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2025-08-28

ご飯は右に置くのだ

スープカレーというやつは、まったくめんどうな料理である普通カレーなら、一皿に盛られて、そこへスプーンを突っ込めば事足りる。ワンアクションで完結する。だがスープカレーは「ご飯スープ別にしました」と胸を張って二皿に分けてくる。客に「ご飯は右か、左か」という人生相談のような難題を突きつけるのである

私は断然「ご飯は右」派である

具だくさんのスープを、正面にどんと置く。そこに箸……いやスプーンを伸ばして、ご飯を少しずつ浸して食べる。

まりご飯は「シチューに添えられたパン」のようなものだ。パンをわざわざ左に置いて「どうぞ主役です」なんて扱う人がいるだろうか。パンは右にちょこんと待機していて、必要ときスープに浸される。それが自然立ち位置だ。ご飯もまたそうあるべきだ。

からスプーンご飯をすくい、左のスープに浸し、そのまま口へ。これは三段跳びである。「ホップご飯)、ステップスープ)、ジャンプ(口)」と見事な一直線。新幹線のぞみのように、東京から新大阪まで一直線に走り抜ける気持ちよさだ。

左にご飯を置けばどうなるか。スプーン右往左往し、テニスラリーのように振り回される。食事なのかスポーツなのかわからない。

先日、店でのこと。店でまず、ご飯が先に配膳された。左の後ろから、手がすっと伸びてきて、しか一言もなく皿を置いた。私はびっくりした。普通は「ご飯です」とか声を掛けるだろう。無言で左に置かれたご飯。これは完全に左派の動きである

そこで私は黙って、すーっと皿をご飯の正しい位置=右へと寄せなおした。すると、しばらくして右後ろからまた忍び寄る気配。スタッフスープを持ってきて、右手の視界にひょいと差し入れた。だがそこはすでにご飯の陣地である。そのときスタッフはにやりとして、「右派でいらっしゃいますね」と言った。まるで政治的立場確認されたようで、こちらも思わず苦笑した。

その通りである。私は右派だ。

スープが正面、そしてご飯シチューパンとして右。これがスープカレーにおける正しい秩序である

東海林さだおエッセイAI作成


左派作法

スープカレーの店でのことだった。

まず、ご飯が先に運ばれてきた。後ろからすっと伸びた手が、無言のまま私の左側に皿を置いた。その仕草があまりに静かで、少し驚いた。普通なら「ご飯です」とひと声あるものだと思うのに、何も言わない。ただ、すっと置かれた。

やがて、スープがやってきた。今度は右の後ろから忍ぶようにして器が置かれる。スタッフは軽く笑みを浮かべ、「ご飯左派でいらっしゃいますね」と言った。冗談めいていたが、どこか確かめるような声音でもあった。

私は頷きもしなかった。ただ、左に置かれたご飯をそのまま受け入れた。子どものころから、母に「ご飯は左、汁は右」と教えられてきた。あの台所の湯気や、夕餉の匂いとともに、自然と身についた習慣だ。

夫や子どもなら、食べやすいからと右に寄せてしまうだろう。けれど私にとっては、食べやすさよりも落ち着きの方が大切だ。左にご飯があると、食卓景色がきちんと整う気がする。

あの日の静かな配膳は、私のなかの小さな確信を映していた。ご飯はやはり左にあるべきだと、そう思わせる一瞬だった。

向田邦子エッセイAI

Permalink |記事への反応(0) | 15:22

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