬発売! 《ブラジル現代文学コレクション》刊行開始! 現代を代表する作家から巨匠にいたるまで、いまだ日本国内ではその多くを知られていない〈ブラジル文学〉の力強い息吹きを伝える文学コレクション! 舞台は20世紀前半のアマゾンの中流地域「エルドラード」。文明化されているとはいえ、人々は神話が色濃く残る世界に生きている。アルミント・コルドヴィウは、急死した父親の事業を継ぐが労働することに意識は向かず、一夜をともにしたきり姿を消した、あるインディオの女を忘れることができずにいた……。現代のブラジル文学を代表する
ついに『失われた時を求めて』の最終巻である14巻を読み終わった。記録によると、2019年4月1日に1巻を読み終わっているので、およそ1年ちょっとの間、読みつづけていたらしい。ちなみに前半は光文社古典新訳文庫、後半は岩波文庫で読んだ(光文社版はまだ6巻くらいまでしか出ていないはず)。 つらい戦いだった。正直言ってこれまでの読書人生の中での最難関と思うくらいにはつらかった。何がつらいかというと、途中までまったくおもしろさがわからなかったことだ。8巻くらいでようやくコツをつかみ、それ以後は楽しく読めるようになったのだが、そこにいたるまではまったくおもしろさがわからず、本当につらかった(むしろその状態で8冊も読んだという我慢強さに感心してほしい)。 何がつらかったか。ひとつには趣味の問題がある。小説というものを、仮に、「何が起こったか(出来事)」と「それに対して何を感じたか(思念)」の2つの構成要

紹介 元無印良品の商品開発担当者の著者による、「余計なことをしないで」家族がラクに暮らせる心得や実際にやっていないことについてご紹介。 また、子供3人家族5人暮らしの著者の家の、ダイニング、リビング、子供部屋、キッチン、洗面所などの収納術を細かく掲載。 おすすめの収納用品や水谷家の収納の歴史も掲載。 目次 PART1 余計なことをしない心得 しない心得1 自分ひとりで決めない しない心得2 収納用品依存症からの卒業 しない心得3 片づいた雰囲気はいらない しない心得4 整頓から始めない しない心得5 モノの役割を知る PART2 余計なことをしない収納 しない収納1 隠さない しない収納2 埋めない しない収納3 フタをしない しない収納4 分けすぎない しない収納5 詰め替えない しない収納6 整えない しない収納7 並べない PART3 余計な収納がない部屋 1ダイニング 2リビング

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。 あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。 ニクラス・ルーマン 著 馬場靖雄 訳 『社会システム 或る普遍的理論の要綱(上・下)』 →〈「訳者あとがき」(pdfファイルへのリンク)〉 →目次・書誌情報はこちら:〈上巻〉/〈下巻〉 訳者あとがき これは「社会システム理論」ではない。本書そのものが、社会システム(の一部)なのである。 以上で、訳者がこの「あとがき」で述べるべきことは尽くされているとも言える。しかしやはりもう少し言葉を継いでおこう。 Ⅰ:三重の環 改めて述べるならば本書は、Niklas Luhmann, Soziale

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