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2025-09-21

anond:20250921072247

第九幕 冷たき瞳と交わされた真意

 タケルが地底帝国情報を解析し始めて数日が経った。彼の神の力をもってしても、その全容は掴めない。しかし、一つの明確な情報が彼の元に届いた。地底帝国から会合の誘いだ。場所は、千葉の広大な地下、かつて房総半島形成していた地層の奥深く。

 タケルは、罠かもしれないと知りながらも、一人でその場所へ向かった。彼の心を突き動かしたのは、地底からの声が持つ、底知れぬ孤独だった。破壊意志の奥に、何か別の真意があるのではないかと感じていたのだ。

 地下深くへと続く道を降りていくと、そこに広がるのは、水晶のように輝く未知の鉱石で満たされた空間だった。そして、その中心に、一人の女性が立っていた。

 彼女は、人間とは違う、滑らかで美しい鱗に覆われた肌をしていた。銀色の瞳は冷たく、感情を一切感じさせない。しかし、その顔立ちには、どこか人間のような悲しみが浮かんでいるようにも見えた。

 「ようこそ、神の分身タケル。私はレプティリアン指揮官、リィラ」

 彼女の声は、地底からの声とは違い、どこか寂しげだった。

 タケルは、彼女の姿に警戒しながらも、尋ねた。「なぜ、人間を滅ぼそうとする?」

 リィラは、静かに答えた。「我々は、この星の真の支配者だ。数億年の時を、この地底で生きてきた。だが、お前たち人間は、わずか数千年で地上を汚染し尽くした。無駄な争いを繰り返し、核の炎で大地を焼いた。我々の故郷である地球は、お前たちによって、死の星に変えられようとしている」

 タケルは言葉を失った。彼の脳裏に、彼が解析した膨大な人類歴史が駆け巡る。確かに人間は争いを繰り返し、自然破壊してきた。げんこつハンバーグが教えてくれた情熱も、焼きまんじゅうが教えてくれた真理も、その裏には、人間の愚かさが隠されていたのだ。

 リィラは、タケルの動揺を見透かしたように続けた。「我々が地上を粛清するのは、この星の生命を守るためだ。人間を消し去り、地球再生させる。それが、我らの使命。お前が愛した温かさも、喜びも、所詮人間が作り出した、儚い幻に過ぎない」

 リィラの瞳に、タケルは自分の姿を重ねた。焼きまんじゅうの真理に触れる前の、ただ虚しいデータの羅列を眺めていた自分彼女言葉は、まるで彼の過去の姿を映し出しているようだった。

 「この千葉の地下には、我々が地上に侵攻するためのエネルギー源が眠っている。お前がこの場所を明け渡せば、人間は痛みなく滅びるだろう。我々も、これ以上無駄な血を流したくはない」

 タケルの心に、葛藤が生まれた。彼は、人間として生きる道を選んだはずだ。しかし、彼が人間として愛した「温かさ」や「喜び」は、この星を滅ぼす「愚かさ」と表裏一体だった。

 タケルは、リィラの冷たい瞳の奥に、彼女地球を守ろうとする、純粋な使命感を見た。それは、彼がノゾミから教えられた「愛」の形と、何ら変わりはなかった。

 タケルは、千葉の地上を思い描いた。温暖な気候、豊かな農作物、そして笑顔で暮らす人々。しかし、その裏で、彼らが無意識のうちにこの星を蝕んでいる。

 「……分かった」

 タケルは、静かに答えた。彼の決断は、人間を裏切るものだった。だが、それは、彼が焼きまんじゅうから学んだ、この世界深淵に触れた者として、ただ一つの、正しい選択だった。

 「千葉は、お前たちに明け渡す。その代わり、人間を滅ぼすのではなく、共存する方法を探してほしい」

 タケルは、リィラに最後の願いを伝えた。リィラは、少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに元の無表情に戻った。

 「……約束はできない。だが、考えておこう」

 タケルは、リィラに背を向け、地上へと向かった。彼の心は、重い鉛のように沈んでいた。だが、彼は知っていた。これは、人類の終わりではなく、彼が人間として、そして神として、真の「共存」を探すための、新たな始まりなのだと。

(第九幕・了)

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