――そんな事件は、笑い話で済ませてよい問題ではない。ここには、日本語の読解力が静かに、しかし確実に落ちている現状が象徴的に表れている。
本来「大盛り無料」とは、通常料金で量を増やせるという意味であり、「支払いが不要」という意味ではない。文脈や慣用表現を理解できれば、誤解の余地はほとんどないはずだ。それにもかかわらず、言葉を自分に都合よく切り取り、字面だけで判断してしまう人が増えている。
背景には、短文・即断に慣れすぎた情報環境がある。SNSや見出し文化は、前後関係を読む力を削ぎ、丁寧に意味を咀嚼する習慣を奪った。「読めているつもり」で、実は理解していない。このズレが、トラブルや不信、時には法的問題へと発展する。
読解力の低下は、個人の問題にとどまらない。契約書、注意書き、行政文書を正しく読めなければ、社会は成り立たない。誤読を「勘違い」で済ませ、責任を外部に押し付ける風潮は、信頼の基盤を蝕む。
必要なのは、難解な言葉を増やすことではない。前後を読む、常識的な意味を確認する、分からなければ尋ねる――その当たり前を取り戻すことだ。「大盛り無料」の一件は、私たちに日本語を読む力を、もう一度真剣に鍛え直せと警鐘を鳴らしている。