第21回(最終回) 『ルネサンス・バロックのブックガイド』の全体構成 占星術、錬金術、魔術が興隆し、近代科学・哲学が胎動したルネサンス・バロック時代。その知のコスモスを伝える『ルネサンス・バロックのブックガイド』はいよいよ2019年2月に刊行します。本書はヒロ・ヒライさん監修のもと、学術ウェブサイトbibliotheca hermeticaメンバーや賛同者等50人の執筆者を迎え、116エントリー、総数150冊あまりの書籍が紹介されます。名著から最新の研究成果まで、日本で出版されたルネサンス・バロックの文化や思想の書物を網羅するブックガイドをめざしました。本書はテーマごとに4部にわかれ、 「第1部 交錯する知の伝統と芸術」でイコノロジー、イエイツ、記憶術など視覚芸術の本を中心に取りあげ、 「第2部 隠された叡智」は占星術、錬金術、魔術など、 「第3部 爛熟する自然の鏡」は博物学や科学革命
本日、とうとうゲットしました!各所で話題沸騰中の、平岡さんの新刊『南蛮系宇宙論の原典的研究』を!ぱらぱらとみてみたのですが、これはもう素晴らしいの一言につきますね。日本側の史料だけでなく、欧州の史料も渉猟し、キリシタン時代の宇宙論を総合的に描き出そうとするこの試みは、江戸時代科学史にとっても、初期近代ヨーロッパの思想史にとっても間違いなく大きなインパクトを与えるものだと思います。本書の前半部は思想史的な手法で南蛮系宇宙論の精読を、後半部は文献学的な手法でそういったテクストの流通を分析しており、いやぁ、なんでこんなにも器用に分析できるのかと。ホント、すごいですね。同じ江戸時代の科学史(僕は医学史ですが)を志すものとして、僕もいつかこのような研究書を書いてみたいものです(笑)。なお、石版さんのブログで既に前半部の論文(こちらの初出となった論文ですが)が紹介されていますので、以下では後半部の章
昨年『科学アカデミーと「有用な科学」フォントネルの夢からコンドルセのユートピア』でサントリー学芸賞を受賞した科学史家、隠岐さや香さんの「一七八〇年代のパリ王立科学アカデミーと『政治経済学』」(2001)という論文を読みました(ダウンロードはこちらで可能)。本文はとても短い作品であっという間に読めてしまうのですが、政治と科学との分業(と有機的な紐帯)や、数字を用いた合理的な政治的意思決定の萌芽を読み取ることができ、とても面白かったです。 1780年代の「政治経済学」とは現代の我々が考えるようなものとはまるで違う。このことがいきなり面白い。筆者は『王立科学アカデミー年誌及び論文集索引目録』に掲載された「エコノミー」分野の一覧を見ています。そこでエコノミーに区分されているのは、繭の脱色、穀粒の保存法、病院の移転事業、パンの公定価格、人口統計など雑多なものです。しかし、筆者はここにエコノミーとい
ここしばらく「ブログを書く」ということについてもにゃもにゃ考えたりしていたんですけど、結局のところ僕が書きたいように書けばいいんですよねというところに落ち着いたりしました。いや「オシテオサレテ」の坂本さんや「石版!」の紺野さんと先日話をしていて、誰に書くかの腰が定まれば自ずと内容と文体は定まるという話になり。 「髭自慢」は歴史学の隣接分野の人たちに向けてまず書かれています。もうちょっと突っ込んで言うと、「あれ、自分思想史とか哲学とか図書館(情報)学とかやっていたけれど歴史学的なものの考え方も導入してみたら議論のエッジが立つんじゃね? 論点の整理がもっとキビキビするんじゃね?」という人に向けて書かれています。歴史学ってこんな風にできたんだよ。外から手をふれがたいものとして確然とそこにあるわけじゃないよ。こういうプロセスで学問としての歴史学が形成されていったんだという知識は、きっとあなたの手が
Avicenna (Great Medieval Thinkers) 作者: Jon McGinnis出版社/メーカー: Oxford University Press発売日: 2010/06/17メディア: ペーパーバック クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る Jon McGinnis, Avicenna (Oxford: Oxford University Press, 2010), 117–48. アヴィセンナ哲学の基本書から、知性論を扱った部分を読みました。アヴィセンナは人間霊魂の能力のうちの知性を、さらに2つに区分しています。実践知性と理論知性です。このうち理論知性が人間の知性認識を可能にし、それによって人間を他の動物から区別します。知性認識とはあらゆる質料から切り離された抽象的なアイディア(forma intelligibilis 可知的形相)を知性が受け入れ

