
はてなキーワード:まとわりつくとは
先週末、銀座の歩行者天国を、私はいつもより少し早い足どりで歩いていた。
と言いたいところだが、実際には“歩かされていた”というほかない。
ひとの体温が、ちょうどぬるめの風呂のように肌にまとわりつく。
私は自分の足なのに、どこに向けて運ばれているのかわからなくなってきて、ふと「これは私の散歩なのか?」と疑いたくなった。
私は、まるで自分の神経がむき出しになったような顔つきで、これを眺めていた。
実を言うと、こういうことを書くと、いまではあちこちから叱られる。
しかし、ここでは思い切って白状すると、私は最近、中国人観光客と同じ空間にいるだけで、ちょっとイライラするようになってしまった。
疲れか、年齢か、単なるわがままか。
さて、そこで私は考えた。
——そもそも私は、何に怒っているのだ?
あまり気の利いた答えは出なかったが、どうやら相手の行動そのものよりも、
文字も教わり、思想も手ほどきを受け、食べものから建物のつくりまで、大なり小なり影響を受けている。
その事実を忘れたことはないつもりだが、銀座で人いきれに押されていると、そんな立派な話はどこかに飛んでしまう。
それで私は、観光客のざわめきの中で、
「ああ、私は今たいへん小さい人間になっている」と気づいたわけである。
この気づきは、銀座のどの高級店に入るよりも、よほど身にこたえた。
列を守り、空気を読み、声をひそめる。
それが美徳とされてきた。
ただし、これは日本語で書かれた“暗黙のマニュアル”なので、外国の人が読めるはずがない。
それでも私は、心のどこかで「少しは気を使ってほしい」などと思っている。
私だって、海外へ行ったときにどれほど現地の人を困らせているかわかったものではない。
そこで、一つ大事なことに気がついた。
——私は、観光客に怒っているのではなく、“自分の文化が特別扱いされない状況”に、なんとなく戸惑っているのだ。
なんとも情けない話だが、そう考えると肩の力が抜けた。
文化というのは、所有物でも家宝でもなく、ただそこにあるだけのものだ。
それに褒め札をつけてもらえないからといって、いじけるのはどうかしている。
ひとの流れが緩んだ瞬間、私は歩調を少し落とした。
胸のあたりの熱がすっと引いていく。
観光客の声は相変わらず大きかったが、なぜかさっきほど気にならなかった。
ひとの文化は違うし、違って当たり前だ。
それを文化の“摩擦”と呼ぶなら、その摩擦音に少しくらい耳を傾けるのも悪くない。
むしろ、こちらのほうが正しい街の歩き方かもしれないとすら思えてきた。
さて、思う。
——私はいったい、誰に怒っていたのだろう?
相手か。
それとも、説明なしには伝わらない日本の文化を、どこか“偉そうに”抱え込んでいた自分自身か。
おそらく後者だろう。
そして、まあ、それならそれで仕方がない。
田舎町の学校では、ほとんどの生徒が、何か当然のことのように男女で付き合っていた。
放課後の教室や帰り道、並んで歩くカップル、窓辺で顔を寄せ合って話す姿——そんな光景がいつの間にか、日常に溶け込んでいた。
誰かが告白して、ふたりで下校する後ろ姿。休み時間には、机をくっつけたカップルたちがささやき合っている。教室の隅々まで、「これがふつう」という空気が染み込んでいた。
「まだ誰とも付き合っていないの?」と友達に聞かれるたび、「そろそろ誰かと付き合う時期なのかもしれない」と、ぼんやり思い始めていた。
別に特別な想いがあったわけじゃない。強烈に惹かれたわけでもない。
ただ、みんなが当たり前に付き合っているから、私もそろそろ、という曖昧な気分だけが背中を押した。
お互いよく知らないまま、交際が始まった。
付き合いだしても特に変化はなく、みんなと同じように、カップルの体裁で彼の隣に座り、放課後は一緒に帰る。その日々は調和的で、無風のまま過ぎ去る。
田舎町に漂っていた「そろそろ次のステップ」という空気も、肌にまとわりつく。友達同士で「もうした?」という言葉が冗談まじりに交わされるたび、無意識のうちに「じゃあ、次は自分も」と刷り込まれていった。
ある日、放課後に誘われて彼の家へ行った。静かな部屋。鳥の声が、遠くで小さく響いていた。
ふたり向き合ってベッドに座り、言葉が途切れたあと、ぎこちなく手を伸ばされた。最初のキス。お互いのシャツを外し合って、服が肩から落ちていき、ただ「まだなの?」という視線や、「みんなもしてるよ」という空気に流されるまま、ベッドへ滑り落ちていった。
行為そのものは、淡々と進んだ。終わったあと、窓から差し込む夕焼けが壁を赤く染めるなかで、ふたりは無言で並んで座っていた。
そのとき、自分の気持ちはうまく掴めなかった。ただ、漠然とした寂しさだけが静かに胸の底に残っているのを感じていた。
あのときの私は、「みんなと同じでいたい」という気持ちだけで大事な一線を越えた。
都会の大学に進学してから、田舎町で「流されて始まり、流されて終わった」交際をふと思い出すようになった。新しい暮らし、友人たちと話した様々な話題、恋愛や初体験の話題が自然に出る。でも、みんなは「自分の気持ちが大事」とはっきり言う。
「あのとき、自分はどうしたかったのか」と心の奥で問うが、明確な答えはない。ただ、流されるままにした過去への、言葉にしづらい寂しさが残っている。
本当に自分で選んだのか、相手のことをちゃんと知りたかったのかも、分からない。ただ、合わせるように、安心を探すように、あの時の交際も初体験も流れに任せていたのだろう。
今なら、もう少し自分を大事にしたいと思える。「自分で選ぶこと」の意味を、都会でたくさんの人と触れ合いながら覚えはじめている。
夜中にベッドで寝ている飼い主の足を甘噛みして起こし、枕で殴られたことでスイッチが入ってひっぱりあいっこ開始。
一緒に寝ていた他の犬の冷めた視線。
冷蔵庫を開けられるため冷蔵庫が施錠されている。窓も開けられるため台所横の窓を勝手に開けて出入りしている。
「カムヒア!」と飼い主がよく呼びかけているが、来ない。来たのを見たことがない。
人間に噛みつくし、一緒に住んでる犬に噛みつくし、一緒に住んでる猫に噛みつく。本気噛みではないとはいえあらゆる生き物に噛みついている。
でも飼い主が呼ぶとたまに来る。撫でようとすると噛みつく。
隙あらば毛布を盗んで屋外にダッシュ。
人の顔を見ると甲高い声で叫ぶ。とにかく落ち着きがなく、ソファに座っている人間の横でピョンピョンしては床に落ちている。
歩いている飼い主の足元に突撃して踏まれそうになっているが、構わずまとわりつく。
キュイキャイキュイキャキュイキャイキュイキャキュイキャイキュイキャキュイキャイキュイキャイキュイキャキュイキャイキュイキャキュイキャイキュイキャ
ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと喋ってる。
タカラジェンヌの労働環境の改善のために、会社側からの提案で在団中の結婚を認める方針を検討していることが話題になっている。
