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2025-11-23

細田守は『ハムレット』を一行も読んでいない。

『果てしなきスカーレット』を観た。

細田守云々を抜きにしても激クソにつまらない映画であり、業界人がかろうじて擁護している映像美的な部分も近年の人気作品指輪とゲースロとマッドマックスアナ雪とエルデンリング)の寄せ集めでしかなく陳腐まりなかったのだが、それは俺個人の感想で、別に他人が褒めようが貶そうがどうでもよい。はっきりいって細田守と見れば何でも叩こうとする今のネット環境のほうが異常だ。むしろ、今細田作品擁護しようとするほうが勇気ある人間だと言っていいだろう。

そう思い、SNSでは感想を控えてきた。


が、そのSNSで見てしまったのである

「『果てしなきスカーレット』がわからないやつはシェイクスピアという古典がわからないやつだ」とほざいているスカ褒めポストを。



はあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????????????



おまえ、『ハムレット』観たことある? 誰の訳でもいいから、読んだことある??????

筋とかキャラクター、知ってる?????


もし知ってたら、「『果てしなきスカーレット』を理解できないやつは『ハムレット』を知らない」なんて、口が裂けてもいえねえぞ。


『果てしなきスカーレット』を『ハムレットベース物語として観た場合基本的には「『ハムレット』を読んだことのない人間イメージで作った」という結論に至るのが自然だ。


前提として、ある古典を、それも何百年も前の物語に則って何かを作ろうとする場合原典より、より濃く、深く、複雑に作ろうとするだろう。最低でも、原典の味をそのままにしておこうと考えるはずだ。

それをあろうことか、細田守は鍋に大量の水をぶちこんで薄めてしまった。

たとえば、敵役たるクローディアス。『スカーレット』でも『ハムレット』でも主人公が付け狙う憎き叔父だ。

スカーレットの終盤(ネタバレ?知るか)、クローディアスは後悔をにじませながら天上の存在祈りを捧げる。

始めは俺も「おや」と思った。

というのもこれは『ハムレット』にもあるシーンだからだ。クローディアスが前王殺害懺悔する(しているように見える)場面。

それまでシンプルな悪役だった『スカーレット』のクローディアスにも事情があって、実は複雑なキャラクターの持ち主だった……とひねるのは、展開的にも今の世界を描くというテーマ的にも効果的ではないかもしかして、多少は脚本がうまくなったのか、細田守


だが、その期待は十秒後に裏切られるクローディアスの懺悔は偽の懺悔だったのだ。彼はどこまでも単純な悪でしかなかった。


この調子で、一事が万事原典キャラクターたちが改悪されていく。

ローゼンクランツとギルデンスターンは多少しょうがないとはいえ母親のガートルードはひどい。『スカーレット』ではマクベス夫人的な要素を持った「悪女」として描かれるが、その背景となる物語動機ほとんど描かれないので、ただの淫奔な毒親しか見えない。『ハムレット』では、わけのわからん息子と現在の夫とのあいだで板挟みになって苦しむかわいそうな人だったのに。

しかし、一番かわいそうなのはレアティーズだろう。ハムレット恋人オフィーリアの兄にしてハムレットの良き友人。しかし、ハムレットが原因でオフィーリアが死んでしまたこから仲違いし、最終的には殺し合うことになるという、ハムレットもっとも激アツなキャラのひとりだ。

このレアティーズが『スカーレット』では「クローディアス率いる悪の組織幹部C」くらいのポジションになり、特に深堀りも見せ場もないまま、小悪党として惨めに退場していく。

ハムレット』を一行でも読んだことある人間なら、まずこんな扱いは思いつかないはずだ。


とはいえ細田守が『ハムレット』を読んでいないとは思わない。タイトル釣りだ。

読んでいる証拠は、両作にとって重要なくだりである「父王の亡霊が語りかけるシーン」にある。

ハムレット』では冒頭に死んだ父王が現れ、ハムレットに「復讐せよ」と語りかける。これがそもそも悲劇の始まりなのだが、『スカーレット』では父王の亡霊を逆にラストに置き、「復讐」や憎悪とは正反対優しい言葉をかけてスカーレット復讐呪縛から解き放つ。つまり、父の言葉が『ハムレット』では呪縛、『スカーレット』では解放になるわけだ。

