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この町内の片隅から

よく分からない

雨粒

カイダン 怪談 - この町内の片隅から


朝から冷たい雨が降りしきる灰色の日でした。

つい3日ほど前は、コートがいらないくらいポカポカ暖かい日でしたので、

冷たい雨が身に染みます。

少しホッとしたのも束の間。

春になろうかなるまいかの頃は、行ったり来たり、着たり脱いだり。


記憶の何処かにある、囁き声を耳にしたのは、

幾度か暖かい日が訪れたせいで、真冬よりつらく感じる寒さを

とっととやり過ごそうと、マフラーに顔をうずめ家路を急いでいた時です。


(ねぇ…皆んな、どこへ行こうとしてるの?

何でいつもセカセカ歩いているの?)


(だれ?だれかいるの?)


あれは夏の夕暮れだったでしょうか?

西の空を真っ赤に染めて太陽が沈む頃、

寂しげに階段の端っこに引っ掛かっていた、10センチくらいの女の子。

あの時の女の子が、眉を八の字にしてこちらを見ています。


(やっぱり気づいてくれた!階段で会ったよね!)


声を弾ませて、こちらを見る女の子は、

足をぶらぶらさせながら、ぽつぽつ雨粒が滴り落ちるフェンスに

ちょこんと腰掛けています。



(何してんの?そんなとこで?)


(わたしね〜雨の日はお仕事)


(お仕事?)


(うん!必殺仕事人なんだ!)


(仕事人?)


(大人って泣くとこないでしょ?泣きたい人に泣ける場所を作ってあげるんだ!

雨の日は泣ける場所がいっぱいだよ。試しに泣く?)


フェンスに近寄ってみましたら、


(よし!いくよ!)


なんということでしょう

半径3メートルだけ突然の土砂降り。


(いまのうちだよ!たくさん泣いていいよ。世界中の誰にも見られないよ)


たくさん泣いていいよ、の優しい言葉がスッと染みたからでしょうか?


封印していた数々の記憶が、いっぺんに蘇りました。

それぞれを封印する前、確かに泣いたはずです。

しかし、風呂場や布団の中で、声を殺して泣くのでは全然足りなかったかもしれません

遠慮しながら泣き始めたら、堪えていた気持ちが噴水のように溢れ出しました。

次から次へと封印していた記憶が蘇ります。

もはや、涙なのか鼻水なのか雨水なのか分かりません。

滝のような雨音に紛れ、幼い子どものようにワァワァ泣き喚きました。

雨のカーテンが、泣き声も姿も全てを覆ってくれます。


あっという間に、下着や靴下までびしょ濡れになりましたが、

心の奥底を思い切りぶちまけることができました。

子どものように泣いたのは何年ぶりでしょう。


あぁすっきりした!


お礼を言おうとしましたが、女の子の姿はもうありませんでした。



※ すべて、雨の日の妄想です

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