昨日までの俺は、どこにでもいる普通の高校生だった。授業中に眠くなって、放課後は友達とくだらない話をして、家に帰ってスマホをいじって。そんな当たり前の毎日が、いきなり壊れた。
放課後、知らない男たちに追われた。逃げても逃げても、どこか現実離れした速さで迫ってくる。角を曲がった瞬間、空気が歪んだように感じた。次の瞬間、目の前に現れたのは奇妙な紋章を持つ女だった。彼女は俺に言った。「あなたは、異界を救った勇者の生まれ変わりです」と。
最初は冗談だと思った。だけど、あの追手たちが人間じゃなかったと気づいた時、笑えなくなった。闇の中で光る赤い瞳。伸びる影。俺の名前を呪いのように呼ぶ声。あれは間違いなく、悪魔だった。
あれから眠れない夜が続いている。部屋の外で何かが動く気配がしても、もう驚かない。いつ襲われてもおかしくないことを、体が理解してしまった。けれど、怖いだけでは終われない。あの女が言っていた。「あなたが向こうに行かなければ、こことあちらの両方が滅びます」と。
俺はまだ信じきれていない。でも、逃げてばかりでは何も変わらないことも分かっている。普通の生活を守るために、普通ではいられなくなった。
異次元の世界へ行くことを決めた。そこがどんな場所かもわからない。誰が味方で、誰が敵なのかも。けれど、このまま怯えて過ごすより、戦って確かめたい。自分が本当に「勇者」なのか、それともただの高校生なのかを。
明日の朝、あの女が迎えに来るらしい。教室にも、家にも、もう戻れない気がする。だけど、不思議と後悔はない。怖いけれど、心の奥で何かが静かに燃えている。
たぶん俺は、もう一度、あの世界を救わなきゃいけないんだ。