鏡リュウジ @Kagami_Ryuji東大駒場キャンパスなう。ムネモシュネ アトラス展拝見。アビー ワールブルグの図像パネルの再現。貴重な占星術図像多数とその連鎖。この週末までだそうですから、占星術ファンはマストゴー。 http://t.co/UTg1q5vp 2012-12-20 18:47:11 Kuni Sakamoto @kunisakamoto ブログ更新。図像への鋭敏な感性と文書の徹底的博捜の結合の上にのみ美術史は成り立つことを思い知らされます。私にはとても実践できない。 「宗教改革期におけるダイモーン的古代 ヴァールブルク「ルターの時代の言葉と図像における異教的=古代的予言」」http://t.co/IOwJjl58 2012-12-22 12:28:57

ヴァールブルク著作集 別巻 1 ムネモシュネ・アトラス 作者: アビ・ヴァールブルク,伊藤博明,田中純,加藤哲弘出版社/メーカー: ありな書房発売日: 2012/03/01メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (2件) を見る アビ・ヴァールブルク、伊藤博明、加藤哲弘、田中純『ムネモシュネ・アトラス』ありな書房、2012年。ドイツの美術史家・文化史家のアビ・ヴァールブルクは、彼自信が「アトラス」と呼んだ図像パネル集の制作を、遅くとも1926年には開始していました。このパネル集は、様々な造形作品を白黒写真で撮影し縮小して、それらを黒色の布地の上に(ヴァールブルク独自の構想に基づいて)分類配列したものです。現在元のアトラス自体は失われているものの、時系列順に3つの段階のアトラスを白黒写真に収めたものが残っています。本著作はこの最終版をもとにつくられています。 ヴァールブ

その数学が戦略を決める (文春文庫)posted with amazlet at 10.10.29イアン エアーズ 文藝春秋 売り上げランキング: 2097Amazon.co.jp で詳細を見る タイトルだけ読むとろくでもないビジネス本のような印象を受けるのだが、中身は「絶対計算」と呼ばれる意思決定をうながすような統計学的分析の世界を紹介する大変勉強になる本。昔と違って、計算に使えそうなデータが莫大な量となり、かつ、コンピューターの発達によりその莫大な量の計算が可能なものとなってきたため、絶対計算の進歩も目覚しくなっている。その成果として、計算式によって「今年作ったワインが、ヴィンテージになったとき、どのぐらいの価値を持つか(どのぐらい美味しいか)」を導き出せたり、将来性のある野球選手のスカウトの仕方までわかってしまう、という。本書がまず紹介しているのは、こうした驚くべき事実だ。 これに

ここまで淡々と『パサージュ論』を読んできましたが、この第4巻が一番取りつく島がない、というか一番難しい巻な気がします。「サン=シモン、鉄道」、「陰謀、同業職人組合」、「フーリエ」、「マルクス」、「写真」、「人形、からくり」、「社会運動」という項目が収録され、有名な社会主義思想家の名前が挙がっている。しかし、こうした重要そうな名前がこれまでの項目で窺える「未完成のパサージュ論」とどのように繋がるのかがよくわかりませんでした。 マルクスはまだ良いとして、フーリエですよ。マルクス & エンゲルスに「空想的社会主義者」として批難されたあの、シャルル・フーリエの愉快極まりないトんでるユートピアが紹介されているんですが……トんでいるとは言え、これは一種の都市設計なのであり……云々、とでも言うつもりだったのでしょうか……。「フーリエ」の項は『パサージュ論』のなかでも特別に異色な感じがします。フーリエが提
Peter C. Kjærgaard, "The Fossil Trade: Paying a Price for Human Origins," Isis 103 (2012): 340–55. http://www.jstor.org/stable/10.1086/666365(無料ダウンロード可能) 科学における金(money)を扱った特集から、古生物学・古人類学を取り上げた論文を読みました。 化石は生命の歴史を解き明かす貴重な証拠であるだけでなく(というかそうであるからこそ)、金銭的価値を持つものです。古生物学の歴史研究はこの化石の商業的価値の側面を考慮する必要があります。この分野の歴史では、化石を売ったり買ったりという事例を多く見出すことができます。たとえばメアリー・アニングは収集した化石を売ることで父亡き後の一家の生計をたてていました。ダーウィンはビーグル号での航海途中に現地の


キャサリン・パーク、ロレイン・J・ダストン「反-自然の概念 16, 17世紀イギリス・フランスにおける畸形の研究」『思想』701号、1982年、90–118ページ(Katharine Park and Lorraine Daston, "Unnatural Conceptions: The Study of Monsters in Sixteenth- and Seventeenth Century France and England," Past & Present 1981 (92): 20–54.)。 http://ci.nii.ac.jp/naid/40001545827 http://past.oxfordjournals.org/content/92/1/20.citation 1981年に出された畸形についての基本的な論文です。畸型は古代から議論の対象となっていました。アリ

