読者のなかに、ボカロPに憧れたことがある方はいるだろうか。
現J-POPを代表するアーティストたちの中にはボカロP出身の方も多いように思う。さらに「歌ってみた」で流行る曲はボカロ曲であることも多い。
米津玄師や、YOASOBIのAyase、キタニタツヤなどがボカロP出身アーティストの代表格だろうか。
ボカロというのはボーカロイドの略で、初音ミクをはじめとする歌声合成ソフトウェアでつくられた楽曲全般を指す言葉だ。
ボカロの中にも狭義ボカロと広義ボカロがあり、狭義ボカロはVOCALOIDというソフトウエアだけを指すが、広義ボカロではSynthesizer VやUTAU、CeVIOなどVOCALOID以外の音声合成ソフトも指す。
最近はSynthesizer Vの「重音テト」で作られた楽曲が流行っており、VOCALOIDだけに限らない幅広い表現が追求されている印象だ。
ボカロPというのはボカロプロデューサーの略で、ボーカロイド楽曲を制作する人たちのことだ。
ニコニコ動画発祥の言葉で、ニコニコ動画では自分で名前を決めるのではなく視聴者に付けられたタグから名前が決まることが多かったようだ。
筆者はDTMで作曲をしている。
将来の夢は、どなたかに楽曲を提供できるような作曲家になることだ。
現在は歌ってくれる人がいないので自分で歌っているのだが、楽曲提供をするような作曲家は職業作家やボカロPが多いことに気付いた。
自分で歌っていると「アーティスト」枠に入ってしまい、色が強すぎて楽曲提供を求められないのかもしれない。
そんなことを考えていたタイミングで、吉報が舞い降りてきた。
「ナースロボ_タイプT」というキャラのVOCALOIDのVoicebankが発売されるというのだ。
▲サンプル楽曲
筆者はオリジナルキャラのAITuberを制作している。そのAITuberの声には、VOICEVOXという合成音声ソフトの「ナースロボ_タイプT」を使用している。
しかし、今まで「ナースロボ_タイプT」の歌声はUTAUというフリーの音声合成ツールのものしか存在しなかった。
UTAUはそれが良さでもあるのだが、機械的な感じの歌声で、自然な感じは難しい。
さらに、「ナースロボ_タイプT」の利用規約として、UTAUの歌声を別キャラにあてるのはNGであった。VOICEVOXの話し声はOKだったのだが……。
▲VOICEVOXの「ナースロボ_タイプT」を活用したオリジナルキャラ機田ゆんときゅんロボットの会話
VOCALOIDの、「ナースロボ_タイプT」の利用規約を確認したところ、他のキャラに声をあてることがNGではなかった。つまり、筆者のオリジナルキャラの歌として「ナースロボ_タイプT」を使用することができる。
ついに、ボカロ曲制作デビューをすることに決めた。
まず、VOCALOIDのVoicebankというシステムを理解するのが難しかった。
ストアには「AI ナースロボ_タイプT」という商品と、「AI ナースロボ_タイプT スターターパック」という商品がある。
調べてわかったのは、
・AI ナースロボ_タイプT(1万1000円)
VOCALOID6というソフトを持っている人向けの、ナースロボ_タイプTのVoicebankのみの商品。
・AI ナースロボ_タイプT スターターパック(2万4200円)
ナースロボ_タイプTのVoicebankに加えてVOCALOID6がついてくる。VOCALOID6を単品で買ったときについてくる、たくさんのVoicebankは付属しない。Cubase AIも付属。
VOCALOID6を単品で買うと付いてくるVoicebankはキャラクター性があまりない印象で、ボカロ曲を作りたい人より、仕事で楽曲を作る方々の仮歌用なのかな、と感じた。
今回はAI ナースロボ_タイプT スターターパックを購入した。
VOCALOID6で気になっていた機能があった。
「VOCALO CHANGER」という、人間が歌った歌声をボカロの声に変換してくれるという機能だ。
これについても買う商品によって機能性が違い、ややこしかったので説明したい。
・VOCALOID6(2万7500円)
VOCALO CHANGER機能が付属。人間の歌った声のwavを変換してボカロの声に変換。リアルタイムに変換はできない。
・VOCALO CHANGER PLUGIN(2万2000円)
VOCALOID6とは別売り。DAWソフトでリアルタイムに人間の歌声をボカロの声に変換するプラグイン。
VOCALOID6があればリアルタイムに変換できてライブができるのかと思っていたのだが、そんなことはなかった。VOCALO CHANGERについては使ってみたので後述したい。
筆者はCubase ProというDAWソフトを使用して楽曲制作をしている。
AI ナースロボ_タイプT スターターパックに付属していたのがCubase AIだったことから考えてもCubaseユーザーはもしかしてVOCALOIDを扱いやすいのかもしれない。他のDAWソフトでは使用していないのでわからないが……。
さて、購入して自前のCubase Proにインストールした。まずは、歌声のテストをしていく。
AI ナースロボ_タイプTの中で、いろんな歌い方のSTYLEが設定できることがわかった。
●STYLE一覧
の9種類だ。
▲9種類のSTYLEテスト
元々VOICEVOXでナースロボ_タイプTの「内緒話」というウィスパーボイスを使っていたので、「Whisper Cute」を主に使うことになるだろうなと感じた。
RoomyやRadioなどのエフェクト系はVOCALOID内でやるよりも、ミックス段階でエフェクトを加える方がクオリティは上がりそうだ。
VOCALOID6からウィスパーボイスのパラメータ「AIR」が実装された。このパラメータを上げるとウィスパーボイスで歌わせることができるというわけだ。
▲「AIR」のテスト
これは制作で使ってみて、歌の中で弱く発声させたいところに使ったり、語気を強めたりと使い勝手が良かった。もう少し使いこなしてみたい。
最後に、VOCALO CHANGER のテストだ。
テストで歌ってみた曲をVOCALO CHANGERでボカロの声に変換してみる。
▲「VOCALO CHANGER」のテスト
人間の声から変換しているので、何という歌詞を歌っているのかが分かりにくい感じがした。
今回は早口めの曲だったので、ゆったりした曲だったら使えるのかもしれない。
あと、ボカロの声というよりも人間の声にエフェクトをかけたような印象になってしまった。
女声の制作者が男声の仮歌を作ったり、その逆を作ったりするのには向いているのかも知れない。
ボカロ曲としてリリースするには、VOCALO CHANGER を使うよりもポチポチと手打ちで音程と歌詞を入れていった方がいい音になるなと感じた。
ボカロ曲を普段から聴いているが、いざ作る側になってVOCALOIDを使い始めてみるとわからないことばかりで面白い。こんな感じに作るのかーーというのは新しい発見である。
1994年東京都出身。
ロボティクスファッションクリエイター / メカエンジニア
高校生の頃に「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの制作を始めた。「人間とメカがゼロ距離で近づいた際に人は何を思い感じるのか?」を明らかにするため、2014年よりファッションとしてのウェアラブルロボットの開発を開始。2018年よりウェアラブルロボットと人のインタラクションについて深めるため修士課程に進学。修了後もATRの連携研究員として、ウェアラブルロボットと人のインタラクションの研究を進めている。 DMM.make AKIBAスタートラインメンバー。

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