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2025-09-29

15歳の時、母から私たちは血がつながっていない」と打ち明けられた

まあ、そうだろうなと思った。

しろ父親とは血がつながっているというのが意外でもあった。

僕の顔立ちと体格は完全に西欧人のそれだからだ。

さなから、遠い先祖外国人がいて、その影響がたまたま強く出たと教えられてきたけど、どうにも納得できなかった。

本当のところは父親の前妻が外国人で、僕はそのハーフだったらしい。

その年、父が死んだ。

四十九日も終わったころ、母が

あなたと私は血がつながっていない。嫌ならこの家を出て、自分の好きな場所暮らしていい。お父さんが残してくれたお金で、生活には困らないはず」

と言ってきた。

でもちゃんと、「もちろんあなたのことは愛している」と、付け加えていた。

正直、けっこうこたえた。

もしかして僕のこと、嫌いだったのかなと少しだけ思った。

でも、その言葉とセットで「東京に行こう」と即決していた自分がいた。

もともと、東京学校に進学したいという気持ちはあった。

中学時代、ふとしたきっかけで吹奏楽を始めて、異常に音楽の適性があったみたいで、顧問先生が「君には特別な才能があるかもしれない。知り合いの先生を紹介してあげるから東京に進学してみたら」と勧めてくれた。

でも、うちにはそんな金がない。

学費もそうだが、一人暮らしなんて夢のまた夢だった。

ずっと音楽を続けたいとは思っていたけど、現実的じゃなかった。

そんなとき、母の「血がつながっていない。嫌なら出ていっていい」という台詞

なんだか心臓の奥を殴られたような気がしたけど、同時に妙に納得して、「じゃあ東京行くか」とほとんど条件反射で決めていた。

それから音楽に打ち込んで、卒業した後もなんだかんだでずっと音楽に関わって生きてきた。

気がつくと、当時の自分には想像もつかなかった形で、今も音楽世界一角で何不自由なく食えている。

それも、あのとき決断のおかげなんだろうなと思っている。

先日、母が亡くなった。

考えてみれば、母の愛情を疑ったのはあのときだけだった。

東京に出たあと、何かあるたびに世話を焼いてくれて、誕生日に贈り物が届いたり、季節の果物が突如として宅配便で送りつけられてきたり。

それは、多分、「実の母」のそれだった。

後になって気づいた。

あの告白も、「お前はここにいてもいいし、出て行ってもいいんだよ」という、母なりの背中の押し方だったんだろう。

僕ならきっと、母と、当時2歳だった弟のために地元に残るだろう、と見抜かれていたのかもしれない。

から、そういう予定調和みたいなものをぶち壊して、ちゃん自分の道を選びなさいと、あえて突き放したんだろう。

弟とふたり遺品整理をしていたら、財産目録と一緒に僕ら兄弟それぞれに宛てた手紙が出てきた。

手紙にはたくさんのことが書かれていたけれど、最後に母は「あのときはほんとうにごめんなさい。本当はあんな言い方をするつもりはなかったのだけれど、でもああするしか後押しする方法が思いつかなかった。もっと良いやり方があったはずだった、とずっと後悔してきた。許してほしい」と書いていた。

弟と二人で黙って手紙を読み終えた。

もう何年も経っているはずなのに、読み終わった瞬間だけ、母から真実を告げられたとき居間空気が蘇った気がした。

手紙を畳んで封筒に戻し、母の字を指でなぞってみる。

さらどうこう言葉を返すこともできないし、「許す」とか「ありがとう」とか、定型感情仕舞うには少し足りない。

ただ一つだけ、あの時の言葉も、背中を押してくれた母の決断も、全部含めて「ああ、これが自分人生なんだ」と思った。

それからしばらく、遺品の片付けや事務的手続きで走り回った。

弟は何ひとつ文句も言わず淡々必要作業を進めていった。

台所に残った母の急須、寝室の押し入れにしまってあった古いアルバム、引き出しに片付けられた未使用封筒

物だけが淡々と残っていて、思い出も物語も、特に感傷に浸ることもなく過ぎていく。

東京に出てからの母とのやり取りをふと思い出す。

電話越し、それとなく気遣う言葉、たまに肩の力が抜けたような笑い。どれも普通だ。家族だった。

親子の物語なんて結局あとづけでしかなくて、たまたまそこにいただけ、という感覚けがじっと残る。

母がいなくなって、名義変更相続…そういう現実的な事だけが膝元に転がってくる。

結局、人が何をしても、ただ、その都度、選んだ結果だけがかに積み上がっていく。

今も自分音楽仕事をしている。

東京暮らしながら、弟とは以前ほど頻繁に会うこともなくなったけれど、あの家族物語以外、特別ドラマは何もなく、それで充分だと思う。

Permalink |記事への反応(2) | 20:13

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