漫画・ワンピースはずっと一貫して「構造そのものを疑え」という話をし続けているんだと思う。
世界政府は秩序のためだと言いながら、横暴な最高権力者集団の天竜人を守り、歴史を隠し、気に入らないものは海軍がバスターコールで消す。それを全部「正義」と呼んでしまう。これは現実の国家が「法の名のもとに暴力を正当化する」構図を批判している。
海賊は制度的に「悪」と決めつけられているけど、実際は住民を守ったり、奴隷を解放したり、抑圧に抵抗している側だったりもする。その時点でもう、善悪ってシンプルなものでは無くなっている。
魚人差別もかなり直球で、肌の違いを理由に奴隷にされ、暴力と制度で身分を固定されてきた歴史は、どう見ても現実の人種差別の比喩だし、「太陽のタトゥー」が焼き印を塗り替えるシンボルになるのも、「奪われたものを自分たちの誇りとして取り返す」っていう政治的な意味そのものだし。
ドレスローザでは、支配者が人々の「記憶」まで弄って抵抗できなくするし、ワノ国では労働と資源と物流を握って、武器工場に人を縛りつける。どれも単なる悪役じゃなくて、「階級と搾取の構造」をそのまま物語に落とし込んでいる感じがする。
象徴的なのは「空白の100年」の設定。世界政府が一番恐れているのが、武力でも思想でもなく「過去の記録」そのものだというのがもうすごく象徴的で、ロビンが歴史を読むって行為そのものが、「支配されないためには記憶にアクセスできなきゃいけない」というメッセージになっている。ポーネグリフは、権力に奪われた過去そのもので、学問とか言論の自由の象徴でもある。
革命軍が出てくる意味も、悪の親玉を倒すためじゃなくて、世界の仕組みそのものを変えるため。敵は海軍じゃなく、世界体制そのもの。ルフィが個人として自由を求める存在なら、父親のドラゴンは社会の構造ごと自由にしようとする存在で、この親子の違いがそのまま「自由にはミクロとマクロの両方がある」ってことを示している感がある。
おもしろいのは、作者がインタビューとかで、一切そういった表現の意図について話していないところ。これだけ明確かつ繰り返し色んなかたちで描かれる以上、確実に作者は意図して描いているんだけど、それを説明しようとしていない。おそらく、それを話してしまうと、漫画が説教くさく見られてしまうこと、陳腐に見えてしまうことが分かっているんだろうな。