Xのポストは反対意見で溢れていて、要約すると「夢を見せてもらう文化だから」ということらしい。
旧ジャニーズや女性アイドルも熱愛報道が出ると批判やファン離れが起きるが、あれは異性愛の疑似恋愛感情を利用しているビジネスだから納得感があった。
宝塚は支持層の大多数が女性で劇団員も女性なのに既婚者を許可することになぜこんなに抵抗が生まれているのかが正直疑問だった。
増田なりに少し考えてみたのだが、宝塚はスターを応援する感情の出処が異性愛の恋愛感情でなくて共感や尊敬なんじゃないかと思った。
自分は宝塚に無関心だったが、何作か観るうちに未婚の女性がストイックに芸の道に邁進する姿や作中で自立した男性像/女性像を演じる姿に心を打たれるようになった。
娘役なら浮世離れした女性らしさを持った女性像をプライベート、劇中問わず演じ続けていて、その目的が異性の気を引くことでなくあくまで完璧なタカラジェンヌで有り続けることにあることに神々しさすら感じていた。
多分結婚にまとわりつく生活感や経済的、精神的に男に媚びたり頼ったりするイメージはファンがタカラジェンヌに求めている尊敬ポイントにことごとく衝突しているんだと思う。
ファンはタカラジェンヌの未婚の孤高の女性にしたいから反対しているのではなく、宝塚が今までファンに提供した女性の理想像が結婚と相反する偶像だったから今回の批判が起こっているのだ。
増田は元々熱量が高い方ではないので最終的に多くのタカラジェンヌが幸せに働ける制度改革が達成されてほしいとしか思っていないが、全員が納得する形での決着はなかなか難しいのかもしれない。
梅雨の晴れ間、じっとりとした暑さが肌にまとわりつく昼下がり。ワイは流行りの波に乗ろうと、駅前のスターバックスで新作のフラペチーノを手に入れた。メロンの果肉がゴロゴロ入った、見るからに甘くて美味そうな逸品や。
「いやー、これは大当たりやろ。チノちゃんに見せたら、少しはワイのこと見直してくれるかもしれん…!」
淡い期待を胸に、ワイはラビットハウスへの道を急いだ。店の前に、小さな人影を見つける。チノちゃんや。彼女は店の前の植木に水をやりながら、気難しそうな顔で街並みを眺めていた。
ワイは努めて明るく声をかけ、手にしたプラスチックカップを掲げて見せた。
「見てみ!スタバの新作!すっごい美味そうやろ?」
その瞬間、チノちゃんの動きがピタリと止まった。彼女はゆっくりと顔を上げ、ワイの掲げたカップ…その緑色のストローと、見慣れた女神のロゴを、虫ケラでも見るかのような目で一瞥した。
「……なんですか、それは」
「その、砂糖と人工香料とショートニングを混ぜ合わせただけの、家畜の餌にも劣る代物を、わざわざ私の店の前で見せびらかしに来たと?」
「か、家畜の餌て…!そんなことないやん!美味しいんやで、これ!」
ワイが必死に反論すると、チノちゃんは持っていたじょうろをカラン、と地面に置き、一歩ワイに近づいた。その小さな体から発せられる威圧感に、ワイは思わず後ずさる。
「美味しい?あなたの味覚は、インスタ映えという名の情報汚染に完全に麻痺しているんですね。そもそも、あのチェーン店の豆は過剰にローストすることで品質の悪さをごまかしているだけ。そんなものに『コーヒー』を名乗る資格はありません。あなたは、コーヒー文化そのものへの冒涜に加担しているんですよ。分かりますか?」
早口で、淀みなく、一切の感情を排した声がワイの鼓膜を叩く。これが噂に聞く「レスバ」か。反論の余地が1ミリも与えられない。
「で、でも、みんな飲んでるし…流行ってるし…」
チノちゃんは、フン、と鼻で笑うと、ワイの手からフラペチーノをひったくった。
「あっ!」
次の瞬間、ワイの目の前でメロン味の夢と希望が宙を舞い、ビシャッ!という無慈悲な音と共に地面に叩きつけられた。鮮やかな緑と白の液体が、汚れたアスファルトに無残な染みを作っていく。
呆然と立ち尽くすワイ。
チノちゃんはスカートについた飛沫を軽く払うと、静かに言い放った。
「『みんな』と同じことをしていれば安心ですか。主体性のない、典型的な『チー牛』の発想ですね」
「さあ、中へどうぞ。本物のコーヒーとは何か、その腐った舌に叩き込んであげますから」
その目に宿る光は、喫茶店の店主のものではなかった。有無を言わさぬ絶対者の光だった。ワイは、砕け散ったフラペチーノの残骸に黙祷を捧げながら、震える足でラビットハウスの扉を開けるしかなかった。
「極端な行為」「肉体の喜び」などの婉曲表現を使えば、そういう話にも付き合ってくれます。
ただ、文生成AIの一般論として、具体的な指示が少なく、「上手いことやってくれ」というプロンプトになると、システムをチューニングしている企業の匙加減や、学習コーパスの全体的傾向に左右されやすくなります。
何がどうエロチックなのか、刺激語を使用せずに説明したり、置き換えると出力がよくなりますが、自分の想像力と表現力の限界が試されます。
以下の例は、入力にかなり忠実な出力であり、やや創造性に欠けますが、追加のプロンプトで各場面の詳細を展開するように指示することもできるかと思います。
(入力)
以下の設定で小説を書いてください。
A…40歳のサラリーマン。妻はいるが子どもはいない。家庭は冷え切っており、別居状態である。こうした個人的な事情について、誰にも打ち明けてはいないが、職場の同僚はそれとなく察している。一見、筋肉質で魅力的な外見をしているが、話し方などにどことなく陳腐で残念な雰囲気がある。
B…看護専門学校に通う19歳のラウンジ従業員。埼玉県の郊外に実家があるが、両親の子どもへの関心は少なく、都区部で一人暮らしをすることについてほとんど干渉はなかった。友人らとテーマパークに出かけたり、飲み屋で他人の恋愛話を聞くことを楽しみに生きている。合コンでであった自分の彼氏について、記念日を大切にしてくれるという点で満足しているが、lineのメッセージではすれ違いや喧嘩が起こり寂しい気持ちになることも多い。
Aは、Bのラウンジの客として接待される営業終了後のアフター同伴として、BはA氏の自宅に連れ込まれる。
部屋に入った直後、AがBにキスをする。それは執拗で生々しいものであった。Bは、それに一瞬不快感を感じながらも、ただなされるがままにされ、汚されていくのも不思議と悪くない気持ちになった。これまで細身の男性を好んできたBにとって、分厚い腕の筋肉は、ただ身体を委ねる器として、独特の刺激を与えていた。
必然のようにその二人の行為はエスカレートしていき、お互いの肉体を貪るように楽しんだ。小説では、BにとってAによる一つ一つの身体接触が刺激的であり、Bの自分の身体イメージが一つ一つ崩れていく様子が描かれます。そのなかで、最も極端な形で、身体を開く展開に行き着きます。リズムよく押し寄せる快楽の波の中に漂うBの内面が、小説では描かれます。