巧い反転だとは思う。そもそも物語と話運びがカスでなかったならば。

ハムレット』にはこういう嘆きがある。「この世の関節が外れてしまった」。弟が兄を殺し、その妻を奪い、正統な後継者である兄の息子から王位簒奪する。狂った世界である。こういう狂った世界を正すには自分が狂うしかない、というのは『ハムレット』のひとつの読みだ。

スカーレット』で描かれる現代世界鏡像としての作品世界も「関節が外れてしまった」世界といえる。だから、『ハムレット』をベースにするのはある意味で正解ではあった。だが、狂い方に失敗してしまった。狂えなかったのだ。だって細田守って世界とかたぶんどうなっていいって思ってる人だもん。常に「個人」と「自分」を描いてきたことは、これまでの作品証明している。

ファンの中には「これまでの得意分野を捨てて新しい領域に挑戦したこと評価すべき」との声もあるが、ファンタジーも古典もなめくさった扱いしかできないのに、なにを評価しろというのだろう? 人には向き不向き、そして心を込められるかどうかがある。

『竜とそばかすの姫』は駄作だったかもしれないが、少なくとも細田守の魂が幾分かは込もっていた。だが、『スカーレット』は? これこそ、虚無以外の何物でもない。


おそらく、『ハムレット』の「生きるべきか死ぬべきか」という名台詞に「生きること」という作品テーマ見出したのだろう。別に間違っているとまではいわないが、安易にすぎる。全体的に、安易にすぎるのだ。序盤で、坊主頭の聖を始めてみたスカーレットが「僧侶か? なら寺に行け!」というセリフがある。素でよくわからないギャグだろう。これは『ハムレット』でハムレットオフィーリアにかける「尼寺へ行け!」という有名なセリフオマージュだ。

なるほど。だから

からない。俺にはなぜここで「尼寺へ行け!」の引用が出てくるのかまったく説明できない。意味脈絡もない。

スカーレット』の問題は、『ハムレット』にかぎらずあらゆる要素がすべてそのような安易さの織物で出来ていることだ。どこかで聞いたようなセリフ、どこかで見たような展開。すべてが軽い。


からSNSの民よ。

俺の前のもう二度と「古典がわからないやつは『スカーレット』がわからない」などと言ってくれるな。お前も『バケモノの子』で『白鯨』がどんな扱いされてたか、観ただろ? ああいうやつだぞ? 細田守っていうのは。お前たちはどうせ『スカーレット』を映画館で一度っきりしか観ないのだろう。SNSマウントを取る目的で観て、明日にはもうきれいさっぱり忘れるのだろう。

だが、俺は今日も観る。初日と土曜で一回ずつ観て、また今日も観る。なぜって?


細田守ファンからだ。

Permalink |記事への反応(19) | 04:14

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記事への反応 -
  • 人には向き不向き、そして心を込められるかどうかがある。

  • お前邦画界を敵に回したな

  • ワイはシェークスピアはどれも読んだことないし映画館も行くことないやで…😟

  • この増田自身が実はバケモノの子だろ

  • 岡田斗司夫が言うように、細田は監督業だけに専念すべき

    • 演出に専念しろ、じゃなかったか 脚本は、構想プロットだけ示して奥寺に書いてもらえば良かったのにな・・・

  • 戯曲なんだから読むんじゃなくて見ろ!(そういうことではない)

  • 細田守はオマージュ元の解釈や読み込みが浅いのではなく、本人の中で何かが欠けていて何度読んでもどうしても芯となる部分を理解ができないからいつもああなっちゃうのではないか...

    • 🐟️「おまえら、エラそうだな」

    • お前は細田の何なんだよ

      • 🦁おまえそれマイケル・ジャクソン本たくさん書いてる西寺郷太のまえでもいえんの?

    • riceratoppo 細田守も大概やけど、新海誠も大概やと思う。「君の名は」がなぜか大ヒットしてしまったが故に、名監督扱いされてしまっているけど、結局は運なんだよな。 おいおい、新...

