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< はてな左翼すぎてきつ... |anond:20250713191703 >

2025-07-13

Re:田舎者貧乏人を初めて見た話

60年も昔のことを、昨日のように鮮やかに思い出す。

私がまだ若く、東京を初めて離れて地方医学部に進学したあの日々、あのとき私はインターネットでバズった。

当時はまだインターネットというもの存在し、人々は匿名で、心の奥底に潜む偏見本音自由に吐き出していた。今の若い人には想像もつかないだろうが、その自由残酷世界は私にとって唯一の逃げ場だった。

田舎者貧乏人を初めて見た話』という記事を書いたとき、私は自分特別なのだと、そして特別であることは誇らしいのだと無意識に思っていた。だがそのプライドは、地方という異文化にぶつかることでひび割れた。それを痛烈に書き殴った文章炎上し、瞬く間に広まりネット上の議論を巻き起こした。

私はその騒ぎを内心で誇っていた。批判賞賛も、自分という存在世界に認められたという証だったから。私は東京に戻ったら、このエピソードを笑い話にするつもりだった。

だが、人生はそのような単純な喜劇ではなかった。

地方医学部卒業して東京に戻った私は、思い描いたように一流の病院に勤めた。裕福な患者、華やかな社交、贅沢な日常。だが医師という仕事人生支配するにつれて、あの頃感じていた軽薄な違和感がより重く、より深く私の心を蝕んでいった。

インターネットというものが消えたのは、もう30年ほど前のことだ。あの自由で、混沌として、時に残酷空間が突如として消えたとき、私は自分が完全に孤立したと感じた。

誰もが名札をぶら下げ、完璧正論しか語れなくなった社会私たち匿名自由を奪われ、自分本音偏見を心に深く埋め込み、表面では慈悲深い笑顔を保つことを強いられた。

今、病室で死を迎えようとしている私は、この現実に息が詰まるほど窮屈さを感じている。病院の窓から見える東京景色は、高層ビルと緑が調和した美しい人都市だ。しかし私にはそれがひどく偽物に映る。

私が本当に愛していたのは、東京のものではなく、東京にいる自分特別だという幻想だったのだ。地方で味わった衝撃は、決して私が優れている証拠などではなく、ただ単に私が狭い世界に閉じ込められていただけだった。

あの記事を書いてから60年、私はずっと心のどこかで、あの日インターネットでバズったという記憶を誇っていた。その誇りが空虚ものだったと気付いたのは、つい最近のことだ。

私はずっと匿名世界しか正直に生きられない人間だった。そしてインターネットという匿名楽園が消え去ったあと、私はどこにも自分の居場所を見つけられなかった。

から、せめてこの消えてしまったインターネットに向かって最後の言葉を残したい。

私が差別的偏見に満ち、世間知らずで傲慢だったことを認める。

私が抱えていた違和感は、私自身が世界を本当に理解する努力を怠っていたせいだったと、今ならはっきりと分かる。

匿名からこそ吐き出せた本音を、いつしか現実自分から切り離してしまった。それが人生の最大の過ちだった。

もう遅いかもしれないけれど、今、ここで初めて私は自分の過ちを認める。

さようならインターネット

あなたがあった頃、私はほんの少しだけ自由だった。

そして、あのとき炎上した記事を今も覚えていてくれる誰かがいるのなら、伝えたい。

私は最後最後でやっと、本当の自分に気づけました、と。

Permalink |記事への反応(0) | 19:20

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