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< anond:20250829104936 |anond:20250830110733 >

2025-08-30

「『鍵』はその第一回が雑誌に発表されたときから、その大胆な性の叙述が大きな反響を呼んだ。議会でさえ問題とされ、谷崎氏は執筆途中に聞こえてくる俗論の渦に、大いに悩まされた。(略)

第一ここには、生きた具象的な人間は、ただ一人も書かれていない。ここには四人の男女が登場する。そのうち、主人公木村とは、京都のある大学教授と書かれているが、彼等の教授らしい言動が、ただの一つも書いてあるわけではない。(略)

この小説には、五十六歳の夫と四十五歳の妻との日記が交互に現れ、組み合わされている。それは表向きは秘密日記で、その隠しどころに二人とも苦心を払っているのであるが、それが相手に読まれることを始めから考慮に入れ、しかも読んだということをいささかもそぶりに出さないことを期待している。そして書いて行くうちに、それは読まれることを望むようになり、自分欲求の暗黙のうちの伝達方法となり、また相手欲求自分の望むようになり目覚ませるための手段となる。さらにそれは、相手を欺くための手段となり、相手破滅させる企みがこの手紙の中に仕組まれるに至る。

愚かしい、あるいは陰険権謀術数が、この日記によって戦わされるのだが、それは彼等の心の動きによるものでもなく、彼等の性の欲求によっている。彼等は自分感情思想も、それに係りあるすべての生活も、すべて作者に預けてしまって、その抽象化された性本能を主軸として動かねばならない。完全に自分の性本能傀儡と化すという、抽象的な役割が、彼等には課されているのである。」

『鍵』解説 より

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