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2025-12-13

https://www.asahi.com/articles/ASP165JQSNDYONFB009.html

あこぎな男は悪人か、孝行者か 語源海岸に2つの物語

2021年1月14日 15時00分

 病気母親を持つ漁師の平治は「病気には阿漕浦で捕れるヤガラという魚がよい」と聞く。病で日に日に衰弱していく母親を前に、平治は決心を固め、禁漁区である阿漕浦に夜な夜な舟をこぎ出す。ヤガラを食べさせたことで母親の体調は少しずつ回復するが、浜に「平治」と書かれたすげ笠を置き忘れたことで、密漁が露見する。

 捕らわれた平治はす巻きにされ、阿漕浦の沖に沈められる。その後、夜になると阿漕から泣き声や網を打つ音が聞こえ、その音を聞いた者は病気になった――。

 地元住民でつくる「阿漕平治保存会」は毎年、平治の孝をたたえ、その霊を慰めるため、平治が処罰されたと伝わる8月16日夜、阿漕塚で供養を捧げてきた。

 この平治伝説江戸中期以降、浄瑠璃などで演じられ全国に流布した。ただ、この話からは、悪い意味で使われる「あこぎ」の意味合いは伝わってこない。

写真・図版

ヨットハーバーから望む阿漕海岸。穏やかな海を朝日が照らした=2020年11月10日午前9時30分、津市柳山津興、佐々木洋輔撮影

 一方、室町時代に作られた謡曲(能)「阿漕」の筋はかなり違う。

 伊勢神宮へ参拝に向かう旅人が、阿漕浦で老人に出会う。老人は阿漕浦の名の由来について、昔、阿漕という名の漁師(平治という名前は出てこない)が、ここで密漁して見つかり、海に沈められた。阿漕はいまも海の底地獄で責め苦を負わされ、さらに「阿漕阿漕」と言われ、悪名を残したと言う。さて、日も暮れた。網を引きに戻ろうと言い、老人は消える。

 旅人はぴんとくる。この老人こそが阿漕の亡霊ではないか旅人の前に現れた亡霊は火に焼かれ、鬼の地獄の責め苦を受けながらも、何度も何度も漁をしようとする。

 平治伝説とは違い、こちらはホラーだ。なぜ、二つの物語存在するのか。

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