でもそのあと色々あって結婚したわけやけど…どうして結婚できたのかは正直わからん。でも自分が少し変わったからやないかと思ってる。
あれはもう八年も前のことやけどおっちゃん、寂しかったんや。孤独やったし友達も四十を越えると正直連絡なんて滅多にない。
おっちゃん、仕事帰りに立ち飲み屋で一人飲んでてな。たぶん飲みすぎたんやと思う。酔っぱらって、でも心地は良くて、そのときなんとなく自分の人生を振り返った。
自分は昔から真面目。といってもそれは単に小心者なだけで、真面目にしとったら楽やということを本能的に知っていたんだと思う。学生時代に恋人が居たこともない。社会人になっても同じ。飢えていた癖に自分からは行動を起こさない。そんな人間やった。
でも、心の何処かでは待っていた。誰かがいつか自分に告白してくれるのを。
おっちゃん、いつも待ちやった。悩みがあったら誰かに聞いてほしい。疲れたから労ってほしい。四十にもなると部下も居るのに、情けないことにそれでも「救う側」やなくて「救われない」って、いつもそう思ってた。
酔っぱらって自分も振り返ったとき、アホらしいって思た。四十過ぎのおっさんが乙女みたいに「救ってほしい」って待ってるのきしょいわ!って思えて。それに彼女も居らんし人徳もない。もう失うもんなんてなんもない。そう思うと妙に吹っ切れた。酔っぱらって千鳥足での帰り、ホームレスのおっちゃんに千円渡した。今までの自分では考えられんことやった。お酒で気が大きくなってたのもあるけど、でもそのことははっきり覚えてた。今でも覚えてる。
おっちゃん、びっくりしてて笑えたわ。
それからもうどうでもええやと自分を飾るのをやめた。独身で金は余ってたから仕事終わり、部下や同僚を飲みに誘うようにした。お金は全部こっち持ち。最初は気味悪がれたりもしたけど、何度も飲みに誘って何度も飲むと打ち解けた。全部金はおっちゃん持ちやしな(笑)
そしたら次第に部下がおっちゃんに相談するようになった。最初は仕事の話とか、でも次第にプライベートのこととかも聞くようになって、おっちゃん正直人生経験浅いから何て言っていいかわからん。だから熱心にうん、うん、て頷いて、最後に労いの言葉ひとつをぽつりと口にする。あとはまぁ飲め飲めと毎日のように無礼講を繰り返した。
すると不思議なもんでおっちゃんの周りには人が集まってきた。職場であれほど寡黙だったおっちゃんが部下に話しかけてはちょっとしたことで盛り上がる。部下も同僚もこれまでには事務的な会話一辺倒。でも飲むようになってからは向こうから話しかけられることも多くなって、挨拶しか口を聞かなかった同僚がおっちゃんを昼に誘って一緒にご飯に行くことも度々。
そんなこと面と向かって言われるとなんかこう…むず痒いという…ね(笑)
でもおっちゃんは別に学があるわけでもないから相手の話をちゃんと聞いて励ますことぐらいしかできない。あとは飲みに誘って奢るだけ(笑)
そんな風になって過ごしていたある日。中途で入ってきた女性がいる。えらい美人さんで、一応直属の上司がおっちゃんだから直接話すことも多かった。
あれだけ美人だと社内でも話題になって、でも声を大にするわけやないよ。ただ飲みの席でひとしきり酒が回った後で可愛いよなぁって盛り上がるような。すると当然好きになったというのも出てきて、おっちゃんさん何とかしてくれませんか?と相談された。おっちゃんは別にコミュ強でもないし、あんな別嬪さん相手にすると本当はのぼせてて目もろくに見れてない。でも頼まれたし、酔いも回ってたし、いい奴なので嬉しかった。
だからおっちゃん歓迎会のようなものを開くことにして、頑張って例の女性社員も飲みに誘った。出来ることと言えばその彼女と例の部下の席をとなりにすることぐらい。あとは自分で頑張れよ。
それから数ヶ月、飲みの席で急に実は付き合ってます!というんだ。おっちゃん流石に驚いてしまったんだけど、その経緯はまぁ省略するとして(流石にプライベートなことやし)とにかく喜ばしいことやった。他人のことでこんだけ「おめでとう!」って心から喜べたのは自分でも意外やったし、それが嬉しかった。
結局二人は結婚することになって、その式で出会ったのが今の嫁さん。だから縁というのは不思議なもので…ね。
今日、ちょっと自分が結婚していることを感慨深くなることがあって(何かは秘密)、それで今、お酒を飲みながらこれを書いてみた。
改めてみてもおっちゃんが結婚できたのは(それも一回りも下の相手と!)ラッキーやったと思う。
ただ、おっちゃんは待つのをやめた。それに構ってもらうのも。おっちゃんは白馬に乗った王子さまにはなれんかったけど、でも白馬に乗った王子さまを待つお姫様であるのはやめられた。それが大きかったんやと思う。
おっちゃんは未だに頼りないし、お腹も出てるし、頭がいいわけでもない。
けど嫁さんのことは誰よりも愛してる。
幸せにな
あんたもな
こんなうまい話は創作にしか思えないやで