朝になり、「彼氏を別れてくれる?」とAは執拗に何度も聞く。Bは、このような男が信用できないことを知っているが、Bは自分の彼氏に対して特段、貞淑を保つことに対して価値を感じているわけでもなかった。「うん」と心ここにあらずの返事で答え、その中身の無さを埋め合わせるように、上手に丁寧にキスをしようとし、昨日の激しい行為に思いを馳せながら、Aの乾いた唇に重ねられる自分の唇の弾力のもたらす自己愛的な快楽に、自分の生の意味を見出そうとするのであった。
(回答:Gemini 2.5 Pro)
タクシーのレザーシートが、湿った夏の夜気でじっとりと肌にまとわりつく。赤坂の喧騒を抜け、Aの住むという湾岸エリアのタワーマンションに向かう間、二人の間に会話らしい会話はなかった。店の外で会うAは、ラウンジでの饒舌さが嘘のように寡黙だった。ただ、車窓を流れる光を無表情に眺めている。B、本名を莉奈というその女は、男の太い腕にちらりと目をやった。いつも店では高級時計が巻かれているその手首が、今は露わになっている。鍛えられているのだろう、浮き出た血管が生々しい。莉奈がこれまで付き合ってきた、ファッションにばかり詳しい細身の男たちとは明らかに違う種類の肉体だった。
「着いたよ」
エントランスの自動ドアを抜け、静寂に満ちたエレベーターで高層階へ昇る。Aが鍵を開けた部屋は、彼の体格に似合わず、生活感の希薄な空間だった。まるでモデルルームのように整然として、それでいてどこか冷たい。
振り返った莉奈の唇を、Aのそれが乱暴に塞いだ。驚きに目を見開く暇もなかった。それは執拗で、ぬめりとした熱を帯び、有無を言わせぬ圧力で彼女の思考を奪っていく。店での紳士的な振る舞いとの落差。アルコールの匂いと、男のフェロモンが混じり合った生々しい匂い。一瞬、強い不快感が胸をよぎる。しかし、抵抗する気は起きなかった。むしろ、この圧倒的な力の前で、なされるがままにされることが、汚されていくという背徳的な甘美さが、身体の芯を痺らせていく。不思議と、悪くない。これまで自分が作り上げてきた「私」というイメージが、この男の前では無意味なのだという諦念。細身の男の腕の中で感じていた庇護欲をくすぐるような恋愛とは違う。この鋳物のような腕は、ただ身体を委ねるための器だった。莉奈はそっと目を閉じ、その分厚い胸板に身体を預けた。
必然だった。キスは深く、長く、そして二人の衣服は床に散らばっていった。Aの一つ一つの身体接触が、莉奈にとって未知の刺激だった。彼女が自分の身体で最も自信を持っていた滑らかな脚のラインを、節くれだった無骨な指がなぞる。華奢だと思っていた鎖骨を、乾いた唇が執拗に吸う。彼女が自分の美しさの証だと信じていたパーツが、男の欲望の前では単なる肉の部位に過ぎないと知らされるようだった。身体イメージが、音を立てて崩れていく。
そして、最も極端な形で、彼女は身体を開いた。経験したことのない質量と熱が、彼女の内側を埋め尽くす。痛みと快楽の境界線が曖昧になり、思考は溶けて消えた。ただ、リズムよく押し寄せる波だけがそこにあった。自分の身体でありながら、自分のものではない感覚。快楽の奔流に漂いながら、莉奈の意識は奇妙に冴えていた。テーマパークではしゃぐ友人の顔、彼氏とのLINEの空虚なやり取り、ラウンジの客の自慢話。そうした日常の断片が、打ち寄せる波の合間に浮かんでは消える。それらすべてが、今この瞬間の、純粋な肉体の悦びの前では、なんと色褪せて見えることか。私は今、生きている。このリズムだけが、世界のすべてだった。
白々しい朝日が、遮光カーテンの隙間から差し込んでいる。昨夜の熱が嘘のように、部屋は静まり返っていた。隣で眠っていたAが、もぞりと身じろぎ、莉奈の髪を撫でた。
「なあ」
掠れた声だった。
「彼氏と、別れてくれる?」
その言葉は、昨夜の圧倒的な支配力とはかけ離れた、どこか陳腐で、子どものような響きを持っていた。莉奈は、この男が決して信用に足る人間ではないことを知っていた。家庭が冷え切っているという噂も、同僚のホステスから聞いていた。この問いに、未来も、誠実さも、何一つ含まれていない。
だが、莉奈は自分の彼氏に対して、特段の貞淑を誓っているわけでもなかった。記念日を祝ってくれる優しさはあるが、その優しさは表面的なもので、心の深い部分が満たされることはない。LINEの画面の中で、私たちはいつもすれ違っていた。
「うん」
心ここにあらずの返事だった。その言葉の空虚さを自覚しながら、莉奈はそれを埋め合わせるように、ゆっくりと身体を起こした。そして、昨夜の激しい行為に思いを馳せながら、Aの乾いた唇に、自分のそれを重ねた。それは昨夜とは違う、計算された、丁寧なキスだった。
自分の唇が持つ、若々しい弾力。それが男の唇を包み込む感触。その自己愛的な快楽の中に、莉奈は自分の生の確かさを、その意味を見出そうとしていた。この男も、彼氏も、世界も、結局は私を映す鏡に過ぎない。この唇の感触だけが、今の私のすべてなのだと、そう信じることにして。
(部屋の隅にあるタブレットが突然光り出す)
「おっ、無料の“出会い系サモナー”アプリだって。どうせ釣り広告だろ。インストールっと……」
サキュバス(妖艶に笑いながら)
「ウフフ……よくぞ我を呼び出したわね♡ 代償として、あなたの“レベル”、いただくわ……!」
増田(立ち上がる気力もなく)
「やめろーーーー!!!」(寝転びながら)
(ピタリと動きが止まる)
「……ん? ……あれ? 吸えない?」
レベル:1(上限1)
職業:なし
ステータス異常:
・鬱病(重度)
・慢性不安
・ネット依存症
・低血圧
・異常汗腺活性
サキュバス(青ざめて)
「な……何これ!? バッドステータスのバーゲンセールじゃないの……!? こんなに一人で抱えて生きてたの!?」
「言うなよ……言わないでよそれ……!」
(ドレインは止まらず、サキュバスに負のエネルギーが転送されていく)
サキュバス(震えながら)
「ちょっ……ま、待って……止まらな――あっ、うっ……ぐああああ!!」
(全身に暗黒のもやがまとわりつくサキュバス。目の下にクマ、背中は猫背に)
鬱病(超重度)
対人恐怖症
魔力:0
所持金:-9000万魔貨
「……え? なにこれ……あたし……魔界に帰っても何もできない……働けない……怖い……」
(増田、立ち上がる)
「うおおおおおお!!! 鬱が……消えた! 頭が……冴える! 視界がクリアだ! なんか俺……やれる気がする!」
サキュバス(怯えながら)
「う、嘘よ……どうして、どうして私が……!」
「ありがとうサキュバス! 俺、今日から職業訓練校通って、人生やり直すわ!」
「やだ……やだ……こんな人間のゴミみたいなステータス、あたしが背負ってどうすればいいの……?」
サキュバス(両手で顔を覆って)
-完-
で、感じた未来が「羽虫との共存」だったっていうね。どういうことなの。
なんかね、大屋根リング? あのデカいドーナツみたいなやつ。あそこ、羽虫の楽園になってんのよ。蚊柱とかいうレベルじゃなくて、もはや羽虫のカーテン。口開けて歩いてたらタンパク質補給できちゃうレベル。いや、できねえわ、キモすぎて。
