メロスは激怒した。深夜三時、最寄りのコンビニに駆け込んだのに、唐揚げ棒が売り切れていたからである。
「なんたる不条理」
メロスは叫んだ。
腹を空かせたメロスは、レジ横のケースに残るコロッケをつかもうとした。
「すみません、今揚げたて出すんで、七分ほどお待ちいただけますか」
七分。メロスにとっては永遠にも等しい。友のセリヌンティウスが家で待っている。今夜一緒に酒を飲み、唐揚げ棒をつまむ約束をしたのだ。
「裏切らない。必ず唐揚げ棒を手にして帰る」
メロスは自らに誓った。
だが道のりは険しかった。
コンビニの隣には深夜特有のカップ麺の誘惑。さらにATMの前にはなぜか行列。アイス売り場には半額シールが貼られたガリガリ君。心は揺れる。
「いや、私は走る。走ってセリヌンティウスのもとへ」
信号に阻まれ、深夜テンションの若者に絡まれ、ペットボトルの蓋を落とし、それでも走った。
やがてメロスは息を切らせて友の家に到着した。
「メロス、遅かったな」
「約束は守った。熱いうちに食べろ」
それ斜陽貴族の使いっ走りだよね。