こんにちは。
今回も引き続きSynthwaveについて話していこうと思います。
前回はSynthwaveにとって重要なアートワークのモチーフだったり、このジャンルと映画やゲームと言った他の媒体との関係について書いていきました。ここからはいよいよ、このジャンルの音楽的な所に触れていこうと思います。
と言っても、本当に個人的な所感でしかないのでちゃんとこのジャンルについて知りたい方は自分で調べてみてください。私なんかよりよっぽど詳しく説明している方も多いですからね。
それでは早速。
一曲聴いてみましょう。
ゆったりとしたシンセ一つで進行するイントロは柔らかくチルい雰囲気です。途中フィルターによる変化が加わりますが、こういった手法はSynthwaveではマストと言っても過言ではありません。
ビートもシンセに追従するようにゆったりとしていて、全体的にぬるま湯のような空気感です。メロディーに派手な動きは無いですが、サビではシンセの音が大きく広がり、空間が開けたかのような錯覚を覚えます。
何と言うか、まさしく名前の通り「波」のような感覚が心地よいです。
この曲は珍しく日本のアーティストのものなので今回紹介しました。「Signal」というアルバムの最期に収録されている曲ですが、他の曲も面白いので気になった方は是非聴いてみてください。
さて、前回はSynthwaveの音楽的な特徴にはあまり言及しませんでしたね。まあその辺は説明するより聴いてもらった方が早いというのもありますし、長々と説明しても面白くないですからね。
なので本当にさらっと話していきましょう。
Synthwaveが「80年代」を表現する音楽であることはすでに話しましたね。従って当時のシンセの音が使用されるのがほとんどです。ただ、別に当時シンセをそのまま使って当時の音楽を作るのではなく、あくまで音を使うというのがポイントです。
どういう事かと言いますと、Synthwaveは「80年代を表現する」音楽であって、別に「80年代の音楽」ではないという事です。実際に当時の音楽でSynthwaveと同じようなものはありません。
Synthwaveは懐古的なジャンルではありますが、音楽的にはかなり現代的です。つまり、単純な80年代のリバイバルとは違うという訳ですね。それはSynthwaveの文脈からも解ります。
Synthwaveの文脈を遡れば、そこにはFrench Houseがあります。四つ打ちビートの曲が多いのはここから来ていると言えます。
French Houseはかなり包括的な名称ですが、まあ説明すると大変なのここでは2000年代のヨーロッパで流行したHouse系の音楽だとでも思っておいてください。
若しくは世界的に有名なデュオDaft Punkがこのジャンルのアーティストなので、彼らを想像するといいかもしれませんね。
前回紹介したKavinsky等の初期Synthwaveアーティストは、当時流行していたFrench Houseシーンの音楽と80年代に流行っていたnew wave等の電子音楽を掛け合わせるというアプローチでSynthwaveを作り出します。
Synthwaveのwaveはnew waveから来ているとも言われていますから、かなり中核となっている要素なのは間違いありません。
ごちゃごちゃと書いてきましたが、要は新しいものと古いものを組み合わせて生まれたのがSynthwaveで、これはそれまでにはない新しい音楽であるという訳です。
そうして生まれた新たなSynthwaveという音楽ですが、このジャンルが普及していった経緯については前回話した通りです。
少し長くなってきたので休憩がてら一曲聴いていきましょう。
ロングトーンのシンセがメインではなく、断続的なシンセによって曲が牽引されていきます。これによって動きのあるメロディが無いにもかかわらずとてもリズミカルな雰囲気があります。
ビートの細かな変化もあり、シンプルな構成ながら全く飽きさせない曲です。そのうえサビの広がりは爆発的な印象があり、とてもエモーショナルです。
アートワークは実写で作られており、シティポップのような雰囲気もあります。しかし、どこか古めかしい空気間もあり、曲と合わされば洗練された「当時の都会」的な世界観が感じられます。
さて、少し話は変わりますが、Synthwaveは非常に多くの名称で呼ばれていますよね。out run、Retro wave、Future synth、Retro future、Cyberpunk、Dreamwave……。
なぜこんなにたくさんの名称が有るのか不思議ですよね。当然理由はいくつかありますが、その一つはSynthwaveの広がり方に原因があります。
というのも、Synthwaveは音楽ジャンルと言うよりもヴィジュアルを含めたムーブメント、最早ミームと言ってしまってもいいかもしれませんが、そういうコンテンツとしての方が認知度が高いです。
つまりはインターネットコミュニティ間で広がっていった訳ですね。まだ固定の名称を持っていなかった(あったとしてもあまり知られていなかった)Synthwaveは、コミュニティごとに仮の名称がつけられることになります。
それだけではなく、Synthwaveは80年代の何を重点的に表現するかという点でサウンドに差異があったり、また別のジャンルとの融合を果たすことでスタイル的なものが発生します。
所謂サブジャンルですが、中にはサブジャンルとは言えないほどに微妙な差異のものや定義がはっきりしないものもあって、それがまたSynthwaveの呼称を複雑なものにしていきます。
そして、それらはインターネット上で混在していきます。インターネットにおける情報の玉石混合具合は想像に難くないと思いますが、個々人による「この音楽の名前はこれ」という解釈が錯綜していったのですね。
結局それはあまり整理されないままなので、Synthwaveには複数の呼称や定義の曖昧なサブジャンルなんかが犇めき合っているのです。
なので、この曲はSynthwaveでこの曲はout runで……みたいな区別は難しいです。人によっては区別をつけていたりもしますが、それも結構個人の感覚によるものだったりします。
まあ、アーティスト自体も自分の曲がどんな呼称に属するのか区別しているわけではなさそうですし、こういう曖昧な感じを含めてのSynthwaveというジャンルなのかもしれないですね。
一応Synthwaveコミュニティ上では「out run/Synthwave/Retrowave essntial Album Chart」という画像があり、その中ではこのアルバムはこの呼称という大枠な例が提示されています。
ただこれも作成したのは一個人でありどういう基準、根拠での区分けなのか詳しい所まで説明されていないので、個人的には参考程度の認識で見ています。
それに関連した話で言うと、out runは音楽的な部分ではなくSynthwaveのビジュアル的側面を指す名前である、という話もあります。
ただ、out runというのはKavinskyらのFrench Houseから進化した音楽につけられたSynthwave初期の名称だという話もあるので、結局のところどれが正しいのかは解らないままです。
ただまぁ傍から見ている私たちが解らないだけで、意外とコミュニティ内では明確な定義が有ったりするのかもしれませんね。あんまりそんな雰囲気は感じられないですけど……。
ところで、先ほどの話の中でサブジャンルという語が出てきました。Synthwaveのサブジャンルはアーティスト毎の独自な発展を遂げたものも多く、面白いものが結構あります。なのでそれについて書いていこうと思うのですが……。
今回はここまでです。
はい。まさかまさかの、次回に続く(二回目)です。
話が長くてすみません……でも次回の話は結構面白くなると思います。知らない人からはよく混同されるVaporwaveなんかにも言及していきますので、気になる方は是非覗いてみてください。
最後に何曲か紹介して終わりにしましょう。
結構面白いエピソードがあるアルバム「Trans am」がなんと今年の7月にリマスターされた。これはその中の一曲だが、ギターの音が非常に印象的。「out run/Synthwave/Retrowave essntial Album Chart」ではout runに属しているとされている。
軽やかなビートと共にシンセが滑らかに進行していく、どこか牧歌的な印象のある一曲。他の曲と比べて明るい雰囲気が、聴く者を楽しい気分にさせてくれる。
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