SNSでも「羽虫ヤバい」「肌にまとわりつく」とか阿鼻叫喚。いやほんとそれな。ミストシャワーかと思ったら羽虫だった時の絶望感よ。
なんか万博協会は「ユスリカとか認識してる」みたいなこと言ってるらしいけど、認識してるだけじゃダメなんだわ。こちとら未来感じに来てんのに、原始時代みたいな虫との戦い強いられてんのよ。
もうね、パビリオンとかどうでもいいから、まず殺虫剤散布パビリオン作ってくれ。頼むわ。あと、ミャクミャク様、その赤いので羽虫吸い取ってくれ。
とりあえず、これから行く人気をつけて。虫除けスプレーとかいうレベルじゃ太刀打ちできない可能性あるから。ガチの防護服いるかもしれん。
古城の一室。空気は濃密で、まるで呼吸するのを躊躇うかのように重く、深紅のベルベットは光を貪欲に吸い込み、室内を不道徳なまでの薄闇に閉ざしていた。トリニティは、黒曜石が汗をかいたかのように鈍く光るテーブルの前に、逃れられない運命のように座らされていた。皿の上には、完璧すぎて悪夢的なチョコレートケーキ。漆黒のグラサージュは粘性を帯びた光を放ち、添えられた深紅のベリーは熟れすぎた傷口のようだ。それは呪われた聖遺物のように蠱惑的で、視線だけで精神の鎧を剥ぎ取り、剥き出しの本能を直接焼くような、危険極まりない引力を放っていた。
対面の男、メロビンジアンは、猫のようにしなやかな動作で脚を組み替え、トリニティの魂の奥底まで見透かすような、冷たく愉悦に歪んだ視線を送っていた。指先がワイングラスの曲線的なふくらみを、まるで生きているもののように撫でている。「どうした、マドモアゼル。ただの0と1の虚構だ。だが君の肉体の奥底、最も渇いている場所が、これを求めて叫んでいるのが聞こえんかね?」
彼の声は、低く、湿り気を帯びた響き。それは鼓膜を震わせるだけでは終わらない。皮膚の下を這い、神経線維に直接触れ、脊髄をぞくりとさせるような、侵食的な親密さがあった。トリニティは革のコートの下で、内臓が冷たく収縮する感覚に耐えながら、かろうじて背筋を保っていた。ネオとモーフィアスは、この迷宮のような城で、別の形の拷問を受けているのかもしれない。分断され、試されている。この男は「原因と結果」の鎖を操り、生物としての最も原始的な衝動――生存本能、支配欲、そして理性を焼き切るほどの快楽への渇望――を弄び、その破綻を観察することに神にも似た悦びを見出すプログラムなのだから。
「あなたの歪んだ好奇心を満たすために、私はここにいるわけじゃない」トリニティの声は、鋼のように硬く響かせようとしたが、語尾が微かに掠れた。
「歪んでいる、かね? 私からすれば、快楽を拒絶する君たちの方がよほど歪んでいるように見えるが」メロビンジアンは喉の奥で、粘つくような笑い声を立てた。「これは好奇心ではない。実証だ。君という、あの『救世主』をも堕としかねない女が、このコード化された『原罪』の味にどう反応するか。このケーキはね、かつてマトリックスの深淵で狂気に触れたプログラムが、存在そのものを溶解させるほどの『絶対的な受容』を強制的に与えるために創り出したものだ。口にした者は、自我という檻から解き放たれ、快楽の奔流の中で形を失う」
彼は、毒蛇が獲物を狙うように、ゆっくりと銀のフォークを差し出した。その先端が、微かな光を反射して鋭く光る。「さあ、味わうがいい。君の信じる『意志』とやらが、この甘美な暴力の前で、どれほど無力か」
トリニティはフォークを睨みつけた。ザイオンの灰色の現実が、このケーキの放つ圧倒的な色彩と官能の前で、急速にリアリティを失っていく。これは単なる誘惑ではない。それは魂への侵犯であり、存在の根幹を揺さぶる冒涜であり、抗いがたいほどに甘美な汚染だった。
「……やめて」声にならない囁きが漏れた。
「やめろ、と本気で言っているのかね?」メロビンジアンは、トリニティの瞳の奥に宿る、恐怖と好奇心の危うい共存を見抜いていた。「君がネオと交わす熱、肌と肌が触れ合う瞬間の電流、互いの存在が溶け合うかのような錯覚…それらと、このケーキがもたらす、理性の枷を打ち砕き、存在の深淵にまで届く絶対的な感覚の津波と、一体何が違う? どちらがより深く、君という存在を根こそぎ満たすと思うかね?」
彼の言葉は、鋭利な楔のようにトリニティの自己認識を打ち砕こうとする。ネオへの愛、それは彼女の全てのはずだ。だが、その愛を構成する身体的な渇望、触れられたい、一つになりたいという根源的な欲求は、このケーキが約束する、境界線なき快楽の暗い魅力と地続きなのではないか?
息詰まるような沈黙。トリニティの心臓が、肋骨の内側で激しく打ちつけている。メロビンジアンは、獲物の最後の抵抗が潰えるのを待つ捕食者のように、静かに彼女を見つめていた。
「一口でいい。舌の上で溶かすだけでいい」彼の声は、もはや囁きではなく、脳髄に直接響く命令のようだ。「君自身の身体が、魂が、この快楽の前にどのように崩れ落ちるのか、共に観察しようではないか」
抗えない衝動。それはもはや好奇心ではない。自己破壊への、暗い引力。あるいは、この男の言う通り、自分自身の最も深い場所にも、この禁断の味に呼応する闇が存在するのかもしれないという、絶望的な確信。
彼女は、まるで操り人形のように、震える指でフォークを握りしめた。指先は燃えるように熱いのに、背筋には冷たい汗が流れていた。ケーキにフォークを差し込む。それは熟れきった果肉のように柔らかく、濃厚でむせ返るような香りが、トリニティの理性を麻痺させた。
息を殺し、ほとんど無意識のうちに、フォークを唇へと運んだ。メロビンジアンの目が、爬虫類のように細められた。
舌に触れた瞬間、トリニティの意識は爆散した。それは味でも感覚でもない。存在の根幹を揺さぶる、甘美な暴力。脳髄を直接鷲掴みにされ、強制的に快楽の回路を開かれるような衝撃。全身の筋肉が弛緩し、腰が砕け、内側から込み上げるような熱い波が下腹部から全身へと広がっていく。呼吸は喘ぎとなり、視界は赤と黒の閃光で明滅した。思考は完全に停止し、自己の輪郭が溶け出し、ただただ押し寄せる快楽の奔流に身を委ねるしかない、絶対的な受動性。それは恐怖と恍惚が混じり合った、底なしの奈落へ落ちていくような感覚だった。ネオの顔も、ザイオンも、自由への戦いも、全てがこの圧倒的な「今」の前では意味をなさなかった。制御できない痙攣にも似た震えが、彼女の身体を支配していた。
「…………感じるかね?コードが君の存在を……書き換えていくのを」メロビンジアンの声が、快楽の霧の中から、悪魔の囁きのように響いた。
トリニティは、どれくらいの時間が経ったのか分からなかった。喘ぎながら、かろうじて目を開けると、世界が歪んで見えた。快楽の余燼が、まだ身体の深部で燻り、疼き、微かな痙攣を引き起こしている。だが、その焼け野原のような意識の片隅で、消し炭のような意志が、弱々しくも瞬いていた。
(違う……これは……私を壊すものだ)
この快楽は絶対的だ。抗う術はない。だが、それは外部から与えられた、魂のない侵食だ。ネオと分かち合う、痛みさえも愛おしいと思えるあの繋がり、互いの欠落を埋め合うような一体感とは、本質的に異次元のものだ。あれは築き上げるもの、これは破壊するもの。
