女性の理系進学を促そうという風潮がここ数年高まっている。自分が所属している大学でも、高校生向けのアウトリーチプログラムをやったり学部の女性向けの懇談会を開催して女性が過ごしやすい雰囲気を醸成しようとしている。しかし、そういった取り組みをする以前に、今現在理系に進学している層を確実に取り逃さないようにする必要があると思う。
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まず、今の時代理系に進学するメリットはほぼないといっていいと思う。
理系の魅力といえば就活の安定感が真っ先に上がるが、人手不足の現代においては文系に進学しても就職に困るといったことはさほどない。実際、文系に進んだ同期たちは売り手市場をフルに活用し悠々と内定を勝ち取っていった。そうなってくると、10代後半から20代前半の最も感受性が豊かな時期に青春を犠牲にして勉学に追われ、いざ就職してもメーカーで地方勤務になる確率が高く、また(理系に進学する学力があれば)文系に進んで得られたであろうキャリアパスと生涯賃金はあまり変わらず、なんなら修士の2年分社会に出るのが遅れるという、数多のデメリットを打ち消すだけのメリットが理系進学には無くなってしまう。そういう意味で、人手不足の現代においては理系は「コスパの悪い」選択肢になっていっていると感じている。文系に進めば大学四年間で思いっきり羽を伸ばせ、普通に就職して東京勤務も望めるというのに、高校生がわざわざ理系に進む理由があるとは思えない。また、理系の魅力を語るときに「理系は面白い」という常套句がよく使われる。しかしそれは、現実的な人生のコストという面で文系に完全に劣っているが故に、感情に訴えかけるしかなくなっているとも見ることができる。「払うべき報酬の大半をやりがいで払っている」アカデミアの構造が、受験生の層にまで降りてきているのである。
理系に対する扱いが見直されない限り、理系進学は今後ますます「コスパの悪い」選択肢になっていくと思う。そんな時に、悠長に女性の理系進学どうこうといっている場合だろうか。まずは今現在理系に進学してくれている層を確実に取り逃がさないための取り組みをするべきなのではないかと思っている。
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