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< anond:20250907154006 |■ >

2025-09-07

シークレットシューズを買った話

先日、とうとうシークレットシューズを買った。

いや、正確に言うと買わざるを得なかったというべきか。

相場はだいたい1万5千円前後

安いのは7,000円くらいである。高いのは3万円台に突入する。

素材やらインソールの仕組みやらで値段はけっこう上下する。履くだけで5cmとか6cmとか、場合によっては8cmも身長が盛れるものもある。

ところで俺の身長167cm。

日本人男性の平均よりやや低いくらいだ。

正直これまでの人生、そこまで気にしていなかった。電車に乗れば俺より低い男もいるし、女の子と並んで歩いてもそこそこバランスはとれていた。

でも"そこそこ"なんだ。

「高い」と言われることは一度もなかった。

ことの発端は婚活パーティーである

会場はどこにでもあるホテルの一室。

テーブル料理、立食形式、軽いアルコール

みんなでワイワイやるというより、自己紹介タイムをひたすら繰り返す修行僧のようなイベントだった。

俺はプロフィールカードに「趣味映画」「特技:料理」なんて、まあ無難なことを書いていた。

隣にいた女子推定27歳、白いワンピース)が、プロフィールを見ながらニコッと笑った。

「あ、私も映画好きなんです」

これは行ける、と思った。

俺は胸を張り、椅子から立ち上がろうとした。

その瞬間、彼女視線が一瞬だけ俺の下を通り過ぎた。

──俺は感じた。

あの下に見られた感覚を。

チラッとつま先から、脚を、膝を、腰を通り過ぎて、上に戻るまでの数秒。

彼女の目は無意識身長を測っていた。

そして小さく「……」という沈黙があった。

笑顔は崩れなかったが、あれは明らかに査定だった。

心臓がドクンと鳴った。

俺はその後、何を喋ったのか覚えていない。

気がついたら別の相手に流れていた。

帰り道、電車の窓に映る自分の姿を見て思った。

低いな、と。

いや今までも分かっていた。でも明確に女性評価された瞬間として突きつけられると、まるで違った。頭から劣等感が落ちてきた。

すぐさまネットを開いて「シークレットシューズ おすすめ」「身長 盛る バレない」とか、検索した。カタカタカタッと素早く打ち込むたびに、胸の奥に渦巻く感情がぶつかる。

レビューを読み漁る。

「履くだけで5cm伸びました!」

「友人に気づかれなかった!」

「自信がついて堂々と歩けます

──そう、自信。

結局のところ必要なのは自信なんだよ。

俺は婚活で悟った。内面とか誠実さとか、そんなもんは二次評価

一次審査は"見た目"なんだ。

俺は通販ポチった。

1万6千円の黒革のシークレットシューズ

商品ページには「バレにくい自然デザイン」「履き心地に優れたインソール」などと書いてある。

到着を待つ三日間は長かった。

ピンポーン。

宅配のお兄さんが持ってきた箱を受け取った俺は、バリバリと包装を破った。

革靴特有匂いがフワッと漂う。

中敷きを触るとググッと沈む。

高さを測ると約6.5cm。

俺はこれを履くだけで173cmに届く。

鏡の前に立つ。

スッ……。

履いた瞬間、世界の見え方が変わった。

天井が少し近い。ドアノブ位置が低い。

そして何より、鏡に映る自分の姿が違う。

「……高ぇ」

その一言しか出なかった。

そのあと試しにコンビニに行ってみた。

自動ドアを抜け、適当に何か持ってレジへ。

バイトの兄ちゃんと目が合った。

「いらっしゃいませー」

その声は普段と同じだが、俺の気分は全く違う。

俺の方が高い、という錯覚

いや、錯覚じゃない。実際に高い。

わずニヤケそうになった

外に出るとカツ、カツと革靴の音。

心なしか響き方が違う気がする。

歩幅が広がった。胸を張れる。

これだよ……これなんだよ……

婚活で下に見られた悔しさは、まだ消えていない。

でも次に出会う誰かに同じ目を向けられても、俺は6.5cm高い場所から笑っていられる。

シークレットシューズは俺にとっての武器だ。

女性にとっての化粧と同じ。

戦場婚活なら、俺は鎧をまとって挑むまで。

俺は今、6.5cmの未来を歩き出したのだ。

Permalink |記事への反応(1) | 15:54

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記事への反応 -
  • ほんと。女性にとっての化粧と同じだと思った。婚活頑張ってね。

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