彼女は、全身の力を振り絞り、震える手でフォークをテーブルに落とした。カラン、という乾いた音が、異常なほど大きく響いた。口の中に残る、濃厚で背徳的な甘さは、もはや快楽の残滓ではなく、魂に刻まれた汚点の味だった。
「……あなたの……勝ちかもしれないわね」声は掠れ、ほとんど息のようだった。だが、瞳には、地獄の淵から生還した者の、狂気にも似た光が宿っていた。「でも、私は……これを選ばない」
彼女はメロビンジアンを睨み据えた。その視線は、折れてはいない。「あなたがどれほど深く私を侵食しようと……私の選択までは奪えない」
メロビンジアンの表情から、全ての感情が消え、能面のような無表情が浮かんだ。彼はトリニティの言葉の意味を咀嚼するように数秒間黙考し、やがて微かに唇の端を上げた。それは嘲笑とも感嘆ともつかない、奇妙な表情だった。「……興味深い。実に興味深い反応だ。快楽という絶対的な力の前に、なお『選択』を主張するか。その非合理性、その矛盾こそが、人間という存在の…あるいは君という女の…核心なのかもしれんな」
トリニティは、壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。足元がおぼつかない。食べかけのケーキは、まるで彼女の魂の一部を抉り取ったかのように、テーブルの上で静かに、しかし不吉な存在感を放っていた。
「……これで、終わりにして」懇願するような響きが、彼女の声に混じった。
メロビンジアンは、ワイングラスに残った液体をゆっくりと飲み干した。「ああ、今日のショーは、な」彼は立ち上がり、トリニティのすぐそばまで歩み寄ると、彼女の耳元で囁いた。その声は冷たく、蛇のようだった。「だが、勘違いするなよ、マドモアゼル。この味は、もう君の一部だ。君の細胞が、君の神経が、君の魂の最も深い場所が、これを記憶した。それは消えない刻印だ。これから君がネオを抱く時、あるいは一人で闇の中にいる時、不意にこの感覚が蘇るだろう…そして君は、自分が本当に何を求めているのか、自問することになる」
トリニティは何も言えず、ただ彼を睨みつけることしかできなかった。そして、よろめきながらも背を向け、部屋を出た。城の廊下の冷気が、火照り、そして今は冷え切った肌を刺した。身体の奥底で、まだあの甘美で冒涜的なコードの残響が、疼き、蠢いているのを感じた。それはもはや単なる記憶ではない。彼女の中に植え付けられた、異物であり、毒であり、そして抗いがたい誘惑の種子。
彼女の胸の内には、ネオへの想いと自由への渇望が、以前よりもさらに切実に、しかし同時に、この新しい闇によって汚染されたかのように複雑な色合いを帯びて燃えていた。あのケーキの記憶は、彼女の存在に深く食い込み、おそらく生涯、彼女を内側から苛み続けるだろう。それに抗い続けること、その疼きと共に生き、それでもなお「自分」であり続けること。それが、彼女に課せられた新たな戦いであり、彼女が「リアル」であることの、あまりにも重い代償なのかもしれなかった。彼女が歩き去るその後ろ姿には、以前にはなかった深い影が、まとわりつくように落ちていた。
古城の一室。空気は濃密で、まるで呼吸するのを躊躇うかのように重く、深紅のベルベットは光を貪欲に吸い込み、室内を不道徳なまでの薄闇に閉ざしていた。トリニティは、黒曜石が汗をかいたかのように鈍く光るテーブルの前に、逃れられない運命のように座らされていた。皿の上には、完璧すぎて悪夢的なチョコレートケーキ。漆黒のグラサージュは粘性を帯びた光を放ち、添えられた深紅のベリーは熟れすぎた傷口のようだ。それは呪われた聖遺物のように蠱惑的で、視線だけで精神の鎧を剥ぎ取り、剥き出しの本能を直接焼くような、危険極まりない引力を放っていた。
対面の男、メロビンジアンは、猫のようにしなやかな動作で脚を組み替え、トリニティの魂の奥底まで見透かすような、冷たく愉悦に歪んだ視線を送っていた。指先がワイングラスの曲線的なふくらみを、まるで生きているもののように撫でている。「どうした、マドモアゼル。ただの0と1の虚構だ。だが君の肉体の奥底、最も渇いている場所が、これを求めて叫んでいるのが聞こえんかね?」
彼の声は、低く、湿り気を帯びた響き。それは鼓膜を震わせるだけでは終わらない。皮膚の下を這い、神経線維に直接触れ、脊髄をぞくりとさせるような、侵食的な親密さがあった。トリニティは革のコートの下で、内臓が冷たく収縮する感覚に耐えながら、かろうじて背筋を保っていた。ネオとモーフィアスは、この迷宮のような城で、別の形の拷問を受けているのかもしれない。分断され、試されている。この男は「原因と結果」の鎖を操り、生物としての最も原始的な衝動――生存本能、支配欲、そして理性を焼き切るほどの快楽への渇望――を弄び、その破綻を観察することに神にも似た悦びを見出すプログラムなのだから。
「あなたの歪んだ好奇心を満たすために、私はここにいるわけじゃない」トリニティの声は、鋼のように硬く響かせようとしたが、語尾が微かに掠れた。
「歪んでいる、かね? 私からすれば、快楽を拒絶する君たちの方がよほど歪んでいるように見えるが」メロビンジアンは喉の奥で、粘つくような笑い声を立てた。「これは好奇心ではない。実証だ。君という、あの『救世主』をも堕としかねない女が、このコード化された『原罪』の味にどう反応するか。このケーキはね、かつてマトリックスの深淵で狂気に触れたプログラムが、存在そのものを溶解させるほどの『絶対的な受容』を強制的に与えるために創り出したものだ。口にした者は、自我という檻から解き放たれ、快楽の奔流の中で形を失う」
彼は、毒蛇が獲物を狙うように、ゆっくりと銀のフォークを差し出した。その先端が、微かな光を反射して鋭く光る。「さあ、味わうがいい。君の信じる『意志』とやらが、この甘美な暴力の前で、どれほど無力か」
トリニティはフォークを睨みつけた。ザイオンの灰色の現実が、このケーキの放つ圧倒的な色彩と官能の前で、急速にリアリティを失っていく。これは単なる誘惑ではない。それは魂への侵犯であり、存在の根幹を揺さぶる冒涜であり、抗いがたいほどに甘美な汚染だった。
「……やめて」声にならない囁きが漏れた。
「やめろ、と本気で言っているのかね?」メロビンジアンは、トリニティの瞳の奥に宿る、恐怖と好奇心の危うい共存を見抜いていた。「君がネオと交わす熱、肌と肌が触れ合う瞬間の電流、互いの存在が溶け合うかのような錯覚…それらと、このケーキがもたらす、理性の枷を打ち砕き、存在の深淵にまで届く絶対的な感覚の津波と、一体何が違う? どちらがより深く、君という存在を根こそぎ満たすと思うかね?」
彼の言葉は、鋭利な楔のようにトリニティの自己認識を打ち砕こうとする。ネオへの愛、それは彼女の全てのはずだ。だが、その愛を構成する身体的な渇望、触れられたい、一つになりたいという根源的な欲求は、このケーキが約束する、境界線なき快楽の暗い魅力と地続きなのではないか?
