■消えた名の帳
パルセアの地で、選びの日を前に、奇妙な出来事が
続いた。
声を掲げる者たち――力強き国を取り戻せと
叫ぶ一群の担い手が、
一人、また一人と姿を失っていった。
二度、三度、やがて六度。
名が消えるたびに、広場の空気は重く沈んだ。
役人は言った。
「自然のことにすぎぬ」
けれど民は囁いた。
「偶然にしては重なりすぎる」
「見えぬ手が選びの日を覆っているのではないか」
紙は刷り直され、新しい名が記された。
だが人々の胸には、消えた者たちの影と、
不意に芽生えた疑いが残った。
――これはただの偶然か。
――それとも沈黙の奥で、誰かの意図が
潜んでいるのか。
答えのない問いだけが、街を覆い続けていた。
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