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2025-09-27

箸を削る

窓辺の埃に陽が差す午前中、

作業場のすみに山盛りになった桜の端材を前に、

少し途方に暮れていた。

どんなに木目を見比べても、

結局は削ってみなければわからないのだ。

木は時にこちらの期待も予想も裏切ってくる。

節が隠れていたり、突然中が空洞だったり。

けれど、手を動かすうちにその想定外が楽しくなってくることもある。

父もそうだった。

お前も、いろいろ期待されたり、

世間から「これを極めろ」「これをつづけろ」

ってよく言われるようになるだろうけど、

最後は使い切られるためだけに磨かれる、

そんな割り箸でいいんだ。

そう呟かれ、返答もできずにただ、

作業場の襖の染みを眺めていた記憶がある。

箸を作る工程は地味で孤独ものだけれど、

ときどき誰のためというより、

なぜこの手間に意味があるのか?と混乱する日がある。

一本一本手で削る。

それだけで大量生産の箸の何百倍も時間がかかる。

そのくせ、仕上がった箸は「使い捨て」として高級料亭特別な席へ流れていく。

あっという間に忘れられるためにここまで手間をかける贅沢が注文されていると気づき始めた頃、自分のなかの割り切れない感情ぼんやりと煙のように工房に漂いだした。

時折、削った木屑を集めて外に出ると、

朝の匂いが混じった風の冷たさにほっとする。

毎日同じ景色では藪の匂いも、

木の声もわからなくなってしまう気がして、

それでもここに留まり、ひたすら削り続けている。

形になった箸を指ではじくたび、

なぜか胸の深いところがじわっと熱くなる。

「誰かの手に渡る瞬間」

それだけを思い描いて、もう少しだけ木を細くする。

完成品は、どこか自分輪郭と少しずつ混ざり合って、

やがては台所の音や、

誰かの笑い声のなかですっかり溶けてしまう。

使い切って捨てられるための贅沢な割り箸が、

積み重なる木のくずと同じくらい大切に見えることもある。

どこかで今日も、

ここで削られた一本が静かに誰かの口元まで運ばれて、そして、何事もなかったように消えていく。

それでいいのだろう、と考えつつ、

また明日機械油と新しい木肌のなかで一日を始める。

Permalink |記事への反応(0) | 06:13

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