息詰まるような沈黙。トリニティの心臓が、肋骨の内側で激しく打ちつけている。メロビンジアンは、獲物の最後の抵抗が潰えるのを待つ捕食者のように、静かに彼女を見つめていた。
「一口でいい。舌の上で溶かすだけでいい」彼の声は、もはや囁きではなく、脳髄に直接響く命令のようだ。「君自身の身体が、魂が、この快楽の前にどのように崩れ落ちるのか、共に観察しようではないか」
抗えない衝動。それはもはや好奇心ではない。自己破壊への、暗い引力。あるいは、この男の言う通り、自分自身の最も深い場所にも、この禁断の味に呼応する闇が存在するのかもしれないという、絶望的な確信。
彼女は、まるで操り人形のように、震える指でフォークを握りしめた。指先は燃えるように熱いのに、背筋には冷たい汗が流れていた。ケーキにフォークを差し込む。それは熟れきった果肉のように柔らかく、濃厚でむせ返るような香りが、トリニティの理性を麻痺させた。
息を殺し、ほとんど無意識のうちに、フォークを唇へと運んだ。メロビンジアンの目が、爬虫類のように細められた。
舌に触れた瞬間、トリニティの意識は爆散した。それは味でも感覚でもない。存在の根幹を揺さぶる、甘美な暴力。脳髄を直接鷲掴みにされ、強制的に快楽の回路を開かれるような衝撃。全身の筋肉が弛緩し、腰が砕け、内側から込み上げるような熱い波が下腹部から全身へと広がっていく。呼吸は喘ぎとなり、視界は赤と黒の閃光で明滅した。思考は完全に停止し、自己の輪郭が溶け出し、ただただ押し寄せる快楽の奔流に身を委ねるしかない、絶対的な受動性。それは恐怖と恍惚が混じり合った、底なしの奈落へ落ちていくような感覚だった。ネオの顔も、ザイオンも、自由への戦いも、全てがこの圧倒的な「今」の前では意味をなさなかった。制御できない痙攣にも似た震えが、彼女の身体を支配していた。
「…………感じるかね?コードが君の存在を……書き換えていくのを」メロビンジアンの声が、快楽の霧の中から、悪魔の囁きのように響いた。
トリニティは、どれくらいの時間が経ったのか分からなかった。喘ぎながら、かろうじて目を開けると、世界が歪んで見えた。快楽の余燼が、まだ身体の深部で燻り、疼き、微かな痙攣を引き起こしている。だが、その焼け野原のような意識の片隅で、消し炭のような意志が、弱々しくも瞬いていた。
(違う……これは……私を壊すものだ)
この快楽は絶対的だ。抗う術はない。だが、それは外部から与えられた、魂のない侵食だ。ネオと分かち合う、痛みさえも愛おしいと思えるあの繋がり、互いの欠落を埋め合うような一体感とは、本質的に異次元のものだ。あれは築き上げるもの、これは破壊するもの。
彼女は、全身の力を振り絞り、震える手でフォークをテーブルに落とした。カラン、という乾いた音が、異常なほど大きく響いた。口の中に残る、濃厚で背徳的な甘さは、もはや快楽の残滓ではなく、魂に刻まれた汚点の味だった。
「……あなたの……勝ちかもしれないわね」声は掠れ、ほとんど息のようだった。だが、瞳には、地獄の淵から生還した者の、狂気にも似た光が宿っていた。「でも、私は……これを選ばない」
彼女はメロビンジアンを睨み据えた。その視線は、折れてはいない。「あなたがどれほど深く私を侵食しようと……私の選択までは奪えない」
メロビンジアンの表情から、全ての感情が消え、能面のような無表情が浮かんだ。彼はトリニティの言葉の意味を咀嚼するように数秒間黙考し、やがて微かに唇の端を上げた。それは嘲笑とも感嘆ともつかない、奇妙な表情だった。「……興味深い。実に興味深い反応だ。快楽という絶対的な力の前に、なお『選択』を主張するか。その非合理性、その矛盾こそが、人間という存在の…あるいは君という女の…核心なのかもしれんな」
トリニティは、壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。足元がおぼつかない。食べかけのケーキは、まるで彼女の魂の一部を抉り取ったかのように、テーブルの上で静かに、しかし不吉な存在感を放っていた。
「……これで、終わりにして」懇願するような響きが、彼女の声に混じった。
メロビンジアンは、ワイングラスに残った液体をゆっくりと飲み干した。「ああ、今日のショーは、な」彼は立ち上がり、トリニティのすぐそばまで歩み寄ると、彼女の耳元で囁いた。その声は冷たく、蛇のようだった。「だが、勘違いするなよ、マドモアゼル。この味は、もう君の一部だ。君の細胞が、君の神経が、君の魂の最も深い場所が、これを記憶した。それは消えない刻印だ。これから君がネオを抱く時、あるいは一人で闇の中にいる時、不意にこの感覚が蘇るだろう…そして君は、自分が本当に何を求めているのか、自問することになる」
トリニティは何も言えず、ただ彼を睨みつけることしかできなかった。そして、よろめきながらも背を向け、部屋を出た。城の廊下の冷気が、火照り、そして今は冷え切った肌を刺した。身体の奥底で、まだあの甘美で冒涜的なコードの残響が、疼き、蠢いているのを感じた。それはもはや単なる記憶ではない。彼女の中に植え付けられた、異物であり、毒であり、そして抗いがたい誘惑の種子。
彼女の胸の内には、ネオへの想いと自由への渇望が、以前よりもさらに切実に、しかし同時に、この新しい闇によって汚染されたかのように複雑な色合いを帯びて燃えていた。あのケーキの記憶は、彼女の存在に深く食い込み、おそらく生涯、彼女を内側から苛み続けるだろう。それに抗い続けること、その疼きと共に生き、それでもなお「自分」であり続けること。それが、彼女に課せられた新たな戦いであり、彼女が「リアル」であることの、あまりにも重い代償なのかもしれなかった。彼女が歩き去るその後ろ姿には、以前にはなかった深い影が、まとわりつくように落ちていた。
そもそも体調が悪くて、今週平日のどこかで覚悟を決めて病院に行こうと決めたものの日曜にはどうにもできず落ち着かないので、せめて気を紛らわすために好きな紅茶屋で温かいお茶を飲もうと出かけていったらいつものウバのいい香りがしなくてあれっ、と思った。
半分飲んだらいつもたっぷりついてくるミルクを入れて飲むんだけど、そのお茶についてくるミルクがいつもの四分の一くらいの量でピッチャーが冷たくもなくて、まさか…と思って入れて飲んでみたら植物油脂のあれに変わっていた。
一緒についてくるハチミツも半分の量になっていて、この間様々な食品が一気に値上がりしたから仕方ないとはいえ、そのお店の最後までおいしく味の変化を感じられて飲み終わりにしっかり満足できるというウリの部分が全部なくなっていてがっかりしてしまった。
値上げをしていないのでこのあたりで努力したのだろうことはよくわかるのだけど、仮にも紅茶にこだわる専門店を標榜しているのだからせめてお知らせしてもらえるか50円100円でも値上げする方向で行って欲しかった…もちろんそれではだめなんだろうことはわかってるんだけど…値上がり本当に世知辛い。
通うお店が一つなくなってしまった。
帰ってきてやはり気を紛らわすためにポイント30倍の日に電子書籍を一冊か二冊買って読みながら眠ろうと思い紀伊國屋のweb書店で書籍を買うも、なぜか代金だけしっかり差し引かれて本棚や履歴、購入ポイントには全然反映されず泣く。ただお金払っただけ。
問い合わせはしてみてるけど、まさかこんなことになるなんて思わないから慌ててブラウザバックしてもwebmoneyの支払い完了ページしかスクショできず、どうなるかわからない。対応してもらえるといいけど…悲しい。
この2週間ほど種々様々な小さい悪いことばかりが大量に身に起こってそれがメインのでっかい悩みの輪郭にまとわりつく感じで悩みが一つになって塊に膨れ上がるようでなかなか削られる。
せめて病院で悪い結果がでませんようにと思う。
出ても仕方ないけどさ。
・翌日追記・
電子書籍の代金が無事返金されてよかった。
なんでそうなったかはわからないけど、迅速に対応してくれてほっとした。
次は病院だ。
こんなアホは今まで関わったことがなかった。
同僚:女•30代前半•営業職
✅同僚がアホだなと思う理由1「相手の話を理解してないのか受け答えがおかしいことが多い」
客先でたまたまついていたテレビでエアコンを付けずに熱中症で無くなる高齢者のニュースをやったときに客とこんな会話していた↓
客:うちの母には夏の間はずっとエアコンつけるように言っているの
同僚:その方がいいですよ、命には換えられないです
客:人間の感覚を信用しちゃダメ。私は物心ついたときから猫がいるのが当たり前の生活を送っていたんだけど
同僚:猫ですかーいいですね、何色ですか?
