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鈴木三重吉『桑の実』を読んだ
身寄りがなく職と家を転々としている若い女(おくみ)が、次の人が見つかるまでという約束で画家の男(青木)の家の下女になる、おくみは自分でも気づかぬまま青木に恋をするが約束の期限が来て惜しまれつつ去る話です
この青木がなんかすげえ嫌なやつで
身重の妻を残して洋行、妻の趣味は嫌味を言って辞めさせ、妻が病んだら子供を残して実家に返し、そのくせ子供さえいなければ自由なのに〜 みたいなことを言う、愚痴っぽい自己中
何でこんな奴が惚れられ役なんだ、いや私は嫌と思うけど当時はそうでもなかったのか、当時の感覚でもダメ男だけど若いときってこういうダメ男の傲慢な繊細さに惹かれちゃうことって… あるわよねえ! という話なのか、わからなくて、気になった
というわけでこんどは『鈴木三重吉全集』の2巻まで(+5巻収録の桑の実解題)を読んでみたんだけど
おくみは作者の好きなタイプの女です、というのは解題に書いてあった
ほんでそうとは言わないけどたぶん青木は作者自身をモデルにした主人公たち、の、変形版なんだろうなと思った
『小鳥の巣』とか『民子』とかに登場する、理想の女を得たい理想の女に理解されたい女如きが己を理解できるわけがないさみしいさみしいと唱え続けてるキャラクターのことです
露悪でやってるのか本気なのかわからないけど、短期間に何度も何度も同じような話を書くくらいだから結論が出てないというかこの時点では全肯定でも全否定でもないんだろうな
それより少し後に書かれた『桑の実』で、語り手が男からヒロインになって、そのうえでおくみの親代わりの人物がおくみに青木とちょっと距離置いて先の人生のこと考えなさいみたいなこと言うのが、作者が妄執から少し離れることができたってことなのかもしれないなと思う
じゃあ作者本人の気持ちじゃなくて、「当時の感覚」ってやつは結局どうなのよというところだけどやっぱりまだわからない
それでも読む前より少しは想像の土台ができたというか、当時としても青木はちょっと嫌なやつだった(けどまあ碇ゲンドウ君くらいの嫌さであって、吐き気をもよおす邪悪ってほどではなかった)んじゃないかなというのが、今のところの推測です。