      • 君の名は以降の三作品脚本も良いよ 2000年以降のオリジナル劇場アニメであの面白さを提供できてる作品いくつあるかって考えたら…

    • なんとなくわかる あと細田は女キャラ出さないほうがいいもん作れると思う

  • To be or not to be, that is the question. はさすがに知ってるんじゃない?いくら何でも

  • タイトルで吊って、最後に何度も見るファンで誹謗中傷ではないと抗弁するつもりだろうけど、 これ、明確に誹謗中傷するつもりでファンじゃない奴が書いてるでしょ

  • 細田守はアリスSOSのOPが一番好き

  • 映画とか小説見渡せば原典を浅く切り貼りした名作は多いわけで、原典深くとか言ってんのは衒学趣味の知識マウントでしか無いだろ

    • 「わかってる」といった阿呆に「わかってねーよ馬鹿」といっただけだろ

  • &gt;坊主頭の聖を始めてみたスカーレットが「僧侶か? なら寺に行け!」というセリフがある。 この時代の僧侶の髪型ってトンスラじゃないの?坊主頭=僧侶って日本人の感覚だね。

  • 終幕のどんでん返しにしろ、考えてみりゃ叔父一味が来てるって事は死んでる訳なんでそもそも延々とやってた復讐云々の話は無意味だし、生き返ったら毒ワイン誤飲して臣下諸共全滅...

  • 女体化ハムレットと令和日本の男看護師のボーイミーツガールやりたいための舞台でしかないとはいえ 国も時代も関係ない死者の国なんてもの出すならもっとカオスにしないと説得力な...

  • 細田は200%の本気を出して一切包み隠さずケモショタかケモナー映画を作った方がいい 特に海外はケモナーが大量にいるから、日本でヒットしなくても世界で興行収入を稼げる 大勢に向...

  • ベーダーの興行収入速報@mtt_75058 【「#果てしなきスカーレット」低調スタート】 「果てしなきスカーレット」は週末推定2億円で初登場3位スタート。 これは「竜とそばかすの姫」の対比...

  • ハムレット知らない奴が~とか御大層な批評してるやつは、 ・死者の国にクローディアスがいる事に疑問を抱かないスカーレット ・あまりにも頭お花畑な聖 ・あらゆる時代の人間がい...

    • 古典の引用とか名作のオマージュに気づくと その比較に脳のキャパ奪われて作品が実際面白かったかどうか判別できなくなるバカっているよな 気づいた俺スゲーになって作品を肯定した...

    • 過去未来地域関係ないなら世界大戦で死んだ兵士が銃持ってきて16世紀のチャンバラ騎士なんてすぐに制圧されるんじゃないの?って

    • これはハムレット知らないと楽しめないねぇ(ニチャア)って教養マウント取ってた人がスカーレットに違和感抱かない教養不足を露呈しててわろた

    • スカーレットの主観世界に聖が迷い込んだだけ それくらい読み取れよ、おまえ宗教劇はじめてか?

  • ・中世デンマークの王女が、父親の王様をその弟(王女の叔父)に殺され王位を簒奪される。 ・王女は新王を毒殺しようとするが、逆に自分も毒を盛られて死ぬ。 ・死んだ王女が行った先...

  • https://note.com/charm_viola6115/n/n904376361c9e この解説読んで映画みたくなった

    • 映画見た上でそれ読んだけど「スカーレットには8人分の役割が与えられている多層的な存在なんだ!」って擁護は「人物描写がめちゃくちゃなんだよ」って批判を擁護し得ないよなって...

      • 8"人"分の役割じゃーなくない? 主役2人でオフィリア役やイエス役を分担しあってるとしたら0.5+0.5=1人分じゃんか 宗教絵画みてーな感じなのかー むずかしすぎて大衆ウケしないのホソ...

      • ばーさんが何度も言ってただろ 「生者と死者、時が混じり合ってる」て

    • どうも観た限り、ハムレットの要素を反転させているのはあってるなあ 龍は人間の争いや憎しみの感情に裁きを下してるっぽいのまでは読み取れたので、クローディアスが裁かれたのは...

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