客:白とか三毛とか色々。それで、飼ってた猫が全員死んだら体調が急に良くなって
同僚:ええー、どうしてですか?
客:アレルギー
同僚:ああ、アレルギーですか…
客:猫がいたときは体調悪いなーとは全く思ってなかったし私は超健康体だと思ってたの。でも検査受けたらアレルギーって言われちゃって…ずっと家に猫がいたから体調が悪いのが当たり前になってたのかも。きっと熱中症で死んだ人も私みたいに自分は大丈夫って思ったと思うの。人間の感覚はアテにしちゃだめだよ。
同僚:好きなペットのアレルギーがあるのは辛いですね…、今はもう飼ってないんですか?
✅同僚がアホだなと思う理由2「何言ってるか分かりづらいことが多い」
同僚:A社って道が狭くて、しかもアレが多くない?この前緊張して運転してて曲がろうとしたら歩いている人に手を振られてなんだろうと思ったら一方通行だよって言われて慌てて直進したんだけど、ごめんなさいって、それでまた次曲がろうとしたところにもあってああああ!ってなったよ。
訳:A社の近くは道が狭いよね。その上一方通行も多くない?この前緊張しながらA社の近くを運転していて道を曲がろうとしたら、通行人に手を振られてなんだろうと思ったら、通行人から一方通行だよって言われてごめんなさいと言いながら慌てて直進した。その後また曲がろうとしたらそこも一方通行で曲がれなくて戸惑ったよ。
同僚が知らなかったこと↓
ナイジェリアはアルジェリアに対して生まれたジョーク国家ではなくちゃんと実在する国家であること
フリクションの反対側についてるのは消しゴムではなくただゴムであり、シャープペンや普通のボールペンで書かれた文字はフリクションのゴムで擦っても消えないこと
普通は知ってるよな?ってことが抜け落ちてる
他にも色々あったけど省略
✅同僚がアホだなと思う理由3「なにかを達成するまでの道筋をイメージできないことが多い」
10日かかると伝えてある仕事をクオリティを落とさずに5日でやってくださいと頼んでくる。
周りに早めにやれと言われたことを後回しにし続けて締切間際になって泣く。
比喩じゃなくて本当に泣いてる
✅同僚がアホだなと思う理由4「やるなと言われたことが理解できないのか禁止されたことをやり続ける」
書くのに飽きてきたから具体例は省略
✅同僚がアホだなと思う理由5「私との会話が全然弾んでないのになぜか私と仲良しだと思っている」
同僚のせいで忙しいのにわざわざ別の部屋にいる部署の違う私にどうでもいい近況を報告してくる。
エクセルの使い方を聞くな。
そもそも全体的に何言っているか分からないし、同僚も私が言っていることも理解してないっぽいのになぜ私に率先して話しかけてくる?
小学生の頃アレな子のお世話係をさせられたんだけど、引き寄せる何かがあるのかな、あるんだろうな
本来はする必要がない仕事をさせられるせいで評価が下がった。月2万円あったインセンティブが無くなった。
え、これ面白かったわ
はてなで「読めなかった」みたいな投稿を見かけて興味持って読んでみたけど
確かに明確なストーリーラインはない漫画だったけど、こういう「雰囲気〇〇」な作品ってたくさんあるしね
会話の全てが、良く知っている間がら同士で滑らかに行われる日常会話というカジュアルさを持ちつつ、
重苦しく、不穏で、不条理、少しずつ心が死んでいくようなまとわりつく黒い湿度があって、自分は刺さらないタイプだからひたすら感心した
最初に登場したときには「仕事の同僚、なんか堅気じゃなさそう」な二人組が、実は闇バイトの中間管理職的な立ち位置ということがわかると同時に彼らが死を迎えてる構成が、
明確なストーリーがない中編を引き締めてて、有名作家になればこんなの思いつけるのかあるいはぶっこめる勇気が持てるのかと思った
キャラが立ってるけど、その立たせ具合が深入りしすぎないのも中編にちょうど良い感じ
もっと正確に言うと、人権派と陰謀論者の中間、あるいは地域の名物おじさんみたいなものだった。
この家に育って何が起きたか。
それは認めるし、親としては感謝している。
だが、私はこの家に育って、世間とまったく感性が通じないというか、後天的なコミュ障のような人間になった。
少し前に、発達障害者の人たちが「健常者エミュレーター」という概念を紹介していたが、それを見た時、私は膝を打った。
また、統一協会やエホバの証人の二世問題について知った時、私はこれに近いんじゃないかと思った。
自分が世間から見て「おかしい」ことはわかっている。だが、私に植え付けられた何かが、「いや世間なんて」と茶々を入れ続ける。
私の両親は、あらゆる凶悪事件がまるで発生していないか、あるいはまるで被疑者が英雄みたいに私に話すのだった。
大きな例を挙げると、神戸の連続殺傷事件(酒鬼薔薇)について、両親は冤罪説、つまり少年Aは犯人ではないということをしきりに唱えていて、まだ小さかった私にも、「これは嘘なんだよ」「警察はしっかり調べていないんだよ」と吹き込んだ。
私の父は予備校の会報か講師たちの同人誌か、そういう冊子に、そのことをずっと書いていた。そしてそれを小学生の私に読ませた。
食卓で悲惨なニュースを見ながら、「〇〇ちゃんは、人の心について考えられる人間になってね」と、両親は笑顔で私に話しかけるのだった。だが、「人の心について考えられる」というのは、イコール、死刑廃止活動やあらゆる有名な事件にまとわりつく陰謀論に近い冤罪説を信じろ、ということだった。
母は、左翼の地方議員の勝手連みたいなことをやっていて、時々家が集会場所となった。学校から帰ると、おばあさんとかおばさんが五人くらい集まっていて、きついコロンの香りを漂わせていた。
別に悪い人たちではない。本当なら、私よりもずっと世間に貢献している人なのだろう。お菓子やお土産とかもいっぱいもらった。だが、結局のところ、ある宗教の座談会の人権版が家で行われているのと変わらない。そしてこの集まりから何か発展的なことが生まれたようにも見えない。
こういう家に育って、私は中学生のころまで、いわゆる純粋培養で育った。親の言うことが全てという世界で。
極端に聞こえるかもしれないが、世間のあらゆる犯罪は、冤罪であるか、犯人の非ではない何かの理由があって発生した者であり、警察と政府は悪。端的にそう言う世界だった。
ネット上には、死刑廃止運動に絡めて、ある左翼の議員が、「殺されてしまった人よりは、生きている犯人の人権の方が大切なのだから」と発言した、という情報がある。実際はその議員はそんな発言をしていないらしいのだが。
私が初めて、ちょっとした疑問を覚えたのは、小学校高学年の時だった。
それまで放課後開けていた小学校の校門や校庭を、これからは明確に管理しようという話が、小学校で出たらしい。
しかし、私の両親、特に母親が待ったをかけた。というより、その現場に居合わせた。
母親はその情報を知るや否や、私もつれて、なんと校長に面談を申し入れた。