ヒロ・ヒライ「アストラル・メディシン(星辰的医学):ルネサンスにおけるプラトン主義的な医学と占星術(前半)」メールマガジン「BHのココロ」2012年5月配信。 http://www.mag2.com/m/0001412730.html ルネサンス期の医学思想における天と人体の結びつきを探求する論考の前半部を読みました(リンク先からバックナンバーを含めて購読することができます)。天の地上への影響を考察する学問である占星術と医学の関係は、ルネサンス期には2人の論者の学説によって大枠を規定されました。ピコ・デラ・ミランドラとマルシリオ・フィチーノです。前者は天から地への影響を物理的な作用に限定しました。後者は非物体的な力が天から地へと降下し、医師はそれを操作するマグスでなければならぬと教えています。この相容れない2つの方向の議論がそれぞれ発展するにあたり、焦点となったのがアリストテレス『動物発生
キム・ドクス WarnerMusic Japan =music= (2008-08-06) 売り上げランキング: 166938 昨年はMPBばっかり買い漁っていた一年だったが、実はその裏で韓国の伝統音楽のCDも見つけては購入していたのだった。もともとは韓国の作曲家、尹伊桑(ユン・イサン)の韓国の伝統音楽のエッセンスを含む初期作品を聴いて、そこにある独特な空気感(同じ東アジアなのに、邦楽を取り入れた日本人の作品とはまるで違った呼吸や、時間感覚)が、このジャンルに手を出すきっかけ。尹伊桑が自分の人生を語った本のなかでも韓国の伝統音楽が作曲家に与えた影響について触れられているが、かの国では日本よりもずっと音楽と儀式が強く結びついていて、音楽の呪術が本当に最近まで残っていたのがうかがえる。 キム・ドクスによるサムルノリは、厳密に言えば伝統音楽ではなく、伝統音楽の「農楽」と呼ばれるものを発展させた
(承前) 価値観点はダメだ! となると、量的な評価基準を採用するのはどうだろう、という検討が次におこなわれます。結果間の比較を統一的な価値尺度、例えばお金、の大小比較によって最適性を導き出してはどうか、ということですね。しかし、ここにも可測性の限界があるとルーマンは指摘しています。量的な評価をおこなうといっても、すべての結果が同一の測度で量化なんかできないでしょ、というのがここで問題になるのですね。家を建てたときの便益と、物置を建てたときの便益をお金に換算なんかできないでしょ、と。仮にそうした数値化が可能な数式があったとしても、そんなのイチイチお役所でやってたら「経済的な決定の計算にかかる費用が高すぎる」 = 合理的な決定をおこなうことが非合理になってしまう。この部分、とても面白いんですが、この論文が書かれた1960年時点と現代では計算コストはかなり下がってるのでなんでも数式化できたら必ず
親もとを飛び出した学生らしい「ぼく」と、その友人で勤務先の上司とうまくいっていないらしいフクスがある夏の日、それぞれ思い詰めた頭で林の中を歩いていると、針金で縛り首にされたスズメの死骸に遭遇する。いったい誰がこんなことを? これは何かあるにちがいない。 2人は元銀行支店長のレオン氏夫妻の家に間借りすることにした。たちまち「ぼく」の意識を占めるのは、そこで働く女中カタシアの唇(事故のためひきつれている)と、夫妻の若い娘レナの唇(みずみずしく肉感的)であった。唇の向こうに唇。ふたつの唇にはどんな関係が? そしてスズメと唇の繋がりは? 《ぼくらはズボンをはいた。 部屋はいまや決然とした、明確な行動によって満たされた、この行動は倦怠、けだるさ、気まぐれから始まったものであったが、何やら低脳めいたものを内蔵していた。 なまやさしい仕事ではなかった。》p210 勝手に翻弄されていく2人。部屋の天井を見
下記の記事およびURLをご参照ください。 【参 考】アメリカの黒人演説集―キング・マルコムX・モリスン他 (岩波文庫) バラク・オバマが次期アメリカ合衆国大統領に選出されるとほぼ同時、素晴らしいタイミングで出版された岩波文庫の新刊『アメリカの黒人演説集』を読み終える。これは大変興味深く読めた。ここには19世紀前半の黒人反奴隷制論者のものから、最新のものではバラク・オバマによるものまで2世紀弱に渡って、様々な内容の演説が収録されている。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのとても有名な演説(「私には夢がある」)や、ノーベル文学賞受賞者であるトニ・モリスンのものなど目を引くものが多くあるが、やはりマルコムXによる演説に痺れてしまう。「投票権か弾丸か(The Ballot or The Bullet)」、暗殺される1年あまり前に行われたこの演説の模様は、Youtubeですべて聞くことができる

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