Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


広告をなくす会員登録後、広告を非表示にできます

この町内の片隅から

よく分からない

ある侍女の告白 其の八 織姫

ある侍女の告白 其の五 織姫 - この町内の片隅から
ある侍女の告白 - この町内の片隅から


「いつもそうだけど、あんたのぶり大根まずいわ」


いきなり、不機嫌な物言いをされて驚いた。
気持ちが弱っている時だったから、その言葉を額面通りに受け取ってしまい、
不覚にもポロリと涙が溢れた。


「何回も作ったけど、いつも我慢してたってこと?」


それには答えず、ワカメのみそ汁を飲み干して、席を立ってしまった。
あれ?結婚して何年になるんだ?
気遣いのできる優しい人だと思っていた。
仕事でしんどいことがあるのか、近ごろ訳もなく当たられる気がする。
中学2年の次男が不登校気味なことも責められている気がする。


まずい まずい まずいわ…


その言葉が脳内をリフレインしている
ぐるぐるリフレインしている
いっぺんに食欲がなくなり、半分以上残してしまった。
楽しい会話
温かい食卓
それが当たり前と思っていたのに、どこで道を間違えたんだろう。


(地味な人生の地味なご飯だわ)


次の朝、いつも通り起きて弁当4つと朝ご飯を作った。
今日は持って行くだろうか
反抗期がひどくて、不登校気味の次男の心の内が分からない。
食べ盛りだというのに、何が気に入らないのか、
ときどき弁当を置き去りにして登校する。
ある日、心配のあまり、げた箱の上にお金を置いた。
『パン代』と書いたメモと一緒に。
弁当もお金もそのままだった。


こんな近くにいるのに、誰も何を考えているか分からない。
アタシはおろおろ気遣うばかりだ
こんなアタシじゃなかった
もっと自由で伸び伸び呼吸してた。


…疲れた


下界に降りてみたいと言ったとき、
一生懸命説得してくれた侍女がいたな…
名前も忘れちゃった
下の世界、面白そうだと思ったもん
「つらさ、悲しみ、孤独、分かり合えない…なんちゃら」
そんなこと言ってたけど、つらさ、悲しみって聞いても何のことか分からなかった。


侍女…高校のクラスメートの池谷初音に似てたな
あの子どうしてるんだろう?


ねぇ初音…アタシにもプライドがあるから絶対誰にも言わないけど、
本当は寂しいよ
泣きたいよ
アタシも大事にされたい
優しい言葉がほしい
信じられるものがほしい
降りてこなきゃよかった
それとも、そういう気持ちを味わうために降りてきたの?


深夜になって、バイトから帰った長男に聞いてみた。


「ねぇ、オカンのぶり大根、いつもまずかった?」


何があってもクールな彼は
クールな口調で一言


「あん?まずくないぞ」


あ…救われた


下の世界は何かと重い
そもそも身体があること自体重い
思うようにならないことばっか


しかし、ときどき救われる
ほんの時たま煌めく瞬間がある。
だから、よろよろしながらでも、やってられるんかな?


…うん!決めた!
アタシは、これ以上疲弊しないために、自分をいちばん大事にする!
誰もアタシのこと大事にしないから、自分がそうする!
大事にしてほしい。なんて途方もない幻をいつまでも追ってられるか!


はやく気づけばよかった。こんな簡単なこと。


誰がどうなろうと断じてアタシのせいじゃない!

月別ブログ記事
カテゴリー・タグ
地域タグ
    コメント

    リブログ一覧

    ×

    このブログへのコメントは muragonにログインするか、
    SNSアカウントを使用してください。


    [8]ページ先頭

    ©2009-2025 Movatter.jp