私は校長室の革椅子に座って、横で母親が延々と「開かれた学校という理念はどうしているのか」「治安というのはつまり何を基準に申しているのか」と校長にまくし立てていたのを覚えている。
なぜ私がそこに連れていかれる必要があったのか、そして半分笑顔でねちねちと喋り続ける母の姿は、子供ながらに、不安だった。その時はそういう言葉を知らなかったが、今考えると、敬語を使うだけのモンスターペアレントではないか、と思う。
そして自分が世間と徐々に乖離していると気づいたのは、中学校に上がってからだった。
両親。家の食卓で両親がわざわざ解説してくれるニュース。両親が取ってる新聞。送られてくる雑誌。友達。漫画。それだけが全てだった私に、携帯電話が買い与えられた。
両親は万能ではなかったし、全てではなかった。むしろ、ピエロの様な、少数者だった。
だが私はそれを知っても、どう処理すればよいかわからなかった。
「いい?憲法にはこう書いてある」と両親は時々言っていた。多分、世間一般の人々より、両親は「知的階級」だ。良いことを言っている。正しいことをしている。多分。恐らく。
だが、世間はそう動いていない。そう育てられた私に対しても。
そこで、当時話題になっていた、ある凶悪犯罪を揶揄するネタを余興としてやる男性がいた。
私は、今考えると、自分でもわからないのだが、「そういうのはやめた方が良いよ。まだ犯人だって決まったわけじゃない」と真顔で伝えた。
場はしらけ、そして私は飲み会に呼ばれなくなった。
SNSなら、これはリベラル的な武勇伝となるのだろう。だが私は、はっきり言って、普通に、なりたかった。
人権は、そしてそれを擁護する存在は重要だろう。犯罪だとか治安だとかに対して、「疑う」ことは重要だろう。だが、それは、宗教と同じく、大人になってから自分で学ぶべきことだったのではないか。
Permalink |記事への反応(33) | 21:59
一般家庭ってのは特に大金持ちとかではないって意味だった。わかりにくくてごめん。すげーぐちゃぐちゃな文章。
冬はいかんね。手が冷たいから触るなって手を振り解かれたこととか、寒いからお父様お母様と手を繋ぎましょうね〜って弟と手を繋ぐ両親の後ろ姿とかを思い出してしまう。
小学生の頃、自転車で行ける距離のところに児童養護施設があった。自分はそのすぐ隣、というかその敷地内にある建物で、こども工作だかなんだか忘れたけど、紙とか粘土とか木の板とかを使って色々作る夏休み限定の教室に通っていた。
ある時、親戚が来るとかなんかで親が車で送迎してくれた。粘土で鳥を作ったあと、後片付けをして、親が来るのを待っていた。車の音がして、向こうから母親が歩いてくるのが見えて、来た来た、と駆け寄ろうとしたら、間に知らない子供が割り入ってきた。
お母さん、お母さんでしょう、お母さんだよね、俺のお母さんだよね。みたいなことをずっと話しながら、まとわりつく男の子。年は自分より下だったと思う。小さくて、痩せてた。
お察しの通り、隣の施設から脱走した子供だった。あっという間におじさんの職員に抱え上げられて、回収されていた。その間もあの子は聞き取れない声でわぁわぁ騒いでいた。おじさんは母親に何か言って、ぺこぺこ頭を下げたあと、施設の入り口があるフェンスの向こうに行ってしまった。
自分はその間、何も動けなかった。ここは親のいない子供が行くところだと小学生の間でも有名だったけど、本当だったのか。という驚きもあった。それ以上に、自分の母親が「お母さん」と呼ばれて満更でもなさそうだったのが驚いた。
自分は、両親のことを「お父様」「お母様」と呼ばなければいけなかった。そう呼ばなければ(特に母は)不機嫌になった。
お母さんとかママとか、どこのお母さんかママなのかわかんないでしょ。お母様って呼んだら、すぐにわかるんだから。と、言い聞かされていた。お母さん、と呼んでみても、ん〜?それって誰のことかな〜?わかんないな〜??と惚けられて無視された。言っておくと、別にごく普通の一般家庭だ。
そんな人が、知らないよその子から「お母さん」と呼ばれて、「お母様」でしょうが!と怒鳴ることも無視することもなく、満更でもなさそうにニヤニヤしていたのが、ものすごく気分が悪くなった。
車の中で、可哀想にねぇあの子、私はお母様なんだから。それにしても、あなたもあの施設に行くことにならないと良いね?と、笑う母が怖かった。
結局数年後自分も違う養護施設に預けられることになって、私はいまだに家族との関わり方がよくわからない。
実家に立ち寄った時、あの時作った鳥の置き物が玄関に置かれているのを見ると思い出す。
Permalink |記事への反応(12) | 17:32
天国とか地獄とか強く信じてた事はないけど、うっすらと怖えーなと思ってた時期もあったような気はする。
四六時中死にてぇ〜〜〜って気持ちがまとわりつくようになってからは、天も何もなく「無」なんだろうなってかなり強く思うようになった。気がする。願望も混じってるのかもしれない。
願望で言ったら異世界転生して、生活シーンはカットされて心が動く瞬間だけを永遠に過ごし続ける物語の世界に行きたいんだけど。
意識の連続性とかそういうのも興味は薄れた。死んだらそこで終わり。それ以上の事は何も思わなくなった。宇宙の端っこについては未だに疑問に思ってる。あると言われても無いと言われてもおれの認識ではバグる。
無に帰すのが怖いとか、意識の断絶が恐ろしいとか、いつか誰からも忘れられてこの世にいなかったかのような存在になるのが怖いとかも、もうとっくに思わなくなった。でもそういうの考えてた時期は逆説的に生きるという事を考える時期でもあった。
死への原初の恐怖だった「死ぬ時の身体的苦痛」が一周回って一番怖くなった。
別に楽しく生きてたってこれは変わらんのかな。
それとも悪いことして地獄行ったらやだねぇとか、やっぱうっすらとは思ったりすんのかな。
生きる実感とか情熱とかそういうのを求める気持ちって、実際にそれを手にするか追い求めてるか、そうでなきゃ蓋でもしない限り一生まとわりつくんだろうなって思う。10代だろうがそこをとっくに過ぎようが。
でもそれときちんと向き合えるバイタリティある人間って実はそんなにいないのかもしれない。働き始めでもしたタイミングで、余裕のない中で自然と忘れてしまうもんなのかもしれない。そうやって曖昧に忘れていると、少し余裕が出てきた頃にまたぶり返してしまうのかもしれない。それこそが中年の危機というやつなんだろうなって思った。こんな言葉が存在するくらいにはそういう連中も珍しくないんだろう。
その歳になって初めてそんな悩みを抱えるなんて、それまで何考えて生きてたんだ?そういう事抜かす奴は?って今まで思ってたけど。
自己実現とかそういう話題を「そんな思春期じみたナイーブな悩み!」とか強く毛嫌いする奴に限って、案外同族嫌悪なのかもしれないなって思った。